第25話~2022年12月20日のお話(退職ではなかった清掃会社)~

2022年12月31日更新


一昨日の日付が変わる直前に清掃会社に辞めさせてくださいと留守電にメッセージを残したきり、昨日、丸一日清掃会社から退職の件で何も連絡が来なかった。

このまま直接所長に挨拶もしないまま幽霊のように辞めてしまうのは気持ち悪かったので会社に電話した。所長に謝ろうと思っていた。所長が電話に出た。


私が「この度は急遽辞める事になってしまい申し訳ありませんでした」と言うと、

所長はびっくりした声で、「えっ?辞めるの?」と言った。


「はい。そのように一昨日メッセージを留守電に残させて頂きました」。


「あ、ごめん。確認してなかった」。私は拍子抜けした。


私は気を取り直し改めて自分の気持ちを伝えた。「仕事がきついので辞めたいです。清掃するトイレの数も半端ないですし。深夜勤務が与える体への負担も辛いです」。


所長は私を引き留めた。「まあ、2か月もすれば深夜勤務は慣れてくるし、トイレの数が多いと言われても女性でもやっているからね。辞めないでもらえないかな。一日おきの勤務でもいいし、昼の勤務に変える事もできるから」と必死で説得された。


私は内心どうしようか悩んだ。

所長は「今、辞めてしまったらこれまでと変わらないよ。ここらで辞めるくせを直そうと思わない?ここで辞めたらまた別の所に行ってもまたすぐに辛くなって辞めると思うよ」。


「とりあえず学童の就労証明書の件もありますので、学童に聞いてみて、どんな内容の記載なら通るかを聞いてみます。妻にも相談しますので少々お時間を下さい」と言い電話を切った。

所長の言葉の「ここらで踏ん張ってみないか。ここで辞めるとまた辞める事を繰り返すよ」が心に引っかかった。

ただ、一日おきの仕事にしたからと言って掃除するトイレの数や仕事内容が変わるわけでもない。そして給料も計算すると月給14万円ぐらいになってしまう。しかし、それでも無収入よりはマシか?海外営業職に戻らせてくださいと言ったものの、また辞める可能性も大いにある。どうする?自問自答しても答えが出なかった。

とにかく今日、妻がパートから戻ってきたら相談をしよう。


学童に連絡をした。とりあえず就労証明書は、パートの雇用形態でも大丈夫だと言う事だ。そして勤務時間と勤務日数は、一日最低4時間以上の勤務を月に12勤務以上の48時間が最低ノルマらしい。だから清掃で一日おきの勤務になっても大丈夫なわけだ。あとは契約期間を今年末から来年の4月以降の記載に変えてもらえば書類は通るという。


私は両親に状況を説明した。「おれは二人から援助をしてもらっている立場だから、海外営業職の仕事で再雇用されなかったら、まずは連絡をするよ。それで清掃の仕事をするかどうか、もしくはタクシーの昼勤務をするか相談させてね。タクシーは引く手あまただから、やろうと思えばいつでも採用されると思うんだよね。二種免許持っているし、経験者だし、42歳だとこの業界ではかなり若い方だからね」。


両親は、「毎日変化がありますね~」と辟易気味だ。

「海外営業職の仕事はまた追い詰められないか心配だね。裕子さんも恥をかいたと思わないで気にしないようにするしかないと思うよ。清掃のパートだって立派な仕事だよ。とにかく裕子さんと相談してください」と言われた。


友達に海外営業職に戻らせてくださいという話をしたら「それはなかなかヤバいですね」と言われた。「どんな意図であれ、引き留めてくれた清掃の仕事を続ける方がいいじゃないですか?」とアドバイスをくれた。


とりあえず家事を終わらせ、お昼の時間になりお腹が空いたので外に出た。

急に赤ワインが飲みたくなった。そして赤ワインに合うイタリア料理が食べたくなり、近所の「ゴマ油の丘」に行った。グラスに注がれた赤ワインを空きっ腹に入れると腹がキュッと熱くなった。そしてバルサミコソースで焼かれた甘じょっぱい味付けのスペアリブを食べた。肉がホロホロで口の中でとろける。赤ワインと一緒に頬張ると最高の相性だった。

ライスコロッケを追加注文した。トマトソースがかかっていて、衣はサクサク、中にはライスと、とろけるクリーミーなチーズが入っている。絶妙なハーモニーだ。赤ワインのグラスを二杯飲んでしまった。

頭がフラフラして、眠気が襲ってきた。何もする気がおきない。早く家に帰って寝たいと思った。


仕事をせずに親からの援助金で生活しているゴミ人間が昼から赤ワインを飲んでフラフラしている。とても親には言えない。一生懸命働いている妻にも言えない。

これが背徳感かと思った。

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