美味しい本 2

 またまた感想ではなく紹介ですが、お付き合いいただけると幸いです。

 今回はミステリーではなく食堂ものをご紹介します。


 まず一つ目は、『東京近江寮食堂』(渡辺淳子 光文社文庫)。

 病院の作業員をしていて定年退職を間近に控えた妙子は10年前にいなくなった夫の行方を探す為に滋賀から上京するのですが、ひょんな縁から滋賀県人なら格安で泊まれる宿、東京近江寮に行きつきます。料理の下手な個性的な管理人が手を怪我してしまったことから妙子が料理をつくることになるのですが、それが好評で……といったようなお話です。

 妙子は元々料理人だった夫と近江料理の店をやっていたのですが、うまくいかず潰してしまい、その借金を返し終えた途端に人付き合いが苦手で職を転々としていた夫が失踪してしまうというなかなかハードな身の上。

 妙子が作るのは普通のお惣菜。残り物の天ぷら、ニラとなめこのお浸し、塩鮭に豆腐と長ネギのお味噌汁などなど。この普通さがなんとも美味しそうなんですよね。

 人情味あふれる登場人物達と展開されるお話も暖かくて素敵な小説です。

 続編で宮崎編、青森編と3作目まで刊行されています。


 続いては『東京すみっこごはん』(成田名璃子 光文社文庫)。

 商店街の脇道にある「すみっこごはん」。学校で孤立してしまった楓は帰り道にその不思議な食堂をみつけます。

 そこは当日集まったメンバーがくじ引きをして当番を決め、当番になった人が料理を作りみんなで食べるという共同台所。初めては材料費の300円のみ、次からは月会費1000円と材料費1回300円で参加できるシステム。作る料理はすみっこごはんにあるレシピノートから選んで決めるというルールがあります。

 そこに集まるいろんなものを抱える人たち。料理を作って一緒に食べることで心に抱えている荷物を少しだけ下ろしていくというとても暖かいお話。

 主人公の楓ちゃんは事情があって祖父と二人暮らしなのですが、じつはこの「すみっこごはん」とは浅からぬ縁があるのですが、そのことも徐々に明らかになっていきます。

 この小説にでてくるごはんも、クリームコロッケやハンバーグ、肉じゃがやナポリタンといった普通のごはん。でも出来立てのごはんの描写が本当に美味しそう。失敗作もあったりしますがご愛嬌。メンバーのベテラン主婦や世話役らしきおじさんの作ってくれる副菜も彩が良くて献立の参考にもなります。

 こちらは5作でていて完結していて、最終巻の大団円はなかなか感動的でおすすめです!


 続いては『食堂のおばちゃん』シリーズ(山口恵以子 ハルキ文庫)。

 東京・佃にあるはじめ食堂。姑の一子いちこ二三ふみが営む下町らしい大衆食堂。帝国ホテルで修業した一子の夫孝蔵が始めた店で、当時は本格的な洋食を出していましたが、孝蔵の死後、一子と息子高の二人で切り盛りするには本格洋食は荷が重く、方向転換をして昼はお値打ちの定食を出し、夜は食事とお酒が楽しめる気軽な食堂に。常連だった二三は高と結婚し、高が一子と二三を残して先立った時に勤めていたデパートを退職して食堂のおばちゃんになります。本当の親子のような二人が切り盛りする暖かい食堂。そこにひょんなことから近所に住む放蕩息子の万里も食堂メンバーに加わり……。といったお話。

 近くの会社に勤める人たちや常連さんに愛されて続く気取らない下町の定食屋さん。常連さんたちを中心に悲喜こもごもいろんな出来事が起こる人情ものといった感じでしょうか。

 作者の山口恵以子さんは実際社食で食堂のおばちゃんをしてらした方なので、出てくる料理がどれも美味しそうなうえにレシピ付き。作中でも簡単な作り方を書いてくれていますが、巻末にちゃんとレシピを付けてくれているので、おいしそうと思ったらすぐ真似できます!スーパーに行けば手に入る食材がほとんどで、シンプルな料理法が多いので真似しやすいのが嬉しいですね。

 イワシのカレー揚げ、タラコと白滝の炒り煮、カリフラワーのガーリック風味のグリル、夜メニューの白子のバターソテー、煮卵のウニ乗せ……。旬のものを使ったお料理もたくさん。

 現在12冊目まで出ている人気シリーズ。ちなみに山口恵以子さんの他の作品で『婚活食堂』と『ゆうれい居酒屋』もおすすめ!『ゆうれい居酒屋』は簡単時短レシピ豊富でありがたい。台湾風茶わん蒸しはうちの定番になりました。メインは決まったけど副菜が決まらない、なんか最近ワンパターン、という悩みにも対応してくれるありがたい小説です。


 今回も長くなってしましました……。でもまだまだあるんですよね、美味しい小説。というわけで多分まだ続きます!




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