第14話

 モヤモヤしたまま、三日が過ぎた。

 今日は茜くん以外、おそうじクラブに集まっている。

 茜くんは先生に頼まれごとをしていて遅くなるんだって。

 相変わらずいろんな人に頼られてるみたいだ。


「この部屋、かなりキレイになったな!」

「わかばくんが片づけてくれてるんだよね?」

「あはは……」


 ぼくが片づけてるのは、まちがいない。

 モヤモヤしたらそうじしたくなるクセが、大爆発って感じだ。

 気づいたら、ヒマなときはついこの部屋をそうじしちゃってたんだよね……。

 おかげでかなり部屋の中はすっきりしてきたぞ。


「助かるわ」

「藍里はもっと心を込めろよ。一番散らかしてんの、おまえなんだから」

「ちゃんと込めてるわよ」


 そう。

 意外なことに、部屋がゴチャゴチャしていた一番の原因は藍里さんだった。

 よく本を広げて、さらに別の本を広げて、メモして……って作業をしていたら、散らかっていくらしい。

 最初部屋を見たときは、てっきり琥珀くんのしわざだと思っちゃったんだけどね。

 琥珀くんに失礼だから、これは内緒で。


「あいりちゃんは何をしてるの?」

「うん……こないだの封印マークの位置を改めて確認したくて」


 藍里さんの眉が、ぎゅっと寄っている。

 桃香ちゃんと琥珀くんものぞき込んだ。

 ぼくも見てみたけど……よくわからないな。


 一階から三階まで、それぞれ二カ所ずつ。

 全部で六カ所。

 それぞれの位置は離れている。

 何か関係があるのかな?

 均等に封印した、みたいな感じかな。


「何かわかりそうなんだけど……情報が足りないわね。桃香、そちらの地図も広げて」

「う、うん」

「センパイに頼めばいいのだわ」


 やれやれ、と言わんばかりにスズが足をパタつかせている。

 そういえば、結局、みんなとその話はできないままだった。


「……みんなは知ってるの? その、先代に当たる人のこと」


 気になって聞いてみる。

 藍里さんが顔を上げた。


「少しだけ。わたしと琥珀は後から入ったから」

「そうだなー。茜が引継を終わった後に、オレらがスカウトされたって感じだったもんな。桃香の方が知ってるんじゃねーかな」

「わ、わたし? わたしも、少しだよ。せんぱいもあかねくんもすごそうな人たちで……緊張して、最初はぜんぜん話せなかったの」


 ああ……たしかに桃香ちゃんじゃなくても緊張しそう。

 ぼくも最初のころは、茜くんだけでも緊張したもん。

 会ってみたいような、少し怖いような……。


「ま、茜が来たら聞いてみりゃいーよ。ところで若葉、オレも手伝おっか?」

「ありがとう。でも藍里さんの方を手伝わなくていいの?」

「集中モードに入った藍里の近くをうろついてたら邪魔者扱いされちまうよ」


 琥珀くんが肩をすくめる。

 見れば、たしかに藍里さんは集中モードだ。

 校内の地図をたくさん広げてじっと見ている。にらんでいると言ってもいい。

 桃香ちゃんがサポートしているみたいだし……うん。

 ぼくらの出番じゃないかも。


「じゃあせっかくだしお願いしようかな……。今は本の整理をしてたんだ。隣の棚をお願いできる?」

「オッケーオッケー。……うわ、若葉すげーな。めちゃくちゃきっちりじゃん!」

「そうかな」


 琥珀くんの素直すぎるオーバーリアクション。

 いつもなんだかむずがゆい。悪い気はしないんだけどね。


「高さまできっちりそろえてさぁ。うへー。オレにできるかな」

「大丈夫だよ。いったん、全部本を出しちゃった方が早いかも」

「なるほどなー。よいしょ、っと」


 琥珀くんは、さすがというか、動きが速い。

 手慣れた感じで本を取り出していく。

 よし、ぼくも片づけちゃおう。

 あ、どうせ本を取り出すなら、ぞうきんでキレイに拭いても良かったな……。


 ん?


 ぼくはパチパチ。

 何度かまたたいた。

 本を取り出したら、その奥の壁に……何だろう。

 ドア?

 わかりにくいけど、引き戸みたいなドアが……。

 あれ、これって……。


「わかったわ!」


 ポカンとしていると、いきなり藍里さんがさけんだ。

 ぼくらはビックリして飛び跳ねる。

 あの藍里さんが、こんな大声を出せるなんて!


「な、何だよ。藍里、びっくりさせんなよ」

「そうよ。高さだわ。高さをそろえれば良かったんだわ」

「はあ?」

「見て」


 藍里さんが三枚の地図を机に広げた。

 一階、二階、三階。

 それぞれ二カ所ずつ、赤く丸がつけられている。

 全部封印のマークがあった場所だ。


「この三枚の地図を重ねて……」


 地図を重ねると、うっすら、それぞれの赤い丸も見える。

 藍里さんは赤いマジックペンを取り出した。

 キュッ、と線を引いていく。


「それぞれを直線で結ぶと……ほら」

「あ! 封印のマーク!」


 六ヶ所を上から見ると、封印のマークと同じ絵ができあがった。

 星形のマーク。六芒星だ。

 なるほど。

 それぞれにあったマークも六芒星だったけど、それらを全部結ぶと、さらに大きな六芒星になるんだ。

 うーん。ずいぶんと大きな封印だ。


「それに、見て」

「まだ何かあるの……?」

「関係があるかはわからないわ。でもこの記号の中心……ここよ」


 え?

 もう一度地図を見てみる。

 線に囲まれた、真ん中の場所。


「記号の中心は、おそうじクラブなの」

「……あの……ぼく、今さっき、不思議なドアを見つけて……」


 みんながいっせいにぼくを見る。

 う。そんなに注目されると、緊張する。


「しかも、そのドアに、その封印マークが描かれてて……」


 そう。

 ぼくが見つけた、本棚の奥のドア。

 そのドアには、同じように六芒星が描かれていたんだ。

 これって、どういうこと?


「隠し扉ってやつか? すげぇじゃん若葉!」

「いや、そうじしてたらたまたま」

「もしかして、先代はそこに大きな何かを封印していたのかしら」

「でもその封印が薄くなっちゃって……外に出てきちゃうかもしれないってこと……?」


 ごくん。

 ぼくはつばを飲み込んだ。

 それが本当なら一大事だ。

 確かめた方が……いい、よね。


「やめるのだわ! 危なかったらどうするのだわ!」

「スズ……」

「別に危ないことはしねーよ。ただ確かめるだけだって」

「そうね。様子を確認しないことには判断もできないし。手遅れになるのが一番まずいわ」

「このまま放っておいて、学校のみんなが危ない目にあうようなことになったら、わたしもやだな……」

「モモカまで!」


 悲鳴を上げたスズが、ぼくを見る。

 スズの気持ちもわかる。

 ていうか、ぼくだって怖い。

 でも……。


「……ぼくも、ちゃんと本当のことが知りたい」

「ワカバ!」


 だって。

 ぼくだって。

 ぼくらは。

 おそうじクラブの一員だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る