第二章 王を待つ城

第40話 困惑の討伐



「魔王はまだ出てるんだって?」


「ああ、巨大な翼を生やして飛び回っているんだとよ」


 街の人達の話が聞こえてくる。

 にぎやか雑踏の中、ミナモは馬車を走らせている。

 街中なのでスピーディな散歩といった程度の速力ではある。

 常に、ではないがモエルを思い出すのは、なんだかんだと言ってギルドからの逃亡を手助けしてくれた恩があるからだろうか。

 歴史あるギルド『伝説の芳香』からは上手く逃げおおせることが出来たようである。


 主に暴れたのが女剣士ミキ火属性モエルだったことが幸いしたのかな、とミナモの頬がほころぶ。

 ―――おっと、いけないいけない。

 損得勘定、算盤そろばんをはじく感覚で友人を考えてしまう癖は強いなあ。

 まあいいさ、商人が板についてきた証拠だ。

 いけなくなんて、ないか。

 いい、いいのだ―――これでよいのだ。


 グスロットからそれほど離れていない。

 畑、穀草地帯を挟んだだけの森の中での戦闘。

 それから、二、三日が経過した。

 モエルくんはあれから、ボーっとしていることが増えた。

 青い空を見上げている。


 今日も仕事がひと段落した。歩いている彼に、近づこうとしたミナモ。

 男友達らしき人物と並んでいる。その友人……モエルくんの印象は、変わりつつあった。

 単なる女嫌いの変人というだけでもないようで、色々と交友はあったようだ。


 

 一応それまで女友達(?)からモエルの近況も聞いていた。

 本来それほど噂好きな女でもないボクだけれど、まあどちらかというと嫌いなんだが……仕事柄、色んな人と話さないと食っていけないわけだ。

 モエルくんは新人らしく失敗はしつつも、能力を使い仕事を続けているらしい。


「モエル、モエルぅ!」

 

 男子が―――シマジくんと言ったか。

 先を越されたカタチである。

 パッと見た感じモエルくんに憧れる子分のような身体の動きをしている。

 成人しているとは思うのだが、彼に関しては特に、男子って感じだ。

 ミナモは彼のことをそれなりに好いていた。

 

 湿っぽい性質の火属性男よりは、背が低く―――それが小型犬を見るような気分になる。

 見ていて微笑ましい―――シンプルな感想はある。

 ふたりは並んで雑談をしているようだった。

 シマジの方がグスロットの街の細部まで詳しいため、先輩風を吹かせているようであった。まあシンプルな世話焼き人である。


「この前さ、ヨースの森でのはなしだけどさ~!」


 その話題になった時、モエルはぎこちなく笑った。


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