第22握利 龍平くん、鳶職をクビになる!?

「で? 話って何だよ」


 『にぎめし』閉店後の十六時過ぎ。暖簾は仕舞われ、明かりだけが点いている。


 その中で、『握利飯』店主、一門いちもん椿つばは湯飲みなどを洗い、立宮たてみやりゅうべえはいつものカウンター奥の席で、隣に座る『羅武らぶえん』園長、熊谷くまたにかつを見据えていた。勝治は手を組み深刻な表情をしている。


「ああ……。実はな、『羅武園』は、情けない事に、逮捕者を出しているんだ」


「はっ!? 聞いたことねーけど」


「当然だ。お前が園に来る前の話だからな。で、椿佐はそいつの、性被害者だ」


「え……」


 龍平が椿佐を見上げると、椿佐の瞳が揺らいだ。


「性、被害って……」


「そのまんまだ。椿佐の泣き叫ぶ声を聞き、俺が駆けつけたから未遂で済んだがな」


「…………」


「その加害者が、今日、刑期を終え、刑務所ムショから出てくる」


 「出てくる」、勝治の言葉を聞き、椿佐の肩が跳ねた。


「……じゃあ、あれか、こいつがこんな格好しているのって」


「ああ、一門のヤンキーもの好きもあるだろうが、男避けのためだろう。そうだよな、椿佐」


 勝治に声をかけられると、椿佐は蛇口をきゅっと閉め、手拭いで手を拭いた。そして、ゆっくり目を閉じて、深呼吸すると、目を開けた。


「……ああ、そうだ。両親の影響もあるけどさ、一番の目的は男避け。こういう格好して男言葉を使えば、寄ってこないかなと思ってな」


「マジか……」


 龍平は項垂れ、自分の今までの言動をさらに悔いた。


「ま、でも、今では気に入ってるよ、この格好。千紗ちさちゃんみたいにかっこいいって言ってくれる子も増えたしさ」


「そういう問題じゃねーだろ……」


「で、だ、龍平」


「何だよ……」


「お前、椿佐の護衛をしろ」


「……はああぁ!? いや、オレ、鳶の仕事あっし」


「ああ、それなら問題ない。きちやんにはもう話をつけてある」


「吉やん……、ああ、親父か」


「『一門の娘の一大事とあっちゃあ俺もじっとしてらんねー! りゅうで役に立つかわからんが、こき使ってやってくれ!』と二つ返事だったぞ」


「親父……」


 吉やんこと、『立宮たてみやざい株式会社かぶしきがいしゃ』社長、立宮たてみやきちすけ。『羅武園』園長、熊谷勝治。そして、一門夫妻。この四人は、腐れ縁の友人なのである。


「ってわけで、お前は明日からここで住み込みバイト兼、護衛だ」


「す、住み込みぃー!?」


 龍平は動揺し椅子をガタンッと倒し、立ち上がった。


「そりゃそうだろ。店やってる時は客とかいるけど、閉店後は椿佐一人だ、危険だろう?」


「いや、けどよ……」


「住み込みの間、『やなそう』の光熱水費は免除してくれるって吉やん言っていたぞ」


「園長、根回し早すぎだろ……」


「自分の足で証拠を集め、逃げ場がないように相手を追い詰める。刑事デカの基本だぞ?」


「園長、刑事デカじゃねーだろ……」


「ああ、二人には言ってなかったな。俺は元刑事デカだ」


「はああぁぁ!?」


 龍平は先程より大きな声を出した。


「ある時、急にな。困っている子供たちを助けたい! と思い立ち、辞表を叩きつけ、貯金の九割を使って『羅武園』を始めたんだ」


「マジかよ……」


「だから、現役刑事デカの知り合いもいる。ここの見回りを強化するように言っておく」


「ありがとうございます」


 椿佐は深々と頭を下げた。


「でも、奴のことだ。見回りをかい潜り、接触してくるかもしれない。そこで、お前の出番だ」


「園長、オレはヤンキーじゃねーからな。喧嘩が強いわけじゃねーぞ」


「はははっ、わかっているさ。お前は護衛しつつ彼氏の振りをすればいい」


「かっ、彼氏ぃ!?」


「俺に負けないくらい、目つきの悪いお前が彼氏なら、いー番犬になると思うぞー?」


「オレは番犬かよ……」


「というわけで」


 勝治は立ち上がり、龍平の両肩を掴んだ。


「椿佐を頼んだぞ」


「……わかったよ」


「はー、俺ってばなんて優しいキューピットなんだっ」


「こんな厳ついキューピットいねーよ……」


「はははっ」


 龍平の呟きに、椿佐が笑い、空気が少し和らいだ。


 こうして、仮同棲生活が始まるのだった。



 −−−−−−



 あとがき。


 同棲(仮)スタートです(笑)


 そして、最初のやり取りで嫌な気持ちにさせてしまったらすいません!(ジャンピング土下座)


 その分、龍平が頑張りますので!(ザ・キャラ力本願)

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