第3話 能力値・内政0

「ちょっとまて、腹心はいないのか、あの連中みたいに。そいつにやらせればいいだろ」


 魔王領はかなり広いらしいし、こいつの配下に内政の専門家くらいはいるだろう。

 そいつにサポートさせればその辺は何とかなりそうな気がするんだが……こいつが言うところのスローライフが出来るかは別として。


「腹心ね。まずは魔道軍師エフタル。5倍の敵を相手取ってもまず勝つわね。深謀の軍師と言ってもいいわ。魔法使いとしても優秀よ

それに黒龍騎ガレフ。1000人の兵に匹敵する、最強剣士よ。アタシには負けるけどね。

二人の強さはアンタたちも知ってるでしょ」


 あの護衛の二人のことを言ってるんだろう。

 魔道軍師エフタルは多分ダークエルフというやつだ。エルフの肌を黒くしたって感じの奴で、ユーリと互角の魔法戦を展開していた。


 そして黒龍騎ガレフは……あれはリザードマンと言うのか、竜人族とでも言うのか。

 体は人間だがトカゲとか龍のような頭に大きな翼を持っていて、炎の吐息ファイヤブレスと空中からの攻撃が強力だった。


 ガリア―ドかガレフ、それぞれ一対一なら倒せたかもしれないが、二人を倒すのは無理だった。

 ……あいつらは確かに強かったが、今はそう言う話じゃない。


「そうじゃなくて、他にはいないのか、暗黒宰相とか悪魔大臣とか」

「そんなのいないわ」


 あっさりとガリア―ドが言うが……信じられん。

 

「そもそもアンタらはごちゃごちゃ言い過ぎ。強い者が命令する、弱い者はそれに従って貢物を出す。これだけのことでしょ」

「お前な。そんなことしてたら、領主が好き勝手やって民は飢えて無茶苦茶になるだろ」


 基本的には奪うだけというか、上下関係しかないのか。

 よくそんなので国が回っていたな


「バカじゃないの?そんなことして民が飢えたら縄張りが荒れるだけでしょ。

それにそんなことしてたら隣の縄張りの連中に攻め込まれて取られるじゃない。縄張りを守るのは強い者の仕事。欲をかきすぎるなんてバカよ」


 なるほど。

 悪政を敷いて民を搾取すると、領内でトラブルになって近隣の勢力にに付け入るスキを与えるから、そうならないようにバランスが何となく取られるわけか。

 経験則からうまれた慣習法があるんだろうな。ちょっと感心したが。


「民は布のようなもの。しぼりすぎてはいけないわ。

適度に水を含ませないと布がボロボロになる。生かさず殺さずよ」


 前言撤回。そんなことをドヤ顔で言うな。


「まあそんなことはいいのよ。答えなさい。どうすればいいわけ?」

「……そりゃあまあ、なあ」

「ねえ」


 ユーリを顔を見合わせる。


「魔王様、内政の時間だ」

「なによそれ」


「新しい国になるなら法律を作って、誰がどこを統治するのか、税の取り方とか、考えることはいっぱいあるわ」

「お前の、というか王の仕事だぞ」


 そう言うとガリア―ドが首を振った。


「いやよ!アタシはスローライフするの!ふかふかなソファでお昼寝して、イケメンのエルフを侍らせて3時には美味しい紅茶飲んで、夜はダンスパーティ」


 だからなんなんだ、その適当極まりない王様のイメージは。


「そんなこと赦されるかぁ!大陸制服して王になったんなら責任もってやることやれ!」

「そうです、叔父上がどれだけ王の重圧に耐えていたか」

「王様は好きに出来るんだもん!」

「そんなわけあるか!」

「だから!なんてアンタたちはめんどくさいの!王様は一番偉いんだから皆があたしの言う事聞くの当たり前でしょ。

あたしがのんびりスローライフしたいって言ったらのんびりスローライフできないとおかしいでしょ!」


 ガリア―ドが言うが。

 会社の社長が美人秘書を侍らせて社長室でゴルフクラブを磨きながらふんぞり返っている、というのは間違ったイメージだ。

 地位が上がれば得られるものも増えるが、責任も増え、面倒事も増える。


「そんな無茶が通るはずないだろ」

「話が違うわよ!……強くなって戦いに勝てって、そうすれば良いってずっと言われてきたんだもん」


 ガリア―ドが俯いて静かな口調でつぶやく。


「……次は別の事しろって言われても……話が違うわよ」


 ガリア―ドが悲しそうに言う……なんとなく強く言いにくい空気だ。


「誰かにやらせたらどうだ……真面目な話として」


 それが一番早い気もするが。


「みんなそんなのやりたがらないわ……それに、あたしが一番強いんだからあたしがやるべきって……そればっかり」


 俯いたままでガリア―ドが悲し気に言う。

 なんか体よく面倒事を押し付けられてる感があってなんとなく身につまされる。

 それに、今の話を聞く限り、こいつらにいわゆる内政をやれる人材は居なさそうではあるが。


「じゃあ、王冠を返上すればどうだ?」


「それってあんたらに返せってこと?」

「まあ……そうなるかな」


 ガリア―ドが俯いて首を振った


「……それはできないわ。だって皆少しでもいい生活がしたいと思ってアタシと一緒に戦ってきたんだもの」


 魔王領に潜入し、その後は此処で囚われて分かったんだが、一口に魔族と言ってもいろんな奴がいる。

 角が生えていたり、翼があったりするのもいるし、ゴブリンやオーガのような鬼族。巨人族に獣人、竜人。

 

 そして、魔王領はかかなり貧しい所だったんだろう。

 これも魔王領に潜伏している間にも感じたことだが。出された食事とか服とかそういうのはいわゆる妖精族の国に比べて明らかに貧しさが感じされた。


 おそらくもっといい生活がしたいという目標が、ばらばらの種族を団結させていたんだろうな。


「今更あそこに戻るなんて……言えるわけない」


 ガリア―ドが俯いた。部屋に沈黙が下りた。

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