第7話「頂上決戦」

 黙祷めいた沈黙が場を圧していた。あたかも丘全体を覆う影が、ふたりの生ける伝説の心にも影を落としたかのようだった。

「あたしが、その……わ、悪かったわ?」

「……」

「あんたが『男子校が全部悪い』っていったとき、『ほんとにそうなのかな?』って思っちゃってさ……前提を疑っちゃったのよ。天才のサガっていうか……」

「……」

「まさか、あいつがあんなこというなんて……いや、ちょっとは予想してたけど。だ、だってほら、これってそういう戦いじゃない? あんたの願いの源流を断てるかも、なんて……しょ、しょうがないでしょ!?」

 ジニーは説明だけではなく、謝るのも慰めるのも下手だった。いずれも、これがはじめての経験であったからだ。さらにいうなら、無視されるのもはじめてだった。ガンケインはジニーの心を尽くした――彼女なりにではあるが――慰めの言葉を聞いているのかいないのか、うつぶせに倒れたまま微動だにしないのであった。

 ジニーは苛々してきた。そして、はやくも鼓舞に脅し文句をおりまぜた。

「もう、元気出しなさいよ!? 願いはどうしたの!? あたしが願っちゃうわよ!?」

「もう、いい……」

「でしょ!? だからさっさと起きあがって……え?」

 ジニーは耳を疑った。いま、ガンケインはなんといったのか? 彼が倒れていることもあってか、地の底から響いてくるような声であったが。

「ちょっと……冗談でしょ? 負けを認めるっての? あんた、不屈じゃなかったの?」

「負けは認める。しかして、わたしは不屈だ」

 戸惑ったような半笑いの確認にも、ガンケインはいつもどおり真面目腐って答えた。半壊してなお命令に従うゴーレムのように、ぎこちなく起きあがりながら。

 しかし、兜のスリットの奥の目は、意外にも濁っていなかった。むしろ、井戸の底の水面のように凪いで澄みわたり、ただ外の光を受けて輝いていた。

「きみはなにも悪くない。むしろ、きみのおかげだ。あの男のいうとおりだと、認めることができた……きみがわたしを慰めようとしながらも、決してあの男の言葉を否定しようとはしなかったからだ」

「……」

 実際のところ、ジニーは思ってもいないことはいえない性格なだけなのだが、彼女は黙っていた。コミュニケーションの才能の萌芽ほうがである。

 そうとは知らず、ガンケインはしみじみと語りつづけた。

「おかげで目が覚めた。そうだ……わたしは逃げていたのだ。男子校出身だから、女性が苦手でも仕方がないと……なんの努力もせず、すべてを男子校のせいにして、女性と、女性に対する苦手意識と向きあうことから逃げていた。きみは『大事なのは苦手なものとどう付きあうか』だといったな? そのとおりだと、いまなら素直に頷ける」

「そんなこといっ……たわね!? いった! さすがはあたし!」

 ガンケインがどこか遠くを見ながら思い出にひたるようにいう一方、ジニーは忘れていたことをごまかすのに必死だった。彼女はどうでもいいことはすぐ忘れるたちだった。

「ああ、さすがは天才魔術師ヴァージニアスだ。その導きにあずかったからには、もはや樹に願うべくもない。これからは勇気を出して女性と接していくつもりだ。とはいえ、いきなり同年代の女性と接するのは難しかろうから、まずは幼女からだな」

「それはやめたほうがいいと思うけど」

「そうかね? とにかくそういうわけだから、樹にはきみが願うがいい。願いが思いつかないというのなら、男に二言はない、わたしもともに考えよう」

 清々しく、一抹の未練さえ感じさせない申し出であった。奇妙な頂上決戦は、ここに決着を見たのである。

 しかし、勝者であるはずのジニーの反応はにぶかった。

「あー……そのことなんだけど……」

「?」

 ジニーは目をそらし口ごもると、指先で赤毛をくるくるともてあそびはじめた。彼女らしからぬ挙措動作きょそどうさにつづいたのは、やはり彼女らしからぬ言葉だった。

「実はあたしももう、願う気分じゃなくなっちゃったっていうか……」

「えっ……な、なんで――」

 ガンケインは出しかけた言葉を飲みこんでしまった。ジニーが唐突に、足もとに転がる盗賊を蹴ったからだ!

