第12握利 お近づきの拉麺

「あの椅子を? いいって言ったのに」


「……そういうわけにはいかねぇ。それにみち親方おやかたに泣きつかれたんだよ」


「道野さんに?」


「『やっぱりあの椅子っ、何どがならねえがりゅうべえ! このままじゃもう二度ど『にぎめし』に行げねえよぉ!』ってな」


「はははっ、気にしないでいつでも来てくれていいのに」


「……だから、椅子を直させろ」


「ああ、ありがとな。入っておくれ」


「……うっス」







「本当に派手にやらかしたなー、親方」


 冬茂ふゆしげが壊した椅子を眺め龍平は言った。


「工具箱あるか?」


「ちょっと待ってな」


 椿つばは二階の自宅に戻り。


「あいよっ」


 赤い工具箱を持ってきた。


「よし、やるか」


 龍平はヤンキー座りをして、担いでいた木材を下ろすと、工具箱からビスとビス打ち機を取り出した。


「切らなくていいのかい?」


「もう切ってきた。見りゃ何となくわかるからな」


「おー、すごいなー」


「でも、まぁ、脚は全部、新しくすっから切って」


 龍平は道野が折ってしまった椅子の脚を根元からのこぎりで切り、持ってきた角材をビス打ち始めた。


「手慣れているなー」


「親父に仕込まれた。一人暮らしすんなら、DIYできるようになれってな」


 龍平は喋りながらもどんどんビス打ちしていき。


「できたぞ」


 あっという間に他の椅子と見紛う事ない物を作り上げた。


「お見事ー! 他のと全く変わらないよっ」


「補強しといたから、これで親方がどんな体勢を取っても大丈夫だろ」


「ははっ、ありがとな。そうだっ、お礼と言ったら何だが、また新メニュー考えたんだ。夕飯にどうだい?」


「……オレは毒見役か?」


「はははっ、違うさ。常連さんの“舌”を信じているのさ」


「……まぁ、腹減ってから食うけどよ」


 龍平は立ち上がると、工具を箱にしまい、いつものカウンター奥の席に座った。


「じゃあ、まずはおしぼりと煎茶な」


 椿佐はおしぼりと煎茶を龍平に手渡した。


「……うっス」


 龍平はそれを受け取ると、おしぼりで手を拭き、煎茶を一口飲んだ。


「新メニューはこれさっ、拉麺ラーメン!」


「ラー、メン?」


 椿佐は竹ざるにおにぎりを二つ載せ、龍平に手渡した。

 海苔で包まれたご飯は、とり出汁だしと焦がしニンニク油で炒められ、刻みねぎ、焼き豚、メンマと混ぜられてある。

 天辺てっぺんにはナルトと小さく切られた焼き豚が載っている。


「……すげーな、匂いはラーメンだ」


 焦がしニンニクの匂いを嗅ぎ、龍平は声を漏らした。


「味も結構っ自信あるよ!」


「どら。……」


 龍平はおにぎりにかぶりつき、黙り込んだ。


「ど、どうだい?」


 不安げに椿佐が聞くと。


「……ラーメン食ってるみてぇ」


「つまり?」


「……美味ぇよ」


「よかったっ。拉麺握り採用っと」


「これ、バリエーション増やせるんじゃね? 味噌、塩、豚骨とか」


「はははっ。いいねぇっ、やっぱり立宮に食ってもらってよかったよ」


「……さっきもそうだが」


「ん?」


「人払いとか、味見ぐれぇならできっから。……何かあったらオレを呼べ」


「いいのかい?」


「ああ。だからっ、携帯!」


「あいよっ」


 龍平はおしぼりで手を拭くと、椿佐のスマートフォンを受け取った。それに、タップして何かを入れていく。


「ん。オレの番号とアドレス」


 龍平は椿佐にスマートフォンを返した。


「おー、ありがとな」


「……メールは漢字がめんどくせーから、電話で寄越せよな」


「ははっ、わかったよ」


−−−−−−


 あとがき。


 『立宮機材(株)』の子なんで、木材と工具類の扱いはあらかた、仕込まれています(笑)


 いつか、立宮パパ、一門夫妻、そして、園長(笑)を、書けたらいいなと思います。


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