2022/12/23 第23話

「僕には信じられないですよ。大寅間くんが、そんな……」

 南井くんが青い顔をしてそう言った。

「大寅間くんに限らず、うちの部員は映画や映画作りが本当に好きで、みんな仲良くしてたんです。馬刷間さんが賞をとったときだって本当に喜んで……」

「そうですよね。僕もそうです」

 大寅間くんが静かに話し始めた。おれたちは黙って彼の独白を聞いた。


「馬刷間さんが賞をとったとき、自分が賞を逃したのが正直悔しかったけど、でも素直にすごいなとも思いました……脚本自体は書きなれてない感じで粗もあって、実際大賞じゃなくて特別賞だったんですけど、こんなアイディアを思いつくんだから、書き慣れればいずれ大賞もいけるだろうと思ったんです。というか、そうでなかったのがだんだん悔しくなってきて……。

 だから彼女に言ったんです。どんどん次を書きなよって……書き方も勉強して、あとは数を重ねたらほんとにすごいことになるから、とにかく二作目を書きなって何度も勧めました。でもそのたびにはぐらかされてしまうんですよね。

 それだけじゃなくて、例の脚本を映画にするって話になるとなんだか部内がぎくしゃくしちゃって。それは馬刷間さんじゃなくて、新泥さんが気が進まないって感じでしたけど――次に何撮るかスケジュールが決まってるのによくないって。まぁそれはそうなんですけど、他のみんなはいいって言ってるのになぁって、正直不満でした。でも新泥さん、単にスケジュールが納得いかないだけじゃなくて、何か一人で思いつめてる感じなんですよね。そしたら青井さんがこっそり話してくれたんです。

『来美、瑠香奈のアイディアパクったかも』

 って。

 賞をとった脚本、女の子だけで飲んでたときに新泥さんが話した案とそっくりだって言うんです。自分は寝たふりしてたけどちゃんと聞いてたって。

 もしそれが本当だったら――そう思いたくはないけど、新泥さんの態度には納得がいきます。たぶん彼女、アイディア云々よりも、親友にそういうことをされたのがショックだったと思うんです。でも証拠もないしってウジウジしてたら、その矢先に彼女、自殺してしまって。

 新泥さんが亡くなったときはまだ旧館に入れたんで、馬刷間さんは時々彼女が飛び降りたところに行ってました。きっと新泥さんのことを悔いてたんだろうと思います。

 僕はなんていうか――とにかくこんなことは起こって欲しくなかった。

 馬刷間さんが新泥さんのアイディアを盗んで、それが原因で新泥さんが自殺したなんて。喋るのが下手で友達なんかいなかった僕に居場所をくれた映画部で、こんなことがあってはならないと思いました。

 だから馬刷間さんを急かしたんです。次を書けって。自分自身の力で二作目を書いて、盗用なんかしてない、そんなことしなくたって面白い話が書けるんだって証明してくれって。それに馬刷間さんがどんなに追い詰められるか、考えても見なかったんです。僕は……自分のことばかりで……!

 さっき降霊会ではっきりとわかりました。彼女は僕に怒っているんです。窓から覗いた彼女と目があったとき、そう思いました……」


 大寅間くんはそこまで言うと、本格的に泣き始めた。

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