「こいつが他力本願とかいったからよ! 自分だって同じ穴のむじなのくせに!」

 その言葉は、盗賊がガンケインを嘲るべく口にしたものではあったが、この「GUNG-BO」に参戦した者たち全員を嘲るものでもあった。いまさらそういわれたところで気にしない者がほとんどであるが、ジニーはそうではなかったらしい。

「天才に他人の力なんか――」

 彼女は途中で言葉を切ると、ガンケインを一見してから、

「……まあ、いらないわけじゃないけど? あくまで主役はあたしよ、あたし! あたしの自力! だから、願いもそうすることにしたの!」

 と締めくくった。ガンケインは感嘆の吐息を漏らした。

「そ、そうであったか……」

「そうなの!」

 嘘である! 正確には半分嘘で、半分本当であった!

 そもそも、彼女は自分が他力本願であることに自覚的であった。世のなかには、自力ではどうにもできないこともある。それは天才魔術師たる彼女とて同じであった。たとえば、彼女は太陽を破壊できない。

 そうしたことに直面したときには、即刻自力に見切りをつけ、他力に頼るのが肝要であると、彼女はよく心得ていた。だからこそ、今次の「GUNG-BO」に参戦したのである。

 しかしいま、彼女はその前提――自力では恋人を見つけられないという前提が崩れさったことに気づいていた。辛抱強く対話を重ねることで、一見天才とは思えぬ人間にも、えもいわれぬ能力や美点が見えてくることを知ったのである――目のまえの伝説の騎士、ガンケインとの言霊勝負を通じて! 天然自然に、彼女はこう思った。


(あれ? もしかして、いままで恋人が見つからなかったのって、あたしのコミュニケーション不足のせい……?)


 つまり、自力で頑張る余地がまだまだあることに――まだ他力に頼るべきときではないことに気がついたのである! こんなわけで、彼女にとって「願いの樹」はとうに無用の長物となっていた!

 かくして、ラストバトルは引きわけというか、とにかく勝者不在のまま終わってしまったが、それは「GUNG-BO」の終幕を意味しない。やがてガンケインが、その事実を口にした。

「……しかし、困ったことになったな。わたしにもきみにも、もはや叶えるべき願いはない。だが、なにか願って樹の力を減らさねば、世界の安寧が乱されかねん」

 ガンケインは腕を組み唸りながら、樹のほうを見た。

「そんなの、そのへんのやつに適当な願いを叶えさせりゃいいじゃない。こいつだっていいわ。どうせ、大した願いは叶えられないんだし……」

 ジニーは足もとに転がる盗賊を蹴ってから、樹のほうを見た。

「「………………」」

 ふたりは絶句し、顔を見あわせた。それから、同時に、ゆっくりと上を見た。いつからか彼らに影を落としはじめ、いまや丘全体を薄闇で覆っているものを。

 それは、「願いの樹」の枝葉であった。彼らが丘の頂きに辿りついたとき、切妻屋根くらいでしかなく、陽の光や青空を遮ることとてできなかったそれらはいま、大地がさす巨大な緑の傘めいて広がり、丘全体をその下に収めていた!

「ば、ばかな!? この生長ぶりはいったい!? あの名状しがたい者どもを滅ぼしたときの大きさに勝るとも劣らぬぞ!?」

「わかった……」

 狼狽するガンケインのかたわら、ジニーが呟いた。そしていった!

「この樹はみんなの願いを吸って育つんだわ! あたしとあんたがここで願いをぶつけあったから、こんなに育っちゃったんだ!」

 天才! しかし、つづいて起こったことは彼女の思考能力をも超えていた! 突如として、丘の東西でときの声があがったのである!

