第8話 職場とケイ
ひばりヶ丘駅の北側に俺の住むマンションがあり、南側に俺が働く会社がある。
直線だと五分もかからない距離なんだけど、駅をぐるりと迂回しないといけないので、十分前後を要する。
だけど、他の人たちの通勤事情に比べたら、天国みたいなものだと思う。
この通勤徒歩十分という距離と、可愛いケイのために、俺は昼休憩を家でとるようになった。
そうしていると、ある日、社長にこう言われた。
「犬、連れてきたら?」
いいんすか!? うっひょぉおおおおお! マジで!? ガチで!? 社長天才! 最高! 本当にいんすか!? いいんすかあああああ!? という脳内を努めて隠した。
「いいんですか?」
冷静に問うた俺に、社長がうなずく。
「いいよ。俺、犬好きだし……店の端っこにいてもらって、マスコットにならないかな? ティックトック? なんかに様子を可愛くアップしてさ」
「……超大型犬ですよ?」
「大型犬だから、話題になるんじゃないか?」
社長、あなたは最高です。
ほとんど会社に来ず、来てもずっとオンラインゲームで遊んで、業務の全ては織羽部長に任せきりのあなたをこれまで悪く思っててごめんなさい!
あやまります。
手のひら、クルーします!
ということで、その日の翌日、俺は出勤をケイとしたのだ。
ケイとの出勤、最高。
俺の隣を、賢く可愛く歩く犬。
セダン車ほどもある大きな犬が、ニコニコで俺に頭をスリスリしながら歩く光景に、道行く人たちも「大きなワンちゃんなのにやさしそうね」「かわいい」とニッコリしてくれた。
大きな犬のようが、性格はおだやかなんだぞ? と言ってやりたい。
大きければ、大きいほど、穏やかなんだぞ! と言ってやりたい!
職場に到着すると、1階店舗の開店準備をしていたスタッフたちが驚く。
「わー! 大きなワンちゃん! 山田さん、本当に犬がいたんですね!」
「大きいのにおとなしぃ。あ! ニコってしてくれますぅ!」
「撫ででいいすか? 撫ででいいすか?」
「あああ! コロンしてくれるのぉ? かわいい♪」
皆、ケイにメロメロになる。
無理もなかろう。
ケイは、賢くて可愛くて最高のお犬なのだから!
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