2022/12/19 第19話
それはまさにあの呪いの動画の台詞そのもの、そして亡くなった新泥さんの声だった。なぜ今その声がしたんだ? 直前まで映画部の過去の作品を上映していたはずなのに?
「おっ、ちょっ、今の、ちょっと」
「落ち着け! 映画の台詞だ!」
先生がつかつか歩いてきて、動揺しているおれの頭をひっぱたいた。
「お前、本っっっ当にビビリだな……逆に俺がびっくりしたわ……」
「いやあの、動画のやつとまるっきり一緒で、その」
不意打ちだったこともあって何しろ驚いたのだが、その後に『それがあんたに何か関係あるの?』という声が続いて、おれはようやく落ち着いた。
「映画部の過去作品の一部だ」
先生がモニターを指さした。
「恋愛ものなんだが、その中の新泥さんの台詞だな。ここを抜いて、例の動画の音声と差し替えたんだ。だからあの動画を見たとき、音声に違和感があったんだよ」
そういえば先生、赤い服の女よりも先に編集されている箇所があるって言ってたな。だから動画がフェイクだってすぐにわかったんだっけ。とはいえ――
「おれは全然わかりませんでした……」
先生、やっぱり異様に耳がいいのだ。
「しかし、何でそんな面倒なことしたんすかね?」
「そりゃ、不都合な発言を隠すためだろう。来美さんは、あの呪いの動画をSNSで公開するつもりだったかもしれない。そのときのことを考えて音声を差し替えたんだ。あそこで何も喋らなくなると不自然だが、新泥さんは亡くなってるから新しく音声を撮ることができない。そこで過去の作品から合いそうなやつを持ってきたんだ」
「そこまでして隠さなきゃならなかったのか……じゃあ、編集前の動画を見れば何かわかるかもしれないっすよね!?」
おれは大発見のつもりで叫んだのだが、
「残念ながらそいつはパソコンに入ってないようだ」
と、さらっと言われてしまった。
「でもほら」
先生はパソコンの画面を指さした。脚本に使うのだろうか、どうやらプロットらしきものが書かれた画面と、フォルダに並ぶいくつものテキストデータ。それからウェブの検索履歴。
「ほらって何すか?」
「察しが悪いなぁ。馬刷間来美が何を隠したかったのか、大体わかるだろうが」
「はぁ……?」
「まぁ最悪柳が全然わかってなくても何とかなるから大丈夫だ。おそらく彼女の死に関係する人物は、あの映画部の中にいるだろう。なにせ原因が原因だし、それに今から新しい容疑者を出していると、この連載を25日までに完結させられなくなる」
「トンチキ小説らしくメタ台詞が出ましたね」
「まぁ、あとは決定的な証拠がつかめればなぁ……」
先生はそう言って天井を見上げ、「ひとつイベントでもやるか」と呟いた。
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