第3話 ゴキブリと火事とケイ

 ケイは犬なのに炎を吐くことができる珍しい子だ。


 俺も、初めて見た時は驚いた。いや、その初めての時以降は「火を出したらダメだよ」と言いつけているせいで、出したことがないから見たのはその一度だけだ。


 あれは保護してから三ヶ月後くらいの時で、ケイは大型犬だなと思うほどに育ってきた頃だった。


 去勢手術と入院を終えて、帰ってきたからイライラしていたのかもしれない。


 夏も終わり、秋になろうかという頃だったけど、それが俺の部屋に現れたのだ。


 ゴキブリである。


 しかも、壁から食事中の俺めがけて、飛んで迫ってきたのだ!


 うわぁああああ! と思った瞬間、ゴキブリに向かってケイが火炎を放射したのである!


 ゴキブリは一瞬で燃えた。


 俺の部屋も、大火事になった!


 慌てる俺は逃げようとベランダに出て……当時、住んでたマンションは五階建てで、俺は最上階に住んでいたんだ。


 逃げ場がなくて困ってオロオロする俺。


 火の勢いは強くなるばかり!


「ケイちゃん、こっちおいで! 焼けちゃうよ!」


 ケイを呼ぶと、ケイはニコニコで駆け寄ってきて、俺の袖をくわえるとジャンプした。


 ジャンプした!?


 そう、ケイは俺をくわえてベランダから空中へと飛び出したのである!


「うわぁああああああああああ!」


 叫んだ俺は、華麗な着地をしたケイちゃんの背中に守られて、無事に火事から逃れることができていた……。


 俺の部屋だけが黒焦げとなり、大家さんは大怒りだった……。


 火災保険で賠償をし、退去をして、今のところに引っ越している。


 仕事が不動産関係なので、ペット可に即申込み、引っ越すことができたのだ。


 引っ越しが決まるまで、公園でケイちゃんと寝ていた生活も、今となってはいい思い出だ。


 でも、火を吐くのは禁止! と強く言いつけてある。


 ケイは賢いから、あれから火を吐くことはない。


 賢くて、俺を守ってくれる最高のワンコちゃんだ!

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