「なんだ!?」

「なに!?」

 ガンケインが東を、ジニーが西を見る!

「嘘でしょ……!?」

 ジニーは見た! 剣、槍、斧、弓、杖、魔術書――めいめい得物を片手に、地獄に垂らされた蜘蛛の糸を奪いあう亡者どもじみて、競って丘を駆けのぼってくる者たちを。彼女が頂上に至るまでに倒した者たちを!

 それにしても、再起不能なまでに痛めつけたはずの彼らが、なんの負傷も感じさせぬ勢いで全力疾走しているのはどういうわけか!? しかし、いまはそんなことを考えている場合ではない!

「『我が手は凍る』!」

 ジニーはなけなしの魔力を振りしぼって叫ぶと、両手を地に叩きつけた! するとどうだ、丘の斜面が一瞬にして凍りつき、超自然のすべり台となったではないか!

「「「「「「「「「「ぎゃああああああああー!?」」」」」」」」」」

 復活した敗者たちは例外なく足をすべらせ、転び、丘の下まですべり落ちていく!

「な、なんなのよ、もう……!」

「わかったぞ……」

「え?」

 ジニーが荒い息をつきながら顎を伝う汗を手の甲でぬぐっていると、ガンケインが呟いた。東のほうを向いたまま。

「おそらく、この樹の生長はとうに限界に達していたのだろう。それで、満ちたさかずきから溢れる水めいて、願いを叶える力が端のほうから――つまり枝葉のさきから少しずつ溢れ、丘の下にいた敗者たちのささやかな願いを叶えたのだ。『再起したい』という願いを……わたしたちや、そこな盗賊が回復していないのがその証拠……」

 ジニーは足もとを見た。盗賊はなにも知らない赤子みたいに眠っている。

 そしてガンケインは、東のほうを向いたままつづけた。そのときはじめてジニーは、彼が彼女に話しかけているのではなかったことを知った。

「そうだな?」

「そうです。さすがは隊長――いや、先輩です」

 ジニーは見た。ガンケインの向こうにまず、王都の遠景のような尖塔の群れの影が見えてきた。つぎに、服のほつれみたいに、兜のスリットから靡く一本の赤毛が見えた。つづいて、鎧が。

 それはガンケインに不意討ちをしようとした痩身の騎士であり、尖塔の群れと見えたのは彼が背負う大量の武器であった。この騎士が、丘の東で復活した者たち全員を倒し、その武器を奪って丘をのぼってきたことに疑いはなかった。

 痩身の騎士はガンケインまで十歩の距離で立ちどまり、クロスボウを構えると、口を切った。

「でも先輩、ひどいじゃないですか」

「なに?」

「樹に願って、ぼくの分の性奴隷もつくってもらってくださいっていったのに――こんなにかわいくて調教しがいのありそうな女の子と、楽しくお喋りしていたなんて! 下まで聞こえてきましたよ!」

 ジニーが生理的嫌悪感をおぼえてあとずさる一方、ガンケインは何度もまばたきしたあげく、兜を叩いて耳がちゃんと聞こえているかを確かめてから、上ずった声をあげた。

「せ、性……な、なんだと? きみは、ぼくの分も願いを叶えてくださいと、わたしに願いを託したのでは」

 つづきには、クロスボウの発射音が被せられた。矢は、すでにへこんでいたガンケインの右の脚当てを貫き、その奥の肉に深々と突きささった。ガンケインは後ろへと無様で鈍重なステップを踏まされたが、膝はつかなかった。

「さすがは先輩! あいかわらずおめでたいですね――そんなわけないでしょう! でも、許してあげますよ。おかげで、こんなに樹が育ったんですからね。これなら、ぼくの大願も成就するにちがいない!」

