第23話『重なる』

 レイの能力の二重保持に気がついてからしばらく。イオリの思考は休む暇がなかった。膨大な能力の中から、もうひとつの能力を探し出そうとしていたからだ。


 深夜の研究室。体力の限界をとうに超えた体は、動くことをやめた。

 持っていたペンが、かたりと机の天板に落ちた。


「まーだやってんの、」


 その音を聞いたからか奥のブースに顔を出したシノは、空いていた椅子に座る。

 こんな時間に起きてるんだからお互い様だ、という言葉は飲み込んでおいた。


「研究?」

「…いや、」

「考え事?」


 イオリがその問いに返せないでいると、当たりだな、と満足そうに頷いた。


「…能力をふたつ持てるとしたら、基本の能力に加えてなんだと思う」


 気がついたら言葉が口から飛び出していた。


「……能力の二重保持?そんな前例は無いはずだけど」

「あくまで、仮定の話だ」


 シノは、うーんと白衣の腕を組んで、虚空を見つめて考える。


「不死、だろうね」

「……不死」

「あの能力だけだ、他と重ねて持つことが出来るのは。その能力が先天性か、後天性かで話は変わるけども」


 イオリなら、その意味がわかるよね?


 薄暗い部屋の中で向けられた、シノの視線はそう言っていた。




「シノさん、どうして僕は戦わせて貰えないんですか」


 政府軍に対する単騎突入がイオリ達にバレてから、レイは戦場に出ることを禁じられていた。司令室でモニターの向こうを眺めることしか出来ない。部屋を出ていこうにも、シノの監視の目がついていた。


「この中では1番の末っ子だ。そんな弟分が傷だらけで帰ってきたら、あいつらどう思うよ。俺だってそんな光景見たくねぇよ」


 モニターを睨みながらシノはそう答えた。


「戦いはどんどん酷くなっていってる。尚更、戦場に立たせるわけにはいかない」


 言い返したい言葉を飲み込んだ。そして、モニターから逃げるように司令室の床を睨んだ。モニター越しに響く爆撃音の遠くで、1周目の世界がフラッシュバックした。


 あの時も守ってもらってばかりだった。


 レイを傷つける訳にはいかない。

 兄達は同じ言葉を繰り返す。



 僕が死ぬことは無いのに。


 また、大切な人を守れないでいる。

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