荒れた別荘地
「祖父が死んでから管理する人がいないと聞いていたから。」
「荒れてるだろうなとは思っていたが、まさかここまで荒れているとは...」
「こんな惨状だったらまだまだ現役で軍務に就いていたほうが良かったかもしれないな...」
荒れ果てた別荘地に入ってからの彼はずっとこんな調子で独り言を言っている。
恐らくさみしいのであろう。
「おや?」
別荘を前に立ち尽くすハザードの前に黄金の毛色の狐が佇んでいる。
非常に綺麗な、艶をもつ毛並みを持つそれは、誰かが執念深く手入れをしてあげているのだろうとハザードは判断した。
しかし、もしそうだとしたら誰が?
祖父も祖母も遠く昔に他界しているから誰も住んでいないはずだ。
だとしたら何か盗人か、妖精やらなんやらと言った魔の者か。
フードを脱ぎ、ローブの、ちょうど心臓の辺りにある内ポケットならぬ内杖ホルダーから大体20cm弱の小さな杖を取り出し、それをじっと見つめて、それから狐をもう一度見た。
狐はその一連の動作が終わったことを確認したのか、踵を返して館の方に歩き始めた。
ハザードがただ狐を見て立ち尽くしていると、その狐はハザードの方に目線を移し、まるで「ついてこい」とでも言うようにハザードを睨みつけた。
「分かったよ、行けばいいんだろういけば。」
小走りで狐の元にやってくるハザードをみて、狐は満足そうに歩みを始めた。
狐とハザードの向かう先はこの別荘地の中でも一際目立つ大きな館で、ダークブラウンの木材で出来ている存在感の強い建物だ。
「あそこで祖父は暮らしていたのか...」
その大きな館をみて、どうして老夫婦が暮らすだけにこんなに大きな建物を作ったのか?と一抹の疑問が浮かんだが、きっとそれも、あの館の中に入れば分かるだろうということで心の奥底にしまっておくことにした。
背の高いイグサが繁る庭をかき分け、何とか狐を見失わないように進んでいった先にようやく館の玄関までたどり着いた。
銀のドアノブと、雨よけと、白い大理石か何かの柱と、こんなにボロボロになってさえいなければきっと荘厳なカッコいいものだったんだろうと考えると少し残念だ。
昔一度だけここには来たことがある。
ずっと幼い頃だったのであまり覚えていないが、祖父は朗らかで気前のいい人で、祖母は穏やかで優しい人だったことを覚えている。
そんなことを色々と考えながら銀のドアノブに手を伸ばすと。
ふと、ドアノブが捻られた。
何者かが内側からドアを開けようとしているのだ。
右手に握りしめた杖をドアの向こう側にいるであろう何者かに対して突きつけ、同時に一歩後ろに下がる
握った杖に力を籠めると、杖が蒼白い粒子を纏いだす。
それを一瞥したハザードは、再び玄関を睨みつけ、身長に、忍び足で玄関に近づいていく...
そして、ドアノブに手を伸ばそうとしたその時だった。
ガチャっと嫌な音がした...
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