第10握利 お詫びの葱焼豚

 ある日の昼時。


「がっはっは! 今日も椿つばさんのおにぎりは美味えなぁ!」


 騒がしい声が『にぎめし』に響いていた。


「親方うっせー。やっぱ一人で食いに来た方が静かでがいいな」


「そうだ! りゅうべえおめ最近一人で来てっぺっ。抜け駆けは許さねえぞ!」


「抜け駆けって……、別に一人で来ただけだろ」


「それを抜け駆けと言うんだ! まぁでも、やーっと椿佐さんの魅力に気づいたんだな」


「……魅力というか、クソジジイじゃなかったと、わかっただけだ」


「ようやぐ女の人だとわがったが! がっはっはっ、はぁ!?」


 冬茂ふゆしげが大きく仰け反った瞬間。


「あーあ」


 龍平の呆れた声と共に、脚が折れ椅子が壊れた。


「いだだだっ。あっ? ああっ!? すまねえ! 椿佐さんっ、壊しちまった!」


「いいっていいって。もう大分ガタが来てたし。きっと買い替え時だって教えてくれたのさ」


「……でも、開店当初からあったろこの椅子。大事なもんなんじゃねーのか」


「まぁ、確かにな。開店初日から一緒に頑張ってきた仲間さ。でも、お客さんに怪我させちゃ悪いし、明日買ってくるよ」


「すまねー!」


「……よっし! じゃあ今日はみち親方おやかたのおごりだな! だよな!?」


「おー! 食え食え! 椅子一脚買える分ぐれえ食え!」


「よっしゃ! じゃあまず……」


 龍平は木製メニューをじっと見つめた。


ねぎ焼豚チャーシューと肉味噌と」


「おいおいっ、龍平っ、おめ、そーたに食えるのが? 残すなよ?」


「残さねーよ」


「はははっ。立宮たてみやはいつも食いっぷりがいいからなー。あたしも見ていて気持ちいいよ。そんじゃまず」


 椿佐はさわらのおひつから木製しゃもじでご飯をすくうと、白いタッパーから白髪葱と混ぜられた焼豚を箸で掴み中に入れた。そして、慣れた手つきで優しく握っていく。


「葱焼豚な」


 そして大きな海苔で包むと、竹ざるに載せ龍平に手渡した。


「ん」


 龍平は既に頼んでいた焼肉握りの最後を口に放り込み、両手で丁寧に受け取った。おにぎりの天辺てっぺんには炭火で焼かれタレが染み込んだ一口焼豚とシャキシャキ白髪葱が載っている。


「本当に大丈夫かい? あと二つ来るけど」


「余裕。もう二つは楽勝」


「ははっ、食べ盛りだねー」


「鼻垂れだからなっ」


「うっせ! …………」


 龍平は葱焼豚握りにかぶりつきながら、冬茂が壊してしまった椅子を見つめていた。


−−−−−−


 あとがき。


 次回、第二章です。

 龍平がプチアプローチする、かも、しれない章です(笑)


 読んでくださる皆さんに感謝です。


 引き続きお付き合いと、応援ポチなどしてくださると励みになり、龍平がたくさん食べます(笑)


 お星様↓

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