第4話 (他人の)スローライフの準備をすることになった。

「そういうことなら……まあ仕方ないよな」

「つまり……どういうことよ」


 ガリア―ドが嫌そうに俺を見るが。


「やっぱり今から内政の時間だ。魔王様」

「ヤダ!スローライフするの!」

「言っておくが、何もしなけりゃ大混乱でそれこそスローライフどころじゃなくなるぞ」


 そういうとガリア―ドがふくれっ面になって俺たちを睨んだ。


「なら……アンタも手伝いなさい。

アンタたちはあたしに負けたんだからいうこと聞くべきだわ。アタシの手足となって働きなさい。馬車馬のように」


 ガリア―ドが言う。俺たちに魔族の統治を手伝わせるつもりか。無茶言うな。

 ユーリが一瞬考えこんだ。


「それなら……構いません」


 反発すると思ったが、ユーリがあっさり受けた。正直言って意外な展開だ。

 ユーリの顔を見るが。


「アンタは?勇者ケント」


 考えを纏めるよりはやくガリア―ドとユーリが俺の方を向く。


「あのアタシへの奇襲を画策したのはアンタでしょ?頭よさそうだし、手伝いなさい、いいわね」

「……まあ仕方ないか」


 ユーリがいなくなると一人になってしまうってのもあるが、ここで閉じ込められて無為に時間を過ごすよりはまだマシそうだ。

 それに、こいつをこのままにしておくとどれだけの混乱が起きるか想像もつかない。


 ガリア―ドはあいかわらず可愛い顔に憂鬱そうというか嫌そうな表情を浮かべている。


「まあ頑張れ。統治制度が安定すればスローライフも出来るようになるかもしれん」


 実際のところ、組織を動かすシステムが完全に出来てしまえば、社長はお飾りでも何とかなってしまう。

 むしろ完成した組織を思い付きで振り回すワンマン社長とかの方が迷惑だったりするので、スローライフしてくれる方がいいかもしれない。

 そういうと、ガリア―ドの顔にぱっと笑みが浮かんだ


「それっていつごろ?さすがに2週間とかは無理よね。でも1か月とかならどう?」

「……まあ……なんだ、頑張れ」


 幾らなんでもそりゃ無理だろ、というニュアンスが伝わったのか。

 そういうと、ガリア―ドの嬉しそうな顔がまた暗くなった。


 仕事の関係で小さな会社同士をくっつけたり、支社の統合とかをやったこともあるが、同じ会社の営業部の統合だけで途轍もない苦労をした。

 それぞれの集団や組織にはそれぞれの気風やスタイルがあるし、メンツもある。


 しかも今回は今まで別だった国を纏める上に、こいつら魔族とは全然文化が違う。恐らく数年単位だろうな、とは思ったが。

 憂鬱そうな顔のガリア―ドを見ると、それを指摘するのも気が引けたので言わないでおいた。



 ガリア―ドがすごすごと出て行った。

 とりあえず力に任せて反乱軍を皆殺しにするようなモラルが欠如した奴ではなかったのは良かった。


 あいつの力からすれば簡単だっただろうが、力で完全にねじ伏せるのは無益っていうことくらいも経験則で分かるんだろう。

 戦火で焼き尽くされた無人の荒れ野をとっても意味はない。


「よく協力する気になったな」

 

 猛反発して断固拒絶すると思ったんだが、ユーリが受けたのは意外だった。

 ユーリが物憂げな表情を浮かべて、言葉を探すように俯く。


「ケント様は御存じでしょうが……」

 

 ユーリが言いにくそうに口を開いた。


「恥ずかしながら我が国には民を虐げるもの、納められた税を着服して私腹を肥やす者がおりました。

一致団結して魔族と戦わないといけない時に、王族の中にすらいたのです……同じ妖精族だというのに」


 確かにそれは知っている。

 こういう世界だから身分の差は激しかったし、差別的なのもよく見た。

 豪華な館で豪華な食事を食べている貴族がいる少し離れたところでは貧民街があったりした。

 奴隷がいたのも知っている。


 とはいえ、俺はよそ者だからそれに口を出せるかと言うと難しかった。

 ……目に余るいくつかは勇者の権威を活用して止めさせたが、全部ってわけにはいかない。


 それに、じゃあ現代日本がそんなに潔癖で綺麗な世界だったかと言うとそうもでない。

 むしろ綺麗事で隠すことが達者になった分、質が悪いとさえいえるかもしれない。


 人間でもエルフでもドワーフでも、勿論魔族でも。多分群れを作る生き物である以上、悪徳も強欲を完全になくすことはできない。残念だが。

 せいぜいで総量を減らすことはできる程度だろう。


「今までそれに口を出すことはできませんでしたが……あのガリア―ドを操つ……もとい、協力すれば、民が暮らしやすい国を作ることもできるかもしれません」


 何やら不穏なことを言って言ってユーリが俺の手を握った。


「ケント様、貴方は力だけではなく、優れた知恵をお持ちです。是非お力添えを!」


 ユーリがキラキラした目で俺を見ながら言うが……昔の色々な板挟みとか利害調整とか延々と続く交渉とか、嫌な思い出が頭をよぎる。

 そして、異世界まで来て魔王と戦うだけじゃなく、次はブラックなコンサルの真似事まですることになるのか。


 先が思いやられるぞ





 

 



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