第23握利 りゅうくんとつばさおねえちゃんの大両親の願い。

「じゃあ、椿つばを頼んだぞりゅうべえ


 十八時前の夕飯時、『にぎめし』の戸を開け、振り返ると熊谷くまたにかつ立宮たてみやりゅうべえを見据えた。


「親父も許可してんならしゃーねぇ、わかった」


 照れ臭そうに、でも、面倒くさそうに坊主頭をかく龍平を見ると、勝治は優しげで切なそうな笑みを見せた。


「……『羅武らぶえん』から逮捕者を出した時な、園を閉めようと思ったんだ」


「え……」


 ぽつりと零した勝治の言葉に龍平は顔を上げた。


「逮捕者を出しただけじゃなく、みんなのお姉さんで、まとめ役で、明るくて優しい椿佐を辛い目に遭わせてしまった。だから……、この責任は、園長の俺が取り、園を閉めるべきだと思った」


「…………」


「だが、それを引き止めてくれたのは、他でもない椿佐だった。まだ心の傷も真新しく、震える手で俺の腕を掴み、こう言ってくれたんだ」



『この子たちの、妹や弟たちの、帰る場所をなくさないでくださいっ……』



「ってな」


「…………」


「その言葉に、優しさに、胸を打たれ、俺は園を続けることにした。そうして、入ってきたのが、お前だ、龍平」


「え……」


 龍平と勝治の視線がしっかりと合う。


「だから、お前と椿佐は、きっと何かの縁がある。俺はそう信じている」


「…………」


「“つばさおねえちゃん”を、しっかり守れよ。じゃあな」


 勝治は大きく骨太い手で龍平の頭を撫でると、ぶんぶんと手を振りながら帰っていった。


「…………」


「で、どうする、立宮。日用品とか適当でいいならあたしが買ってくるけど」


「……いや、いい。アパートから持ってくる」


「そうか。じゃあ、あたしは用心して鍵を閉めて待ってるから。また戻ってきたら電話くれ」


「ああ……」


 こうして、二人は一時解散した。




 昭和レトロなアパート『やなそう』。

 二〇五号室。


「…………」


 住人の龍平は、勝治の言葉を思い出しながら、黒いボストンバックに衣服などを詰めていた。


『だから、お前と椿佐は、きっと何かの縁がある。俺はそう信じている』



「縁っつってもなー……。同じ施設の出ってぐらいしか……。ん?」


 外から古い廊下をギシギシと鳴らし、走って近づく足音が一つ。


「龍平! やっぱりおめ、抜げ駆げしやがったな!」


「親方」


 二〇一号室の住人、みち冬茂ふゆしげが靴を脱ぎ捨てると、勢いよくドスドスとあがってきた。


「椿佐さんと同棲どはどういうごどだ!?」


ちげぇし。護衛を頼まれたんだよ」


「護衛!?」


「俺の親父と、世話になった施設の園長と、あと、あいつの親は友人ダチだから、その繋がりで」


「護衛とはどうしてだ?」


「……あいつを狙った奴が刑務所から出たんだと」


「それは大変だ! 同棲も仕方ねえな! しっかり守ってやれ!」


「納得が早ぇな」


 龍平がくくっと笑うと、


「副社長ー!」


 聞き覚えのある気弱な声が。


「鳶職クビってどういうことですか!?」


 広報担当、しおとおが靴も脱がずに慌てて部屋に入ってきた。


「今度は塩田か。まず靴を脱げ、そして、クビじゃねー、一時休んで、『握利飯』の手伝いするだけだ」


「手伝い? どういうことですか?」


 遠太は黒のビジネスシューズを脱ぎながら尋ねた。


「椿佐さんを狙った奴が刑務所がら出でぎだんだど! だがら護衛するごどになったそうだ!」


「それは大変だ! 護衛、頑張ってください!」


「どいつもこいつも納得が早ぇよ」


 龍平はまたくくっと笑った。


「でも、道野さん、現場の人数は大丈夫なんですか?」


「それは大丈夫だ。いざとなったら、俺が出るからよ」


 新たな声が一つ。三人が玄関の方を向くと。


「「しゃっ、社長!」」


「親父」


 『立宮たてみやざい株式会社かぶしきがいしゃ』社長で、龍平の父親、立宮たてみやきちすけが立っていた。



 −−−−−−



 あとがき。


 龍平パパ登場です。道野、塩田、パパン、ある意味、『立宮機材(株)』フルメンバーです(笑)


 おにぎり、また出ずにすいません! 次こそは! ……多分(おい)


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