嫉妬と盤外戦


[じゃあ10時に駅で待ち合わせしよ!]


[わかった。寝坊するなよ?]


[うぅ頑張る...けど、楽しみすぎて寝れないかも]



俺は明日、久しぶりに美玖と

テーマパークに行くことになっている。



あのカオスな変則Wお家デートからもう1ヶ月経つが、俺は、俺達は何も変わらず現状維持を続けている。


何故、俺は何も悪くないのに美玖に浮気のことを未だに問い詰めていないかと言うと、美優さんとの相談の結果だ。

そう、ただ美玖が浮気していると言うだけなら俺の都合で話ができるが、ことはそう簡単な話じゃない。

美玖の浮気相手が美優さんの彼氏であった以上、この件は美優さんの意向も汲んで慎重に進めなければいけないのだ。


美優さんが言うには既に間お...小林先輩に対する恋愛感情はないとのことだが、だからと言って美優さんにも別れ辛い事情がある。

...まぁ俺が付き合うならすぐ別れるとは言われているが、俺が美玖を1番に据えている以上、責任を取ることもできない。

それにもし今小林先輩と別れた場合、小林先輩が美玖に本気になってしまう可能性だってある。

今でさえ遺憾ながら仲睦まじい2人だ。

そこに小林先輩の気持ちのウエイトが更に美玖に傾いた時、最悪の場合美玖を完全に取られる可能性があるかもしれない等、色々な可能性を提示されてしまったので様子を見ることにしたのだ。


まぁ正直な話、俺自身未だに色々と踏ん切りがついていないと言うのも大いに関係する。

美玖に無事に浮気を辞めさせたとして、

じゃあ俺は美優さんと浮気し続けるのか?

そんなのは絶対に間違っているとは思う。

だからと言って美優さんを今すぐ切れと言われたら...。


あぁ、我ながら女々しい上に強欲なのは分かってる。

でも美玖も美優さんも離したくないんだ。


正直心の奥底では、今のままが一番なんじゃないかなんて思っているのかもしれないな。



◇◇◇



「優貴!次あれ乗ろ♪」


「あれもいいなぁ!」


「ねぇ、見て!可愛いー!」


「楽しいね、優貴♪」



無事にテーマパークに着いた俺達は、

全力でアトラクションを楽しんでいた。


お揃いの服を着て、終始俺の腕を抱きながらあっちにこっちに目移りしながら心底楽しそうに笑う美玖と、それに笑顔で答える俺。

俺達はとても仲睦まじいカップルに見られていることだろう。


いや事実仲睦まじいカップルなんだけどね?

浮気さえなければ。浮気さえ...(血涙)


はぁ...。なんでなんだろ。

テクか?俺のテクが駄目なんか?

サイズか?サイズなのか?


あ、あかん病む。やめよ。



「ん?美優さんからだ...」


お手洗いに行った美玖を1人で待っている時、手持ち無沙汰になったので携帯を見ると美優さんから連絡が入っていた。


[優貴、今日は何してるの?]


[すいません、今日は出かけてます]


[そうなんだ。夜ちょっと会えないかな?]


[すいません、今夜はちょっと...]


[あー、彼女さん?]


[はい...]


なんとなく、美玖とデートしていることを言い出せなかったがあっという間にバレてしまった。


何となく罪悪感に駆られた俺は次案を提示することにする。


[一応、明日なら空いてますよ]


[あー...明日はちょっとね...。最近優貴を優先しすぎて大我からの誘いを断りすぎちゃって、流石にそろそろ会わなきゃいけないんだよね]



大我



美優さんに実は彼氏がいると知ってから、

美優さんの口からたまに出てくるようになったその名前。

普段は特に何とも思わなかったのに、何故か今は穏やかな気持ちになれなかった。


「...俺よりあいつを優先するのかよ」


[わかりました]


[あ、でもね、お昼に会うから夜は空いてるよ]


[無理しなくていいですよ]


[...優貴、怒ってる?]


[別に]


[もしかして嫉妬してくれてるの?

ね、絶対明日の夜会おうね。絶対だよ!]


その返信を見てハッとする。


俺はさっき、何を思った?

自分は美玖を優先して美優さんの誘いを断ったくせに...。


そもそも美優さんの彼氏は小林先輩で、俺は浮気相手だ。

それも美優さんを1番にすることもできない。


そんな分際で、嫉妬...?


──あぁ、そうか。

俺は美玖が一番でありながらも、美優さんのことも好きになってしまっているんだろう...。


もう、自分で自分が分からない。



「お待たせ!...優貴?」


「あ、あぁ、悪い、ぼーっとしてた」


「もう、しっかりしてよね!まだまだ遊ぶんだから!」



その後何とか気持ちを切り替え、美玖とのデートを楽しんだ。



◇◇◇



「なあ、美玖、たまにはホテルに行ってみないか?」


テーマパークを楽しんだ帰り、俺は美玖をホテルに誘った。


「え、ホテル?なんで?」


美玖はその提案に不思議そうにしている。

当然の反応だ。なぜなら、

実は俺達はホテルに行ったことがないからだ。

いつも俺の家だった。


じゃあなんでこんな提案をしたのかと言うと、美玖は小林先輩と、俺は美優さんとそれぞれホテルに行ったことがある。

...まぁ、おかしくね?って思ったんだよ。


後は、


「いつも俺ん家ばかりより、

たまには変化を加えたいなって」


そう、マンネリ防止だ。

俺なりに浮気された原因を考えており、

それは3年付き合ったことによるマンネリもあるのかもしれないと思ったのだ。

セックスにはシチュエーションも大いに関係することは調べがついているので、ここらで美玖の心をガッツリ掴んでおきたいと思ったんだ。後純粋にあいつに負けたくない。

だって男の子だもん。



「嬉しい...。楽しみ!」



そしてこの案は功を奏したのかもしれない。

美玖もマンネリを感じていたんだろう、見るからに喜んでくれて嬉しい限りだ。



そうして俺達はお互いなんちゃってラブホデビューを果たした。

まるで初めてきたかのように振る舞っている俺達の姿は、もし事情を知っている人が見ていたらさも滑稽だっただろう。



まぁ結果、その夜は大いに盛り上がり有意義な時間を過ごすことができた。



そして翌朝、

2人揃ってホテルを出た時にそれは起こった。




「...ねぇ、優貴。あれ...?」


「ま、まじかよ...」



少し離れたホテルから、俺達のように腕を組んで出てきた男女の姿を見た俺達は2人揃って絶句し、固まってしまった。



「嘘...沙耶香...」



男女の片方は美玖の親友である沙耶香だ。

そしてもう片方は俺達の知らない男だった。




──あぁ、言っていなかったな。

美玖の親友である深瀬沙耶香は、俺の親友の佐々木小次郎と付き合っているんだ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る