2022/12/17 第17話
散々話し込んだ後で、おれたちはようやく映画部の部室から失礼した。部員一同は名残惜しそうに見送ってくれたが、おれのことが名残惜しかったのはたぶん南井くんだけだろう。
「や~、やっぱすごいっすね先生……」
借りてきた資料を抱えて歩きながら、おれは先生に話しかけた。先生は当然だとでも言うようにうなずいた。
「映画部の面々がチョロ――親切で助かったな。うん」
「先生、今よからぬことを言いかけましたよね?」
ともかく事務所に戻ると、先生は猛然と他の仕事に取り掛かり始めた。霊能力者・禅士院雨息斎はなかなか多忙なのである。来客を何人か捌き、おれは諸々の雑用に加えてお茶出しと掃き掃除を繰り返した。この建物は玄関から応接間、事務所内までは靴のまま入る仕様になっているから、気を抜くとあちこちに砂や泥がつくのだ。汚れていると先生にどやされる。
しかし慌ただしい中でも、先生はいつの間にか馬刷間千香さんに連絡をとっていたらしい。彼女がタクシーに乗ってやってきたのは、すっかり日が暮れたあとだった。
「先生に頼まれて、妹のパソコンを持ってきました。映画部関係のことは全部これでやってたみたいです」
後部座席に積まれていたデスクトップはなかなかスペックが高そうで、改めて来美さんが裕福な家庭のお嬢さんだったことを思い起こさせた。
「千香さん、ありがとうございます。お手数おかけしました」
「本当に大丈夫でしょうか、あの動画……」
「大丈夫ですよ。万が一あれが呪いの動画だったとしても、私がお助けしますから」
先生がニッコリ笑ってそう言うと(相変わらずぶ厚い面の皮だ)、千香さんはほっとしたように微笑んだ。
先生は余裕そうだが、まだ来美さんの死の真相が明らかになったわけではない。どうして彼女は、新泥さんの後を追うように自殺したのだろう? そもそも新泥さんはなぜ死んだのか? 本当に三角関係のもつれが原因なのだろうか? 少なくとも、今日部室で先生が聞き込みをした限り、そんな話は出なかったのだが……。
「先生、ありがとうございます。パソコンのロックは解除されてますので」
おれたちにパソコンを託すと、千香さんはタクシーに再び乗り込んで帰っていった。
「おい柳、これとりあえず事務所の空いてる机に置くぞ。手伝え」
「あっはい。しかしこれ、結構高価そうですね……」
「映画や動画の編集をしてたらしいから、それなりのスペックだろうな」
パソコンの電源が入るようになると、先生は椅子を持ってきてその前に座り、それらしいフォルダを次々に開きながら目を通していた。その間、事務所のラップトップからは音声が流れている。借りてきた過去の作品集をBGM代わりに流しているのだ。
「こっちが画像関係で、こっちはテキストデータか。脚本らしいな……受賞作はこれか?」
おれの出る幕はなさそうだ。今日のうちにもう一回玄関の掃き掃除をやっとくか、と事務所を出ようとしたとき、
「おい柳、ちょっと」
と、先生がおれに声をかけてきた。
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