2022/12/25 第25話

 その後、青井さんは警察に出頭したらしい。二件続いた自殺のうち一件が殺人だったと突然発覚して、映画部のみならず大学自体がわりと大変なことになっているようだが――


「いやー、驚いたなぁ。まさか青井さんが来美さんを殺害していたとは」

 来客の合間に先生がサラッとそう言ったので、おれはひっくり返りそうになった。

「は!? 今更何言ってんすか!?」

 例によって事務所である。世間はクリスマスだが、霊能力者にオフシーズンはないらしい。おれも日曜日だというのに雑務に明け暮れていた。そこに突然の「驚いた」発言である。最も驚いたと言いつつ、本人は涼しい顔をしているが。

「何驚いてんすか! えっ!? わかってなくてあの態度!? なに!?」

「うん。来美さんの死は覚悟の上の自殺じゃないだろうってことと、関係があるのは大寅間くんよりも青井さんの方だろう……と思ってはいたんだが、まさかガッツリ実行犯とまでは思ってなかった。正直びっくりした」

「まじか」

 ハッタリと意味深な演技が効きすぎたのか……それはともかく、おれだけまだ何もわかっていないのだが!?

「何もって……新泥さんは自殺、来美さんは青井さんが旧館のベランダから突き落としたってことになっただろ」

 デスクでコーヒーを飲みながら、先生はこともなげに言った。

「いやそれは把握したんすけど、何で先生は青井さんが怪しいってわかってたんすか? そもそも覚悟の自殺じゃないとか……」

「来美さんの性格と死に方が全然合ってなかったからな。彼女が亡くなった日近辺のSNSの投稿をチェックしたが、いつもどおりのキラキラしたやつしかなかった。遺書もなければ匂わせ投稿もなし。彼女がそこまで潔いとは思えなくってな。旧館の現場も人目が少なくて目立たないし……」

「そ、そんなときまで目立ちたいもんですかね……?」

「少なくとももうちょっと騒ぐと思うんだよな〜。彼女、本物の心霊動画狙いで新泥さんの自殺現場に通い詰めてたメンタルの持ち主だし」

 それなんだよな……来美さんの遺品のパソコンには、現場の写真だの動画だのが山程残っていたらしい。親友の自殺をネタにバズる気だったってことか? それ生きている人間が一番怖いってやつじゃないだろうか……?

「とにかくあんな風に自殺するなんて、生前の来美さんのイメージと噛み合わないと思ったんだ。あとは青井さんの件だが……」

 話しながら、先生は窓の外を指さした。

「来美さんがうちに来たときに誰かが庭にいただろ? あの後柳に実際に歩かせて足音を聞いたわけだが、どうもお前よりずっと体重の軽い人間らしいとわかった」

「相変わらず聴覚すごいっすね」

「どうも。容疑者を映画部内に絞るなら、当てはまりそうなのは青井さんしかいない。それとなく話を振ってみたら、どうも彼女だけは来美さんがフェイク動画をここに持ち込んだことを知ってたみたいだったしな」

 降霊会の前にあれこれ話していた時、引っかかったようだ。元々新泥さんの死に来美さんが関係していると予想していた青井さんは、来美さんの行動に注意を払っていたらしい。

「ま、これだけじゃ来美さんの死に彼女が関係してるかどうか確定できないから、降霊会でリアクションを見ることにしたんだ。思った通りどんどん顔色が変わるから当たりだと確信したんだが、いきなり大寅間くんが錯乱してなー」

「はー……でもおれ、動機でびびりましたよ」

「俺にもよくわからんが、彼女にとっては殺人に値することだったんだろう」

 あの日、青井さんは俺たちに犯行時のことを話してくれた。新泥さんの自殺現場に通いつめる来美さんの後をつけたところ、夢中で動画を撮っている姿を見つけてかっとなり、発作的に体当たりしたらしい。

「でも、たぶんそれだけだったら殺したりしてないよ。あたし、元々来美にめちゃくちゃ腹立ってたからさ。ほら、先生んとこに持ち込んだあのクソみたいな動画、音声の切り貼りしてあったの知ってる? あれ、あたしの撮った映画の台詞なの。ひとの作品をあんな風に使いやがって……ほんとむかつく……」

 その時見せた顔は、普段の愛らしい彼女とは別人のようだった。

 おまけに青井さんは「お祓いは要らない」と主張した。

「恨まれるようなことをしたんだからしょうがないでしょ。どうしてもしんどくなったらお願いするから、その時サービスしてよ」

 という。とにかく覚悟の決まり方が凄かった。

「千香さんにも青井さんのことは報告したよ。妹にがっかりして泣いてたけど、スッキリはしたみたいだ」

「大寅間くんのことは?」

「言わなくていいと思ったから言ってない。大体彼がデリケート過ぎるんだよ……まぁ芸術家としてはそれが長所なのかもしれないな。ところで柳、お前に仕事の依頼が来てるぞ」

「ファッ!? おれですか!?」

「うん、院振大の南井くんからだ」

 どうやらメールが届いたらしい。先生はパソコンの画面を読む。

「報酬は出すから、今度撮る新作映画に出てほしいらしい。よかったな柳、俳優の仕事じゃないか」

「それ手作りのサメに食われるやつじゃないですか!?」

 まぁ、部員を一気に三人も失った映画部に、まだ活動の余力があるというのはいいことだと思う。みんな真面目に活動してるみたいだし、やっぱり映画が好きなんだろう。


 で、結局断れなかったおれは映画部を何度か訪れる羽目になったのだが……うん、察してほしい。ちなみにファルコンが撮ったNG動画はまたプチバズったそうだ。めでたしめでたし。


〈禅士院雨息斎のホラームービー劇場・完〉

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【アドベントカレンダー】禅士院雨息斎のホラームービー劇場 尾八原ジュージ @zi-yon

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