間話:私にとっての幼馴染 / 美優①




私はこの言葉が大嫌いだ。



私には小林大我と言う幼馴染がいる。



とは言っても、別に自分達で勝手に仲良くなったわけではない。

単純に私の家族である荒川家と、大我の家族である小林家が仲が良く、言葉は悪いけれど私達は幼馴染であることを強制された。


小さい頃は特に何の疑問も抱かなかった。

同い年だけど、私が少し大人びた子供だったこともあって手のかかる弟、ってくらいには愛情もあったとは思う。


この関係に最初に疑念を抱いたのは小学生に上がって少しした頃からだろうか。


小学生ともなると限度はあるけれど

みんな、ある程度の自主性を与えられる。


例として挙げるならば

幼稚園とは違って両親が迎えにくることもないので、放課後に校庭で遊んだり、友達の家に遊びに行ったり招いたり、だ。



でも私は違った。



「大我君が一緒にいてくれるなら安心ね」


「美優ちゃんのことをちゃんと守るんだぞ?」



そんな頼んでもいないことを勝手に決められて、更に困ったことに私と大我が6年間ずっと同じクラスだったこともあり私の学校生活にはいつも大我が側にいた。


勿論、大我の他にも男女問わず学校でお話しする友達はできた。でもそこまでだった。


一度私が大我以外の友達と一緒に学校に行こうとして、毎朝家に迎えにくる大我に明日はこなくていいからねと伝えたことがある。


その夜、私は初めて両親に叱られた。


「大我君と一緒じゃなきゃ危ないでしょう?」


「毎日迎えにきてくれてるのに何でそんな失礼なことができるんだ!」


「大体、大我君がいるのに他の男の子と仲良くするだなんて──」



言ってる意味が全く分からなかった。

だって私はそんなこと一回も頼んだことがないのだから。

結局私の抗議は聞き入られることなく、勝手に友達の両親に断りの電話を入れられて私は迎えにきた大我と学校に行った。


勿論たかが朝の登校でそれなのだから、後はみなさんお察しのとおり。

私は大我以外の人と学校以外で碌に会うこともできなかった。

みんなでの集まりも、「大我君がいるなら」

学校の行事も、「大我君と同じ班になること」

「大我と」、「大我が」、「大我なら」、「大我」、「大我」「大我」「大我」──




もううんざりだった。

いつしか私は大我のことが──

幼馴染と言う存在が大嫌いになっていた。



小学校も高学年に上がると、男女の違いが明確になってくる。

自分で言うのも何だけど私は綺麗に、そして大我はかっこよく成長した。


そうなってくるといつも一緒にいる私達を周りは囃し立てるようになる。

やれ、美男美女、カップル、既に夫婦──



ふざけるな。



そんなこと望んでいない。

私は一分一秒でも早くこいつから離れたいのだ。


そして腹が立つことに、

私と違って大我は私のことを意識していた。

「おいおい、やめろよ〜」なんて言いながらも、それを否定しない。思わせぶりな態度を取って誤魔化す。


じゃあ私がはっきり否定すればいい話なのだけど、それはできない理由がある。

この大我クズは何でもかんでも両親に報告するのだ。


私が両親に叱られるのは決まって大我が関係することだ。

「もっと仲良くしなさい」

「大我君がいなきゃあんたは〜」

この頃になると嫌でも理解させられた。

私の両親は私と大我をくっつけさせたいのだと。


だから私は内心を押し殺して耐えていた。

そうすれば両親に叱られないから。



ただそこで泣き寝入りで終わるつもりはなかった。

このまま何も対策を立てないままでいると、

私はこいつに告白されでもしたら断れない。

特段こいつが悪いわけではないが、私はこいつのことが既に大嫌いだったのでそんなのごめんだった。


幸い年齢もまだ幼いこともあり、

こいつにはまだそんな度胸はない。

恋人と言うものが繁殖し出すのは大抵が中学生〜高校生だと本に書いてあった。

一応安全策を取って中学2年生辺りをタイムリミットに私は動き出すことにした。



とは言っても私にできる手段は限られている。まだ幼い私では両親に逆らうことなんてできないからだ。

ただそこで私は逆転の発想を得た。

まだ幼いから両親には逆らえない、だったらどうすればいいか。簡単な話だった。

あの大我クソガキをどうにかすればいいのだ。


ただ、生半可なことでは両親に報告されて、私が悪いことにされるに決まっている。



だから私は───



◇◇◇



「荒川さん可愛すぎる。付き合いたい」


「ばかお前諦めろって」


「告白すればわんちゃん──」


「無理無理。小林がいるだろ」


「あああ。やっぱり付き合ってんのかなー」



中学生に上がると、

私と大我は完全に周囲に勘違いされていた。

まぁ仕方のない話だ。

だって大我がいつも私の側にいるのだから。



だけどこの頃になると私も両親と大我の過干渉に少しずつ抵抗できるようになっていた。

大我がいなくても女子だけであれば遊べるようになったのだ。

理由は単純に大我が完全に思春期に突入したことで以前のように1から10まで親に言わなくなったこと。

それによって私が少し強く当たることができるようになり以前のように常にべったりではなくなったからだ。

まぁ以前と比べたらマシ程度なのだけど。



そして私は練りに練った計画の一つを実行した。



「小林君、私と付き合ってください」


「ごめん、俺好きな人がいるから...」


「...やっぱり、荒川さん?」


「うん...今はまだ幼馴染だけど、ね」



大我はモテる。

その証拠に毎日のように告白されていた。


何故か?大我が客観的に見てかなりのイケメンに成長したことに加え、私が裏で女子達に恋人関係どころか、恋愛感情をきっぱり否定しているからだ。

それどころかむしろ、だと説明した。

昔から両親や大我のせいで大我以外の男の子とあまり話すことがなかったので、それはすんなり受け入られた。

まぁその過程で、


「てっきり大我君一筋なんだと思ってたー」


なんて度し難い侮辱も受けたが何とか堪えた。


あぁ、そうだ。

大我ゴミムシはお断りの理由に、

生意気にも私を使うことが多い。

そこで私に逆恨みを向けてくる、根回しが済んでいない女子もまた多い。

私はそんな女子達に都度丁寧に恋愛感情がないこと、男が嫌いであることを説明していた。

そして信憑性を持たせるために中学生からは自分でも意識して男には徹底して塩対応を心がけたので、ここでもすんなり受け入れられた。



そしてそれで終わりではない。



私は彼女達にあるアドバイスをした。

ずっと大我と離れるためにどうすればいいか考えていた私が出した結論。

それは思春期の男子に対する劇薬。

いつしか大我の嫌らしい視線が私に向くようになったことをヒントにして得たこと。




「身体で誘惑するのは、どうかしら?」

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