えらい人のいいわけ 〆切本 左右社
さて。
本日の感想はやわやわで書いていきます。
『〆切本』という変わったタイトルのこの本。
古今の作家や編集者たちが締め切りについて書いた短文をまとめたものです。
ここに書影を載せられないのが残念!というほど潔くユニークな書影。
白地の中央にタイトル、周りを囲むのは作家の泣き言。
「どうしても書けぬ。あやまりに文芸春秋社へ行く」
という文に心惹かれ手にとって裏をみれば、
「ほんとに風邪ひいたんですか」「ほんとだよ」
カバーをとってみれば表紙に書かれていたことに類する泣き言や言い訳がまた並べられています。
目次をめくってみると、田山花袋に始まり、夏目漱石、島崎藤村、志賀直哉といった文豪や、長谷川町子、藤子不二雄A、手塚治虫、岡崎京子といった漫画家、と思えば大沢在昌や吉本ばなな、西加奈子に果ては村上春樹と近年の人気作家まで錚々たる面子。
これはもう読むしかないでしょう!と思い読んでみたらこれがまた面白い。
書けないことをとっても文学的に書くというなんだかよくわからないことになっている文豪の言い訳。反対に早く仕上げすぎてなんとなく気まずい思いをするという少数派もいます。
自分たちで雑誌を作るということをしていた時代の作家は、今度は自分が編集の側に回って遅筆の作家に悩まされるエピソードなんかも載っています。
横光利一は自身の書けない、締め切り守れない話と原稿出さない奴がいる!話と両方載っていますね。でも書けないエピソードを読むと、編集を経験した後でも締め切り破ってそうです(笑)。
面白おかしく皆さん書いておられますが、作家の産みの苦しみの記録でもあるわで、そう思うと創作ってやっぱり大変だよなあと思う次第。
なんの創造性もなく好き勝手な感想を書き散らかしている私のような駄文家でも毎日更新しようと思うとけっこう大変なので、カクヨム創作作家さんたちを尊敬します。
ちなみに『締め切りの効能・効果』という章では明大の先生の論文の一部まで載っていて、とっても真面目な論文なのにその章までに読んでいた泣き言や言い訳が相まって笑えてきてしまうという……。
松本清張や江戸川乱歩のような多作の作家は引き受けすぎじゃないかと思ったりもします。
脚本でも遅筆で有名な井上ひさしさん。罐詰病と名付けてインチキな数式まで考えて遅筆の理屈を捏ね回すのはもう面白すぎる。さすが開幕直前まで脚本が来ないだけのことはありますね!井上ひさしさんの舞台を新作で見たのは『ムサシ』だけですが、やはりこちらも直前まで仕上がらなかったそうで。役者さんたち、どうやって稽古するんだろう。直前まで脚本が無かったとは思えない素晴らしい舞台でしたが。
坂口安吾や太宰なんかは締め切り守らなくてもイメージ通りですが、菊池寛や横光利一、島崎藤村なんかは作品だけ読んでるとそんなグズグズ締め切り伸ばすタイプには思えないのが面白いですね。本人の文章はありませんが、三島は早かったというのもちょっとイメージと違うかも。三島はルーズというよりはこだわって遅くなりそうなタイプに思えますよね、作品からすると。
とにかくいろんな作家の産みの苦しみが詰まったこの本。こういうエッセイ集(?)も面白いですね!
ちなみに文芸春秋社に謝りに行ったのは高見順で、本当に風邪か疑われたのは梅崎春生です。
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