 痩身の騎士は、あらたな矢を手のなかでくるくるくるくると回してからクロスボウにつがえ、レバーを引きながら叫んだ。

「な、なにを願うつもりだ?」

 ガンケインは祈るような気持ちでいった。しかし、返答はあまりにおぞましかった。

「そりゃ、当然! すべての女の子をぼくの性奴隷にしてもらうんですよ!」

 痩身の騎士は嬉しそうにいうと、クロスボウの照準をガンケインから外し、ジニーに合わせながらつづけた。

「願いを叶えたら早速、そこの生意気な女の子に楽しませてもらおうかなあ? そうだ、『我が身は奴隷!』っていってもらおう! 楽しみだね?」

「……死ね!」

 ジニーは覚悟を決めて罵ると、目を閉じた。

 直後、自分の口から矢羽が生えるかに思われたが、彼女が恐る恐る目をあけたとき、そうはなっていなかった。

「ガンケイン……!」

 ガンケインが左腕を翳して、盾としたからだ。彼は後ろに持っていかれそうになった左腕を右手で押さえて踏みとどまると、いいつのった。

「ば、ばかな願いはよせ! 王が聞かれたらお嘆きに」

「なにがばかな願いなものか!」

 クロスボウに次弾を装填し、レバーを引いていた痩身の騎士は激昂した! 勢いあまってレバーが折れる! それを気にかけもせず、騎士は吠えた!

「忘れたとはいわせませんよ、先輩! 何度も語りあったじゃあないですか……ぼくらは男子校に女を奪われた! ぼくらが青春を、女を味わうことは決してない……いままでも、そしてこれからも! あの樹に願わないかぎりはね! なにがばかな願いだ! あんただって、女を手にするためにここまで来たんだろうが!」

 つかのま、けだものじみた息遣いだけが、その場に流れた。

 ジニーは足もとに転がる盗賊の言葉を思いだしていた。「男子校にはそういう情けねえ男が大勢いた」――この盗賊は、そういっていた。あの痩身の騎士も、そのひとりなのだろう。

 だが、その狂気には情けないの一言では済ませえないものがある。おまけにその戦闘能力ときたら、情けないどころかその真逆だ。このままでは、痩身の騎士が願いを叶えてしまうだろう。

 あの男の性奴隷になるなど、まっぴらごめんだ! だが、どうしたら? ジニーもガンケインも満身創痍だ。呪文も使えてあと一回。それ以前に、ジニーには樹の力を一度に使いはたせるほどの願いがない! 思いつかない!

 ジニーは縋るようにガンケインの背を見た。

「……わかった」

 ガンケインがいった。ジニーは目のまえが真っ暗になったような気がした。痩身の騎士は、わざとらしく肩を竦めてからクロスボウを下ろした。

「わかってくれましたか。では、そこで寝ていて――」

「そうではない」

 その声は荘重そうちょうですらあった。ゆるす者の雅量を示してさえいた。

「……なんですって?」

「わたしの願うべきことがわかったのだ」

 ふたりの騎士をとりまく大気が、陽炎めいて揺らいだ。「願いの樹」の枝葉がそよいだ。その涼やかな音が去ったとき、ガンケインはいった。

「ゆえに、きみに願いを叶えさせるわけにはいかない」

「死ね!」

 痩身の騎士がクロスボウを構え、引き金に指をかけたとき、すでにジニーは詠唱を終えていた!

「『我が毛は燃える』!」

「ぎゃあああ!?」

 痩身の騎士の右目から炎が迸る! 右目に刺さったままだったジニーの赤毛が力ある言葉を受け、なお赤く燃えさかったのだ!

 痩身の騎士は堪らず後ろに蹈鞴を踏む! 反射的に引き金を引かれたクロスボウの矢は、当然あらぬ方向へ! その隙に、ガンケインは駆けだす! 樹に向かって、右脚を引きずりながら!

「クソアマが……!」

「嘘!?」

 痩身の騎士は兜の面頬めんぽおを外し、右手で燃える毛を掴むと、躊躇なく引っぱり……火の燃えうつった右の眼球ごと引っこぬき、投げすてた!

