第9握利 仲直りのイタリアン

椿つばさん! 来たよ!」


 ある日の昼下がり。カレピとやらに浮気され、号泣していた千紗ちさが『にぎめし』にやってきた。


「うぎゃ! またいる! ヤンキー!」


「だーかーら! オレはヤンキーじゃねぇ!」


「うわっ! 本当にヤンキーだ!」


「だーから、って、誰だテメェ」


 千紗の隣にいた穏やかそうな少年を見て、りゅうべえは言った。


「千紗ちゃんのカレピさ」


「ああー、浮気ヤローか」


「ちっ、違うんだよ! あれには訳があって!」


「まぁ、座りなよ二人共」


「はい……」


 千紗とカレピと呼ばれた少年は、龍平から一つ空けた左の席に座った。


「まずは、お茶とおしぼりな」


 椿佐はいつものように煎茶とおしぼりを二人に渡した。


「ありがとうございます……」


「それで? カレピのゆう、浮気は本当かい?」


「違うんです椿佐さん! あれは浮気じゃないんです!」


 癖っ毛の黒短髪に垂れ目の花崎はなさきゆうは、涙目になりながら顔を上げた。


「違うって何が!? 私は現場も押さえたし、証拠のメールも……、ほらー!」


 千紗はスカートのポケットからピンクのスマートフォンを取り出し、操作すると優也に見せつけた。


「転送してたのかよ。ちゃっかりしてんなー」


 龍平はおにぎりにかぶりつきながら、苦笑して呟いた。


「だっ、だからっ。これも、そうだけどっ、そもそもが違うんだって!」


「そもそもって何よ!」


「あの子は確かに後輩だけどっ、従姉妹なんだって!」


「……従姉妹?」


「そう! 従姉妹!」


「手を繋いでいたけどー?」


「あの子は誰にもそうなの!」


「じゃあ、何であんなに楽しそうにしてたの!?」


「それは、これを……」


 優也は学生鞄からキーホルダーを取り出した。


「あ! それっ、私が欲しかったやつ!」


 千紗はオレンジと黄色の丸飴と金平糖を模したキーホルダーを見て、目を輝かせた。


「そう、もうすぐ付き合って一年だから……、一周年記念にと思って……。そしたら見つかって「楽しそうだから私も行くー」ってなって……」


「え? ……あー!」


「ちゃんと……、一周年の時に渡したかったのに……」


「……」


 優也は落ち込み、千紗は「やってしまった」という顔で口を開けたまま固まった。


「まぁまぁ、誤解は解け、仲直りできたんだからよかったじゃないか!」


 沈黙を椿佐の元気が止め、雰囲気をがらりと変えた。


「仲直りできた二人にはイタリアンだよ!」


 椿佐は竹ざるに載せたおにぎりを二人に手渡した。

 海苔が包まれてない所から、ケチャップライスが見えている。天辺てっぺんには輪切りにされたピーマンの中にベーコンとコーンが載っている。


「うわー! カラフルー!」


「あたしは流行には詳しくないけど、『映える』ものが高校生で流行ってんだろ? だからどうかなと思ってさ」


「……椿佐さん」


「ん?」


「椿佐さんはそんな事しなくてもっ、椿佐さんが映えだからいーのー!」


「ははっ、よくわかんないが嬉しいよ。ま、食べてみてよ」


「うんっ」


「いただきます」


 千紗と優也はおしぼりで手を拭くと、おにぎりを両手で持ちかぶりついた。


「どうだい?」


「……甘いケチャップライス、オリーブと胡椒が効いたベーコンやコーン、それにピーマン。それぞれがいい味を出していて丁度いいバランスで美味しい!」


「そいつはよかった」


 椿佐は千紗の言葉を聞き、嬉しそうに笑った。


「……美味しい。……椿佐さん」


「ん?」


「好きです!」


「はははっ、あたしも優也が好きさ」


「えー! ダメー! 椿佐さんのファン第一号は私なのー!」


「ファンって何だよ。ファンクラブでもあんのか」


 三人のやり取りを聞いていた龍平は、煎茶を飲みながら呟いた。


「え? よく知ってるねー、あるよ椿佐さんファンクラブ」


「マジか……」


 龍平は唖然あぜんとした。


「その名も『ツバサを広げよう!』」


「どっかの歌のパクリかよ」


「只今御礼会員二十名!」


「すげーな」


 龍平は苦笑しながらおにぎりにかぶりついた。


「呆れてるけど、ヤンキー……、あー、そういえば名前は?」


立宮たてみや立宮たてみやりゅうべえ


「りゅーちんだって椿佐さんのファンでしょ?」


「りゅーちん!?」


 龍平は目を見開き。


「ははっ、りゅーちんかっ。いいねー、可愛いねー」


 椿佐は笑った。


「りゅーちんはやめろ! それに、ファンじゃねー!」


「えー? 最近高確率でお昼に『握利飯』にいるのにー?」


「……何で知ってんだ」


「ふふーんっ。こーれ!」


 千紗は高校生がよく使っているアプリ、『OINEオイン』の画面を出した。

 そこには。


『握利飯ナウ』


 千紗のメッセージの後に。


『裏山ー』


『写メヨロ』


 次々と、ファンクラブメンバーからメッセージが送られてきていた。


「これが何だ」


「見ててー」


「あ?」


 千紗の携帯に。


『あのヤンキーはまたいるか?』


『絶対に奴は椿佐さんにホの字だ』


『見つけ次第、報告せよ』


『奴は我々の敵だ』


『捕らえるべし』


『べしー!』


「…………」


 次々と龍平に関するメッセージが送られてきた。


「りゅーちんは私たちの敵なの!」


「勝手に敵にすんな! そして、オレはヤンキーじゃねー!」


「はははっ!」


−−−−−−


 あとがき。


 無事に仲直りできました。

 『おにぎり』と『L◯NE』だから、『オイン』(笑)……ネーミングセンス誰かください。


 よければフォローやお星様ポチしてくださると、私のネーミングセンスがレベルアップするかもしれません(笑)

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