第15話 ~2022年12月7日のお話(海外営業退職)~

2022年12月15日の更新


12月7日。海外営業職の会社に行って今までの経緯を説明した。

目の前についこの間面接をしてもらった部長と課長が神妙な面持ちで座っている。

私は退職したいと申し、そこに至った経緯を改めて説明した。

「入社日に営業の仕事内容である、お客様と商談をして、販売状況の課題をヒアリングし、販売戦略を練り立案して売り上げを拡大していく事が至上命題だという話を聞いて体調が悪くなりました。次の日に体が会社に向かなくなり、食あたりだと嘘をついて休みました。月曜日は頑張って会社に行きましたが国内営業リーダーから実務で使っている資料を見せてもらいながら業務内容の説明を聞き、その中で、今後は国内の顧客の担当になることもあると聞いて、さらに重荷に感じました。その後、営業課長から再度詳しい実務資料を見せて頂きながら実務で作成することになる資料を見て、これは自分にはできないと面を喰らってしまいました」。


部長は「当然アルバイトではないので、後々にやってもらわなくてはならない業務です。業務が始まる前にストレスになっているのでは辞めたほうがいいと思いますよ。佐々木さんも辛いでしょうから。研究開発や製造部との連携もあるので、業務が始まって欠勤されたら困りますからね。海外営業職以外の他の部署では求人を募集していないので、退職の手続きに入って宜しいでしょうか」と聞かれ、「はい」と答えた。

12月1日に入社して12月7日に辞めた。勤務日数はたった二日。


部長から最後に聞かれた。「辞めることは奥さんは何て言ってるんですか」。私は何も答えられなかった。「これからどうするんですか」と聞かれたが、全くの白紙だった。

私の方こそ聞きたかった。私はこれから何をすればいいんでしょうかと。


会社を後にして、もう清掃のパートしかないかと考えた。その時、ふと思い出した会社があった。海外営業職の会社と同時期に面接してくれた通関業務を行う会社だ。

私が他に面接を控えている会社があるので結果が分かり次第ご連絡しますと言ってから宙に浮いていた。私はダメ元で採用してもらえないか頼んでみようと思った。電話をかけた。

「以前、面接をして頂いた佐々木と申します。ご連絡をしないままになっていたと思います。私は不採用になったでしょうか」と聞くと、

「いえ、不採用ではありませんよ。そちら様のご連絡を待っていましたよ」と答えが返ってきた。「どうかしましたか」と聞かれ、私は正直に話した。

「実は海外営業で採用になった会社に入社したのですが、業務内容を聞いて自分にはとてもできない仕事であると判断して早々に退職しました。そして今無職になってしまいとても困っていまして、もし、御社の方で宜しければ私を働かせて頂けないかというお願いのお電話なのですが」と心の内を明かした。

担当者は「社長に聞いてみてまたご連絡します」と言った。

就労支援センターに会社を辞めた事を報告した。掃除の仕事をするのもいいけど、またすぐに辞めてしまう可能性が高い。認知行動療法をするのならそれはそれでいいと言われた。

就労支援センターに来る人のほとんどが採用された事がゴールになっていて、実際働き始めると続かない人が沢山いるとの事だ。私もその一人。自分が辛いとばかり言っても相手は理解してくれない。家族崩壊する事を一番懸念していると言われた。奥さんの言う事を聞いた方が今はいい。就労支援センターが横から入ると邪魔をすることになりかねませんから。まずは何か働きながら、それを続けられるように認知行動療法をやった方がいい。奥さんの価値観を認めて自分が努力してくださいと言われた。精神科から診断書を提示されたのなら障がい者手帳の枠で働くしかないが、診断がないのなら一般雇用で働くべきとアドバイスをもらった。精神障がい者は手帳を持っていてもすぐに会社に来なくなる可能性が高いから採用されにくいらしい。確かに私がそうだ。最後に「人が嫌味を言ったり、厳しい事を言ったりするのは期待の裏返しですよ」と言った。

先ほどの通関会社から電話があった。「社長と相談しました。うちの会社でも合う合わないがあると思いますので、始めは時給1500円のアルバイトで明日から働いてみますか」と聞かれ、「宜しくお願いします」と答えた。

早速、妻に今日会社を退職した事と明日からアルバイトで通関会社で働く事になった事を報告した。妻は「仕事内容は合ってそうだしね。アルバイトならいいんじゃない?合わなければすぐに辞めればいいし。掃除のバイトよりはマシだと思う。掃除はキツイから。あとは認知行動療法をやって、同時に正社員の仕事を探して一日一日焦らずやっていこうよ。追い込まないで頑張ろう」と励ましてくれた。


両親が妻(裕子)から受け取っていたメッセージを転送してもらった。

「やっぱり精神科やプロの意見は違いますね。私の考えと全く同じです。両家の家族間で話し合っても、かばいあいになってしまいますからね。冷静な判断を言ってくれる中立的な立場の機関があり救われました。家庭崩壊が一番懸念される事を分かってくれる場所があり助かりました」。


両親は妻に以下のメッセージを送っていた。

「昨日は、本当に苦労かけましたね。裕子さんが迎えに来てくれたので段々心が落ち着いてきたんですね。ありがとう。一番の薬は裕子さんですから」。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る