第13話  ~海外営業職編(12月5日の話)~

2022年12月12日の更新 


12月5日(月曜日)。妻、両親、兄弟との約束通り会社に行った。朝、職場に着くと部長と課長が座っている席に真っ先に向かった。「先週の金曜日は休んでしまい申し訳ありませんでした」。部長は「もう体は大丈夫ですか。金曜日はどうしたんですか?」と聞かれ、「食あたりだと思います。生ガキを食べましたので、それが怪しいです」と嘘をついた。

初めて一日を営業部の職場で過ごした。特に周りを見渡しても変な人はいなそうである。昼食も普通に食堂で仕出し弁当を食べた。食欲はあった。


午後から国内営業のチームリーダーから営業の仕事内容の説明を1時間30分にわたり聞いた。話を聞いているうちにだんだん気分が悪くなってきた。私は海外営業担当で採用された。しかもルートセールスの受発注だけをやっていればいいと気楽に考えていたが、海外営業担当でもこれからは国内の営業をして顧客の担当を持つようになると言われた。そのためにウェブでの商談や国内出張も頻繁に行くことになると言われた。現在、営業部が抱えている販売課題の資料を見せられた。事細かく書かれている報告書であった。この資料も作ってもらう事になると言われて、血の気が引いた。

その後、海外営業担当の課長から具体的な業務内容の説明があった。膨大な営業資料を見せられ、簡単だと思っていた受発注業務のマニュアルも事細かにプロセス別にシートが分かれている。これだけでも覚えていけるのだろうかと恐怖した。さらにこの他に、営業課題、販売戦略を立案して顧客を開拓するなんて無理だと思ったし、自分の方向性とはまるで逆方向だと思った。


精神科の先生の言葉を思い出した。

「無理だと思ったらすぐにストップしてください」。


私は業務が終了し家に帰ると、妻、両親、兄弟に限界を訴えた。


「今日も営業部の先輩社員と課長から業務内容を聞いたけど、時間をかけたらどうにかなる仕事内容ではないと思った。もちろん最初から全てをできるようにならなければいけないわけではないけど、営業の色々な報告書や、商談、受発注でさえ複雑すぎて、メールの対応の数も多いし、すでに戦意喪失してしまった。社会保険にまだ加入していない状態だから、その前に見切りをつければ職歴に傷がつかないんじゃないかとも思っている。とにかく、この会社に入社してから、家でもまた怒りっぽくもなったし、家具を叩くようになったし、昨日は次男の頭を叩いてしまったし、こんな自分が嫌なんだよね。もう無理だと思う」と告げた。


皆、もはや何も言い返せなくなっていた。

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