第26話~2022年12月21日のお話(清掃会社を退職)~

2022年12月31日更新


妻に相談した。清掃会社を一日おきでも続けるのか、海外営業職がOKだったら戻るか、タクシーをするか。


妻は厳しい口調で言った。

「仕事の価値観って難しいんだよね。仕事の辛さは本人しか分からないからね。私のパートの仕事が辛いと言っても信一さんは分からないでしょ?その人にとっては我慢できる事でも他の人にとっては絶対無理だという場合もあるし。ただ、私だったらパートの事務の仕事をしながら収入が途切れないようにして正社員の求人を探すかな。でもそのやり方は信一さんは嫌なんだよね?ただ、清掃のお仕事はキツイし、深夜勤務は信一さんは辞めるべきだと思うよ。あと、清掃の仕事も海外営業職の会社も一度ギブアップしたんだから、もう一度戻ってもまた辞める事になると思う。信一さんの場合は覚悟がないんだよ。一度この会社に入ったら3年は絶対辞めないとか。そういう覚悟がないんだよ」。


私はそれを聞いて清掃会社も海外営業職も辞めた方がいいと思った。


改めて清掃会社に退職する旨を伝えた。出勤3日間でギブアップ。

作業着を返却しに、この日の午後に会社を訪問する事になった。海外営業職の会社からは返事がない。とりあえず先方も簡単に答えを出せるわけはないはずだ。待ってみようと思った。仕事が始まる前に辞めてしまった後悔は心の中にまだあった。できればここでもう一度チャレンジしたいとは思っている。


友人に清掃の会社を辞めた事を報告した。

友人は「よく、そんなに仕事を変えて疲れませんね。その根性を1つの仕事に向けることはできないんですか?」と言った。的を得た答えだと思った。

彼は今の会社を5年務めていて、私とそこで出会った。5年間からずっと転職したいと言っているが、なかなか踏み出せないでいる。

転職に踏み切れない彼からすると私の転職を繰り返す行動は異質に見えるのだろう。


就労支援センターの担当の男性にも清掃会社を三日間で退職した事を報告した。


「人間関係ではなく、仕事がきつかった?深夜勤務でしたものね」。


「はい。人はみんな優しかったですね。深夜勤務で体がボロボロになり、トイレ清掃も過酷でした。今日この後、退職の手続きに行ってきます」。


「そうですか。まずは体を休めてください。とにかく精神科の病院の方に診療に行かれた方がいいと思います。あと、くれぐれも今後については奥さんと話し合ってください」。


彼は、特に驚きもせずに淡々と話した。私のように会社に入っては辞める事を繰り返す人を沢山見てきているのだろう。とにかく、就労支援センターの方でも今後については、病院や妻に匙を投げられてしまった。まあしょうがない。妻が言うようにその人がどんな仕事が向いているか適切なアドバイスを第三者がすることは困難なのだ。私を一番よく知る両親も、妻でさえも明確な答えを出せない。ましてや、当の本人でさえも、どの会社のどんな職種を選ぶべきか迷って失敗しているのだから。誰にも分かるはずもない。


午後、清掃会社に退職の手続きに行った。


所長に近づき、3日間の勤務で辞めた事を謝った。

「この度は誠に申し訳ありませんでした」


所長は、「最近3日くらいで辞める人が続いていたから辞めないでほしいという話をしたんだけどね~」と苦笑いをしながらチクリと胸を刺された。


これで今月辞めた会社は3社目。「自分って終わっているな」と思った。


再雇用をお願いしていた海外営業職の会社からメールが来た。


「この度は弊社総務宛てに再入社の件にてお問合せがありましたが、

試用期間中に自己都合でご退職されました方の再入社は前例がございません。

また、既に複数名の採用面接を実施しているところであり、申し訳ございませんが、

佐々木様のご希望にはお応えすることができないことをここに申し上げさせていただきます。

佐々木様の今後の就職活動の成功をお祈りしています。」


まあ分かっていた事だが、残念な結果になった。

とりあえず上司に再雇用の件で掛け合ってくれた総務担当の女性にお礼のメールを打った。


「この度は上司の方に再雇用の件で掛け合って頂いて、誠にありがとうございました。

結果は残念ではございましたが、これで前に進める事ができると思います。

実は、お願いしておきながら、このような答えを頂くようになる事は予想していました。


御社のような立派でエリートな会社が一週間で辞めた人間をまたすぐに再雇用するなんて事はしないだろうと思ってました。


やっぱり人生、やり直しはできませんよね。


お子様の体調は大丈夫でしょうか。


寒くなってきましたのでくれぐれもお体にお気を付けください。

それではまた何か書類関係で必要になった際は宜しくお願い申し上げます」


私には、タクシーをやる選択しか、もう残されていないと感じた。

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