2022/12/21 第21話

 先生が工夫を重ねた特製のウィジャボード(つまり先生の都合でよく動く)登場で一通り盛り上がった後、いよいよ降霊術が執り行われることとなった。先生は部屋の電灯を消し、代わりに持参したライトで室内を青く照らした。

「来美さん以外の霊が来ないよう、助手の柳に結界を張っていてもらうことになってるから」

「キャー! 来た~! 結界~!」

 ファルコンが喜んでいる……彼女には、おれの破れかぶれの結界ポーズをSNSに投稿してプチバズッた前科があるのだ。だがもうその轍は踏まん。春子さんは降霊会、おれは部屋の外だ。

「じゃあ結界張ってきます!」

 おれはそう宣言して部室を出た。背負っているリュックの中でカサカサと音がする。さて、ここからがちょっとした大仕事だ。

 映画部の部室は三階で、その上は屋上――というか平べったい屋根になっている。廊下の端には下に降りる非常階段への出入口が設けられており、おれはそこから外に出た。

 おれはかつてアクション俳優を志していた。ちなみに趣味はパルクールだ。演技と存在感はからきしだが、身体能力にはそこそこ自信がある。おれは人目がないことを確認すると、非常階段の手すりに登り、そこから建物の屋根に両手をかけ、一気に乗り移った。

(うお、屋根の上めっちゃ寒い。えーと、映画部の部室はどの辺かな……)

 おれまで屋上から身を投げることになったら最悪だ。屋根の上に腹ばいになって、慎重に下を覗き込んだ。

 レースのカーテン越しに青い光が見える部屋はすぐに見つかった。あそこが映画部の部室だ。

「先生、何の話してんのかな……まぁなんかいい感じにやってんだろ……」

 おれは独り言を言いながら背中のリュックを降ろすと、白い上着と栗色のロングヘアのウィッグを取り出した。スーツの上から上着を着、ウイッグは動いても外れないように専用のネットで固定して被る。

「よーし」

 おれは窓の位置を避けてそっと三階のベランダに降り立ち、隣の部室のベランダとの間にあるパーテーションの近くに体を縮めて潜んだ。このパーテーションさえなければ屋根なんか経由しなくて済むのだが……まぁ仕方ないか。あとは合図があるまでこのまま待機だ。寒い。

 ガラス越しに「やだ、動いた!」「静かに!」などという声が聞こえる。盛り上がっているようだ。そして寒い。十二月の夕暮れはひたすら寒い。

 どれくらい待っただろうか。おれのスマホがスラックスのポケットの中でブーンと振動した。いよいよ合図だ。

 おれは深呼吸を一つして、風に吹かれてややざんばらになったロングヘアを顔が見えないようにだらりと垂らし、ひょいっと映画部の部室を覗き込んだ。

 一拍おいて、中から悲鳴が上がった。

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