2022/12/24 第24話

(いや、ちょっと顔出しただけで目なんか合ってないが……大寅間くん、どうやら思い込みの激しいタイプだな)

 とは思ったものの、おれは大寅間くんを責める気にはなれなかった。

 彼の話が本当だとしたら、そもそも馬刷間さんがアイディア盗用なんかしていなければ済んだ話だ。おそらく新泥さんに「そのアイディア使わせて」などと相談することもなかったんじゃないだろうか。著作権侵害には当たらないかもしれないが、結果的にこのことが何人もの人達を不幸にしてしまった。

「柳、行こう」

 先生がアンニュイになっていたおれの肩を叩いた。「部外者が立ち入っていい話じゃない。ひとまず南井くんに任せておこう――ああ、そうだ」

 立ち去ろうとするのを一旦やめて、先生は「大寅間くん」と声をかけた。

「君はひとつ誤解をしている。馬刷間さんは大寅間くんに怒ってなんかいないよ」

「ぜ、ぜんぜい……」大寅間くんは盛大に鼻をすすった。「ほ、本当ですか?」

「本当さ。私も一応霊能力者だからね。信じてくれていい」

 またしれっと嘘ついてる……でも先生、何を言ってるんだ? これで真相は解明されたんじゃないのか?

「それじゃあ私はこれで。今日はご協力ありがとう」

 そう言って先生は颯爽とカフェテリアを立ち去った。おれは慌てて先生の後を追いかけた。足が速い上に長いので、油断するとすぐ置き去りにされてしまう。

「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ……本当なんすかね? 盗用とか……」

「本当だろうな。馬刷間さんのパソコンに書きかけの脚本らしきデータがいくつもあったが、正直どれも、あの受賞作を書いた人間の発想力とは思えない凡庸さだ。最近はめっきりテキストデータの更新が減って、未書籍化のweb小説を漁った形跡が残っている」

「えっ、それまたパクリやろうとしてないすか……?」

「やろうとしてたっぽいな。お~、ファルコン」

 ちょうどそのとき、エレベーターの方からやってきた春子さんと鉢合わせた。

「先生~おつ〜」

「ファルコン、一人~? 洞田くんと青井さんは~?」

「ん~、洞っちはオバケ探すってどこかに行っちゃって〜。恋春っちはちょっと一人で休みたいって〜。まだ部室にいるっぽいけど~」

「そっか~、ありがと~」

 先生はそう言いながら、降りてきたばかりのエレベーターに乗り込んだ。おれもそれに続く。

 三階の南側、映画部の部室は暗かった。が、先生がノックをすると中から声が返ってきた。

「どうぞ。鍵開いてるから」

 ドアを開けると、さっきより一段と暗くなった部室の中、青井さんがひとりでぽつんと椅子に座っていた。先生は青井さんに声をかけた。

「青井さん、気分はどうかな。肩が重かったりしない?」

「はは、言われてみたらなんかそんな気がしてきた……気のせいかな」

「どうだろうね。実は、青井さんにお祓いが必要なんじゃないかと思って来てみたんだけど」

「……やっぱり?」

 青井さんはぽつりと呟いた。

「ま、それも当然か。悪いことしてあたしだけお咎めなしなんて、おかしいもんね」

「そうだね。もし何があったかきちんと明かしてくれるつもりがあるなら、特別にサービスでお祓いしてあげようか」

「ははは、優しいね〜、先生」

 青井さんはやる気のなさそうな声で言った。

 二人は何の話をしてるんだ? わけがわからなくてキョトンとしていると、それを青井さんに気づかれたらしい。彼女はこちらを見てくすくす笑った。

「ありゃ〜、助手さんはわかんないんだね。あたしが来美を旧館のベランダから突き落としたの」

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