 右の眼窩がんかから炎より赤い血が滝のごとく流れでるがしかし、痩身の騎士の両手は傷口ではなく、背中に回された! 右手に手斧、左手に手槍を掴む!

「あとでこの傷を舐めさせてやる! それまで、そこで大人しくしていろ!」

 痩身の騎士は、手斧をガンケインへ、手槍をジニーに投擲すると、走りだした!

「きゃあっ!? ……あっ!」

 ジニーは伏せて手槍をかわしたが、その穂先は彼女の纏うローブの裾を地面に縫いつけてしまった! 動けない!

「「「うおおおお!」」」

「きゃあああ!?」

 しかもそこへ、西の凍った斜面を登ってきた者たちが雪崩なだれこんできて、ジニーを押しつぶした!

 一方、ガンケインへ飛来した手斧は――戛然かつぜん! 

「チイーッ!」

 痩身の騎士は背から槍を抜きながら舌打ちする! ガンケインは兜の面頬を外し、後ろに投げて手斧に当て、その軌道を逸らしたのだ!

 だが、痩身の騎士からすれば悪あがきというほかない。彼とガンケインの差は、みるみる縮まっていく。あたりまえだ。ガンケインは満身創痍なうえ、右脚を負傷している。一方、痩身の騎士は右目こそ失ったが、五体満足だ。体力もありあまっている! いまや雑魚どもの下敷きになっている、あの生意気な小娘の邪魔立てが入るはずもない!

「これまでですよ、先輩! 安心してください、あの子は飽きたら先輩にあげますから!」

 ガンケインが樹まであと十歩の距離に達したとき、痩身の騎士は彼の背を槍の間合いに捉え――渾身の力で、突いた! そのとき!

「『我が手は伸びる』!」

 痩身の騎士は、驚きのあまり目を見張った。彼の槍よりもはやいものがあったのだ。それは白く細い蛇――否、手だった。その手は彼の必殺の突きを追いぬくと、ガンケインの背中を押した。

 ガンケインは前方へとつんのめるようにして転がった。槍の穂先は虚空を貫いた。

 痩身の騎士は残心も忘れて、伸びてきた手の来し方を振りかえった。その手の持ち主は、「生意気な小娘」だった。雑魚どもに押しつぶされていたはずの彼女はいま、雑魚どもを従えて仁王立ちしていた。あまつさえ、そのうちの魔術師たちから魔力を分けあたえてもらっていた。

「ばかな……」

 痩身の騎士は知るよしもない。彼がガンケインを追っているあいだに、ジニーが丘をのぼってきた者たちに、「あいつが願いを叶えたら、女の子がみんな、あいつの性奴隷にされちゃう! あんたたちの家族も、恋人も! だからお願い、力を貸して! みんなであいつを止めるのよ!」と、生まれてはじめて助けを乞うたことなど!

 そしていま、ガンケインは数度の前転を経て樹の根もとに達した! その右の手のひらが、樹の幹に触れる!

「ばかな! やめろおおおおおお!」

「樹よ! 我が願いを叶えたまえ!」

 痩身の騎士の絶叫とガンケインの絶叫が相克そうこくし――後者が打ち勝つ!

「この世から、男子校を消しさってくれ――――――!」

 瞬間、枝という枝、葉という葉が逆巻いて、「願いの樹」は巨大な緑の篝火かがりびのごとくなった。

 と見るや、その超自然の葉がつぎつぎと枝の頸木くびきのがれ、天へと昇っていった。あたかも、空へ向かって落ちる緑の滝のようだった。それらは遙か彼方で滝壺めいて爆ぜると、今度は緑の流星雨みたいに世界じゅうに散らばっていった。

 あっというまの出来事だった。丘につどった人々の視界から緑が失せ、青空が戻ってきたとき、丘を覆っていた影は払われていた。

 「願いの樹」はいま、葉ひとつない丸裸の枯れ木となって、日光浴に興じていた。

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