小握利 龍平くんのはじめてのおかいもの。

 とある日の休日、昼時。


「…………」


 立宮たてみやりゅうべえは、立ち尽くしていた。


「…………」


 デパートの、ホワイトデーコーナーの前で。


 父親でもある『立宮たてみやざい株式会社かぶしきがいしゃ』の社長に、「義理でももらったら返す、それが漢ってもんだ!」と、言われたからだ。


 だが、龍平は施設育ち。

 バレンタインといえば、施設の先生が作ってくれたチョコチップクッキーや、チョコカップケーキを、何を考えるわけでもなく美味しく食べていただけ。

 だから、十九歳の今、初めて、バレンタインのお返しなるものをする。よって、何を返せばいいか、皆目検討がつかない。


「……食べ物が無難なのか?」


 デパートのホワイトデーコーナーを、ただ見ているだけの龍平だが。ヤンキーよりヤンキー顔で、身長も高いため。


「あの子、大丈夫かしら……」


 買い物に来た奥様方の注目の的だった。

 だが龍平は、そんな事を気にする余裕もない。一人で悶々とし、眉間の皺は深くなるばかりで、ヤンキー顔がより険しくなっていく。よって。


「あの子、バレンタインにもらえなくて、自分でホワイトデーに買うつもりかしら……」


 奥様方の心配も深まるばかりだった。


 そんな時。


「……そうだ」


 龍平はふと思い出した。椿つばは『にぎめし』で、手ぬぐいで手を拭いていた事を。そして、きびすを返し、地下からエスカレーターで上の階へ向かった。






 龍平がやってきたのは。


「ここでいいな」


 一階にある『青巻堂』、ハンカチやタオル、手ぬぐいなどを扱っている店だ。これで、ようやくお返しが買えると、龍平は思ったのだが。


「……何だこれ」


 手ぬぐいの柄が、豊富すぎた。


「…………」


 又しても、龍平は立ち尽くしたが。


「——だぁー! もうこれでいい!」


 頭を掻き回したら、近くに置いてあった手ぬぐいを手に取り、レジに向かった。


「おっ、贈り物ですか?」


 レジの店員にビクビクしながら聞かれ。


「……そうだ」


 龍平は気恥ずかしそうに答えた。


「ラ、ラッピングはどうされますか?」


「……任せる」



 △▲△▲



 十六時頃。『握利飯』


「立宮じゃないか、どうしたんだ?」


 暖簾を片付けようとしていた椿佐の所に、龍平はやって来た。


「……これ」


 龍平はラッピングされた手ぬぐいを差し出した。


「これは?」


「……今日は、ホワイトデーとかいうやつなんだろ。だから……、この前のお返し」


「あー、気にしなくてよかったのに」


「……親父が渡せ渡せって、うるせーから」


「親父さんが、そうかい。じゃあ、ありがたくいただくよ」


 椿佐は暖簾を下ろし、手ぬぐいを受け取った。丁寧に包装紙を取ると、手ぬぐいの柄を見て。


「——はははっ」


 噴き出した。


「何だよっ、柄にケチつけんなよな! センスなんてねーんだからっ」


 龍平が少しムッとすると。


「いや、悪い悪い。あんたらしいなと思ってさ。ありがとな、大切に使わせてもらうよ」


「……ああ」


 椿佐の可笑しそうでもない、本当に嬉しそうな笑顔を見て、龍平も安堵し笑った。


 龍米が選んだ手ぬぐいは、白字にだいだいいろで『米』という漢字柄の、彼らしい選択で、椿佐にお似合いな物だった。



−−−−−−


 あとがき。


 ホワイトデー間に合ったー!

 番外編でしたー。


 おにぎり出てこなくて、すいませーん!

 皆さん、ハッピーホワイトデー!


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