エピローグ

たとえ造花だとしても

 夕方の柔らかい日差しが、秘密基地の壁の片方に影を作らせ、もう片方を照らしていた。空はだいたい赤く染まり切っていた。


 ブルーシートに寝っ転がって、ノラは空を眺めていた。


 約束がなくなっても、何かが劇的に変わることはなかった。でもノラには、今や秘密基地は、自分の部屋と同じくらい、呼吸しやすい場所になった。


 サラサラと、頬に沿って流れてくる風の心地よさに、ノラは目をつむって、何も考えずにいた。じっと、動かずにいても、もう誰も文句は言ってこない。今のノラには、それが、ただただひたすらに嬉しかった。



 寝返りを打って、体を横向きにさせながら、ノラはどろどろと睡魔に溶かされそうになっていた。


 ふと、ずっと赤かったまぶたの裏がスッと暗くなったのを感じた。



「…ノラ、起きないと、体調くずすよ」



(あ、ニゲラの、声)



 ゆっくりと体を起こして、目をこすった。それでも目を開けない。上半身がゆらゆらしている。



「目ー開けないと、眠くなっちゃうよ」



 背中にドーンとした衝撃が入って、ノラはのけぞった。ネモネだなーと思いながら、ノラは

「わかってるよ〜…」

 と、雑な返事をする。



「わかってなーい!」



 ネモネのベルトの金具の音が耳に入って、ノラは目を開けた。



「あ、あいた」



 目の前にはニゲラがいる。びっくりした顔だ。



「開いた? やったー! ミッション大成功〜☆」



 きらきらと笑って、ネモネはノラに抱きつく。2回連続の衝撃に、ノラの口からは「ぐえ」と声が出た。そのままの勢いで、ニゲラの方に倒れこむ。逃げようとしたが、時すでに遅し。あっけなくニゲラは下敷きになった。



「巻き込まれてやーんの」



 秘密基地の中で咲いていた花で、きれいな花冠を作っているチアがにやけながら言った。そのとなりでデンファレも同じように作ろうとしているが、どうにも上手くいかないようで、半分涙目になっていた。



 巻き込まれた、と言われても、ニゲラは存外、楽しそうな顔をしていて、それを見たノラは、寝ぼけ眼で言った。





「この時間がずっとずっと、続けばいいのにね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

造花の花束 ぴーや @pi_ya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