第17握利 励ましの山菜中華

「こんにちはー……」


 ある日の昼時、申し訳なさそうに『にぎめし』に。


「らっしゃい! って、しおじゃないか!」


 OINEオインやらかし犯のしおとおが。


「詫びも渡したし、親父からも謝っといたから気にするなっつってんのに、いつまでもメソメソしてたからよ。連れてきた」


 りゅうべえに首根っこを掴まれながら、やってきた。


「だってですよー? 立宮副社長」


「だからっ、副社長じゃねー!」


「すいませんっ。立宮先輩っ」


「先輩でもねーだろ! お前は広報だし、オレは現場だし」


「まぁまぁ、立ち話もなんだし、二人共座りなよ」


 椿つばが促すと、二人はカウンター奥の席に座った。


「とりあえず、お茶とおしぼりな」


 椿佐は二人におしぼりと煎茶を手渡した。


「うっス」


「すいません……」


 龍平はいつものように受け取り、遠太は申し訳なさそうに受け取った。


「立宮の親父さんは、そんなに怒ってなかったろ?」


「ああ、寧ろ笑っていたぜ。塩田のことを気に入ったってな」


「なら、よかったじゃないか塩田」


「うぅ……、ですが、あの顔で笑われると、怖いのです」


「親父にチクんぞ」


 龍平はニヤリと笑い、ポケットからスマートフォンを取り出した。


「うわぁ! やめてくださいよぉ! 嘘です! 怖くないです! 男前ですー!」


 遠太の顔が一気に青ざめた。


「ははっ、冗談だっつーの」


 龍平は笑いながらテーブルにスマートフォンを置いた。


「はははっ、まぁ、気持ちはわかるさ。親父さんは立宮以上にいかついからな」


「そうなんです……、目つき怖いんです……」

 

「悪かったな、目つき悪くて。でも、噂じゃ親父は元ヤンじゃなくて、の元のつく人らしいぜ?」


 龍平は人差し指で右頬に線を入れる仕草ををした。


「ヤッ、ヤクザ!?」


 遠太の顔はさらに青くなり、体が震え出した。


「立宮、余計にビビらせてどうすんだよ」


「和ますつもりで言ったんだけどな。……仕方ねーなぁ」


 龍平は面倒くさそうに、坊主頭を掻くと、一つ咳払いをし。


「塩田」


 声色を変え、遠太を呼んだ。


「はひぃ!」


 その声に聞き覚えのある遠太は、背筋を伸ばした。


「お前はドジだが、真面目で一生懸命な奴だ! 俺の目に狂いはねぇ。だから、細かいことは気にすんな!」


「は、はいぃ!」


「……って、親父なら言うと思うぜ」


 龍平は少し頬を染め、外方そっぽを向いた。


「さすが親子だっ、そっくりだなっ」


 椿佐は楽しそうに笑い。


「りゅ、龍平親方ー!」


 遠太は龍平のニッカポッカで涙と鼻水を拭いた。


「オレはまだ見習いだし! 涙と鼻水を拭くな!」


「はいぃ」


「ははっ、無事にまとまったところで、今日はこれさ」


 椿佐は竹ざるにおにぎりを載せ、二人に手渡した。おにぎりの横にはふきの煮物が添えられている。


「これは……、山菜か?」


 龍平はおにぎりの天辺てっぺんに載っている、わらびや輪切りの細竹を見た。


「そうさ、中華おこわ風にしてみたんだ」


「おこわか」


 龍平はおにぎりにかぶりついた。


「……」


「どうだい?」


「……たまには肉以外もいいな」


「そうだろう? 立宮はたまには肉以外も食わないと。仕事は体が資本だし、鳶職なら尚更じゃないか」


「優しい味だ……、田舎のおばあちゃんみたいな……」


 遠太は「ぐすん」と涙ぐんだ。


「また泣くのかよ」


 龍平はおにぎりにかぶりつきながら苦笑した。


「いいえ! 今回は感動の涙です! 和風の山菜おこわ風に見えますがっ、ソースと鶏ガラが中華さを出していてっ、馴染みある味なのに深感覚なんです! すごいですよっ、このおにぎり!」


 遠太の熱弁に。


「そ、そうか、よかったな」


「あ、ありがとよ」


 龍平と椿佐は少し、気圧けおされたのだった。



−−−−−−


 あとがき。


 龍平パパが、本当に“ヤ”のつく人かどうかは(笑) いつか書きたいなと思います。


 山菜、食べたくなってきたなー。


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