第12話 病室と彼女

 病院に着き、エレベーターで二階に上がった。少し進むと彼女の名前の部屋があった。

 心臓の鼓動が早くなるのがわかった。それでも知らないままいるわけにはいかないと思い、勇気を振り絞り踏み出した。

 部屋に入るとベッドの上でノートに何かを書いている彼女の姿があった。思ったより元気そうでよかった。集中してこちらに気づいてなかったので僕の方から話しかけた。


「何書いてるの?」


 彼女は不意をつかれたかのようにピクッと動いた。それと同時に慌ててノートを閉じた。


「びっくりさせないで! 来たなら言ってよ!」


「ごめんごめん、あまりにも集中してそうだったから」


「こんなに早くくると思わなかったよ。その花持ってきてくれたの?」


 僕の手に持ってる花を凝視している。


「お見舞いだからね。色々悩んだんだけどどれがいいかわからなくて」


 彼女は心底驚いたのか固まっている。やはり男が付き合ってもない人に対して花を持ってくるのはおかしかっただろうか。


「ともやくん、この花の花言葉知ってる?」


「知らない」 


「なんだ知らなかったのか! 私は小説書いているからそこらへん詳しいんだよ!」 


 彼女は誇らしげに言ってきた。彼女の姿を見てるといつもの彼女だったので少し安心した。自然と笑みが出た。


「体調は大丈夫なの?」


 彼女の顔から笑みが消えて、少し俯いた。少し安心しかけた僕の心は再び不安になり始めた。

 お願いだから早く大丈夫って言ってほしい。すぐに学校に行けるって言ってほしかった。しかし、僕の願いは叶うことはなかった。


「私もう長くないかもしれないの…」


 何かの冗談であって欲しかった。いつもの笑顔で嘘だよって言ってくれたらどれだけ救われることか。でもきっと僕なんかより彼女はもっと辛いはずだ。

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