第9話 ぬいぐるみとケイ

 ケイとの通勤にもずいぶんと慣れた。


 ケイはすごい。


 先日、出勤途中に踏切が閉じられたので待っていると、おばあさんが線路内で座り込んでいるのを見た。大勢が大声をあげ、何人かが走り出そうとした時、ケイがまさに電光石火という一瞬の素早さでおばあさんに接近し、くわえて、俺のところまで素早く戻って来たのである。


 電車がゴーと通過する。


 大歓声があがる中心に、俺とケイとおばあさん。


 ケイ、おばあさんにナデナデしてもらって、ニコニコとしていた。


 おばあさんは、横断途中に腰がギクっとなってしまったそうなのだ。


 この出来事は、ニュースにもなり、助けた後の様子を動画に撮っていた人がいたらしく、テレビやネットでも拡散された。


 めんどくさい問合せが増えたら困るなと心配していたけど、動画のコメント欄に並ぶのはひたすら「かわいぬぃ!」「かしこい!」「すごい!」「モフりたい」「抱っこされたい」といったほのぼのとしたものなので、俺もほんわかとできている。


 そして、今朝の出来事だけど、踏切のところにおばあさんがいて、ケイと俺を見つけるなり声をかけてくれたのだ。


 手作りの、ケイを模したぬいぐるみを手渡された。


「ありがとうね。助けてくれて、ありがとう」


 ケイのおかげで、いい人が救われたのだと思うとすごく幸せな気分になる。


 俺は、感謝してくれたおばあさんに、こちらこそありがとうございますと伝えて、ぬいぐるみを受け取り、ケイにあげると、ケイはニコニコでパクっとくわえる。


 ぬいぐるみをくわえる姿がかわいぬぅ♪


 おばあさんにモフられて、嬉しそうなケイ。


 ニコニコオンリー出来事を経験できるのも、賢くて可愛いくて大きなお犬さんのおかげなのだ!

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