第18握利 りゅうくんとつばさおねえちゃん。

 ある日の『立宮たてみやざい株式会社かぶしきがいしゃ』の休日。

 『やなそう』の住人、立宮たてみやりゅうべえは自室にて探し物をしていた。


「くそっ、どこいった」


 龍平は整理整頓が苦手だ。漫画は山積み、服は適当に畳むか、大して皺を伸ばさずにハンガーにかけるだけ。

 そんな生活をしている龍平の探し物は、一大事件である。


「ん? これっぽいな」


 押入れの中の山積みの漫画本から、ハードカバーのものを強引に抜き出そうとし。


「抜けねっ、くそっ、よし! ん? おあぁ

!」


 漫画本の雪崩に遭った。


「くそっ、いってーな!」


 坊主頭をさすりながら、龍平は立ち上がった。


「お、これこれ」


 床に落ちていた緑のハードカバーフォトブックを手に取った。

 フォトブックには、『えん有留場無アルバム押忍おす!』』と白で印字されてある。


 フォトブックを捲ると。


「ぶっは!」


 龍平は噴き出した。

 スキンヘッドにサングラス、黒ジャージを着た顔の厳つい園長が、幼い龍平の肩を抱き、満面の笑みでピースサインをしているドアップの写真だったからだ。


「この写真いつ見てもインパクトでけーなー」


 くくっと笑いつつ、龍平はまた捲る。

 次は、当時『羅武園』にいた人の、集合写真だ。

 一番下の段の真ん中に園長が豪快な笑みで座っている。そして、三、四歳ぐらいの幼い子から、七、八歳の少年少女、職員の大人たちが、園長を囲み幸せそうに笑っている。


 龍平がアルバムを取り出したのは。


椿つば、椿佐、椿佐……? あんな男女おとこおんないたか?」


 『にぎめし』の店主、一門いちもん椿つばが同じ施設にいた記憶がないからだ。

 集合写真を見ても。


「……いねーな」


 いるはずなのに、思い出せない。


 思い出すためにまた捲る。


 次のページにはたくさん写真が貼られてあった。


 入園当初のふてくされていた写真、誕生日で口の周り生クリームだらけな写真など、懐かしいものばかりだ。

 その中の一つに、目が止まった。


 幼いを自分を、両手を腰に当て叱っている、肩までの黒髪で、十四、五歳と思われる少女の写真に。

 それを見て龍平は、『羅武園』にいた時の記憶が蘇ってきた。















『りゅうくん、またケンカしてたでしょー?』


『……ケンカしてない。あいつらがかってにつっかかってきたんだ』


『突っかかってきたって? どういう風に?』


『目つきがわるい、食べられるー! って』


『それで、りゅうくんはどうしたの?』


『パンチしてやった』


『それがダメなの!』


『いって! なにすんだよ!』


『今、私に頭を叩かれて痛かったよね? されて嫌だったよね?』


『……やだった』


『自分がされて嫌なことは、しちゃいけないって、園長先生がいつも言っているよね?』


『……でも』


『でもじゃない、ごめんなさいは?』


『……ごめんなさい』


『よーし、よくできました!』


 中々施設に馴染めない自分を気にしてくれた。


『うわっ! 頭をなで回すなよ!』


『りゅうくんは物分かりいいし、本当はすっごく優しいんだから、すぐカッとならないで、一旦深呼吸して、心を落ち着かせてみよ? そうしたら、友達たくさんできるから。ね?』


 優しくあったかくて明るい、向日葵のようで、園児のまとめ役だった少女のことを。






「……つばさおねえちゃん?」



−−−−−−


 あとがき。


 おにぎりは出てきませんが、二人の大切な思い出なので、もう少し続きます。

 そして、また少し二人は近づく、かも、しれません。


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