第2話 魅了の魔法のせいで婚約破棄を忘れていました

「魅了を解いた途端に婚約破棄をしようとするなんて……あれほど、俺が好きだと言ってくれていたのに」


「それは、魅了のせいですよね!?」




魅了の魔法にかかっていたせいで婚約破棄をしようとしていたことをすっかり忘れていた。……それどころじゃない!!




断罪イベントは!?


一年前くらいに、殿下の婚約者選びの夜会で、毒殺されそうになったヒロインをリュディガー様が助けて、颯爽とヒロインを夜会から連れ出したはず!


それから、ヒロインとリュディガー様の仲が深まり、断罪イベントへとつながっていた。毒殺しようとしたのは、悪役令嬢の私__クリスティーナだったからだ。


そして、その日にヒロインとベッドインするはずでしたよね!?


そんな気がする。




でも、リュディガー様はその日にヒロインとベッドインしてないような気がするし、私はリュディガー様を追い回していたから毒殺をしてないどころか準備すらしてなかった。


そもそも、そんな恐ろしいことは私にはできない。




年々前世の記憶が薄れていたのに、魅了の魔法にかかっていたせいで、この一年で前世の記憶がさらに乏しくなっている。すでに自分の前世での名前すら思い出せない。小説の中の悪役令嬢で断罪されることは覚えているのに!




「クリス。聞いているのか?」


「リュディガー様……聞いてます。すぐに帰って婚約破棄も承諾します」


「全然聞いてないじゃないか。魅了にかかっている間は、リュディガー様と言って、いつも側にいてくれたのに……」


「だって……それは、魅了のせいです! そもそも、どうしてそんな魔法を私にかけるんですか!? いつもリュディガー様は、ヒロ……じゃなくてマリアンナ様と一緒にいましたのに」




ヒロインは確かマリアンナ様だった。いつもリュディガー様といたのはマリアンナ様だったし、この人がヒロインだと今の私は認識していたはず。




「あぁ、そうだったね。でも、彼女が好きだとは一度も言ってないはずだ。それなのに、クリスは宮中の夜会で、殿下に近づこうとしたのはいただけなかったね」




なぜそれを!?


秘密がバレて身体がびくりと揺れると同時にリュディガー様がさらに迫ってくる。こんなにも密着されると思考がまとまらなくなる。




「ど、どうしてそれを……」


「一年ぐらい前に、クリスの部屋で逃亡計画書を見つけたんだ。とんでもない事ばかり計画していて背筋が凍ったよ」


計画書には、田舎への引っ越しを企んでいることや、それが出来ないなら、次のプランとして王太子殿下に一夜の過ちでも起こしてもらおうと密かに考えていた。


王太子殿下なら、リュディガー様も手が出せないはずだし……リュディガー様は、無駄に身分が高いから、相手にご迷惑にならないようにと考えてのことだった。




一年前の宮中の夜会での私の本来の目的は、いまだ婚約者のいない王太子殿下が密かに気にいった令嬢を探すもので、私は一夜の過ちを願っていた。それと、その夜会で起こるヒロイン毒殺未遂事件が起きないためにするものだった。殿下といれば、私が毒殺事件未遂事件など起こせないし、ヒロインは安心してリュディガー様に口説かれるはずだったのですよ!




しかも、夜会は、貴族たちの出会いの場でもある。その宮中の夜会なら、王太子殿下に近づける唯一のチャンスだった。


夜会でヒロインにかまっている間に、王太子殿下に一夜の過ちをお願いしようと考えていたのに……!




本来なら、その夜会でリュディガー様とヒロインが仲を深めて、その後、私は婚約破棄をされてヒロインをいじめた罪と毒殺未遂事件を起こした罪で牢屋行きだった。その牢に送られる途中で事故に合い悪役令嬢は退場! という筋書きだった気がする。


細かいところがあやふやなのは、このリュディガー様のせいだ!!


一年前は、もう少し覚えていたのに!!




「でも、どうして私の部屋に……どうやって見つけたのですか?」




むしろ、勝手に入らないでほしい。




「簡単だね。クリスの邸のメイドにお願いしたら、すぐに案内してくれたよ」


「それは、色仕掛けです!!」


「使えるものは使う主義なんだ。クリスは俺のことを知っているだろう?」




メイドめ! 


邸の住人を売るとは!?




リュディガー様も、こういう人だ。自分の顔が良いことをよくわかっている。


むぅっとした表情で思わずリュディガー様を睨む。勝手にメイドを買収しないで欲しい。


知らないうちに部屋に入られるなんて怖い。




「あぁ、言って置くけど、何かを調べるために部屋に行ったわけではないよ。クリスを待っていようと思って部屋に行っただけなんだ。その頃のクリスは、ずっと何かを調べていたり、俺を避けていたからね……どうしてなのかと、話そうと思って行ったんだ。そしたら、メイドが『クリスティーナ様は部屋で何かをしている』と言ってノートを教えてくれたんだよ」




余計なことを言わないで欲しい。お茶を持ってきたりしていたから、ノートの中身は知らなくとも、私が何かをしていた事は知っていたのだろうけど……リュディガー様と少しでも話したくてただ世間話で言った気がする。それくらいリュディガー様は邸のメイドたちにも人気なのだ。













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る