俺は悪くなかったんだ


美優さんに彼氏がいて、その彼氏が間男さん。


そんな衝撃的な事実を聞かされた俺は──



「きゅぅ....」


「ちょ、優貴!?優貴!?」



脳がパンクして倒れた。



◇◇◇



──なんだろう、柔らかい?



「あ、優貴!起きた?大丈夫?いきなり倒れちゃったから心配したんだよ」



目覚めた時、俺は美優さんのベッドで

美優さんに優しく抱きしめられていた。


いや、そこは膝枕じゃないんかい!


...まぁそれは置いておいて。


「すいません、俺、どのくらい寝てました?」


「うーん30分くらいかな?それより体調は?」


「いや、ちょっと衝撃についてこれなかったと言うか...あはは。とりあえず大丈夫です。それよりすいません、ずっとこうしててくれたんですか?」


「あ...そうだよね、ごめんね。うん、優貴ともし一緒に住めたら毎日こんな風にぎゅーっとして寝れるのかなって考えてたらあっという間だったよ」



ぐっ...可愛いすぎんだろうが!!



「あの、美優さん、その...」


「うん、色々聞きたいよね?いいよ」


「ありがとうございます、えっと?」


「ぎゅーしたまま話そ?」


「あっ、はい」



あああああああぁ!可愛いよぉぉぉぉぉ!!




「えっと...美優さんはあの、彼氏が浮気してることは知っていたんですか?」


「うん、知ってたよ。相手が優貴の彼女さんだとは知らなかったけど...」


「そうだったんですね...その、じゃあなんで俺と...?」


流石に聞き辛くて濁したが、何となく...

美優さんは彼氏への当て付けに俺を選んだのではないかと少し思ってしまったのだが...


「あ、でもね!私が優貴のことが好きなのは本当なの。この件とは無関係だよ!私、優貴のこと大好きなんだよ?」


「あ、ありがとうございます...?」


「うん。私は大我と付き合ってるけど、大我より優貴の方が好きなの。...軽蔑した?」


「軽蔑...いえ、俺も人にどうこう言えるような人間じゃないですから。ただ、やっぱり気になります。...その...」


「私が処女だったことかな?」


「っ...。はい、それです...」


「ふふっ。ちなみに私のファーストキスも優貴だよ?」


「...はい?」


──俺は揶揄われているのだろうか?

あんな明らかに遊び慣れてそうなイケメンと付き合っていて、キスすらしていない。

そんなことあるわけがなくないか?


「あ、その顔は信じてないなぁ?

本当だよ?...あのね、聞いてくれる?」


「はい」


「私と大我は幼馴染で、両親同士も仲良くてね。幼稚園から小中高って一緒なんだ。

付き合ったのは中学2年生になってからなんだけどね?私はその、優貴からしたら信じられないだろうけど凄く堅いタイプでね?キスもえっちも、学生の内は断固拒否だったの!」


「それは...何というか、意外です...」


「あはは。まぁまだ学生なのに優貴と全部済ませちゃったもんね」


「うっ...そ、それで?」


「うん、まぁそんな私だったから、大我も我慢できなくなっちゃったのかな?大我の浮気って、今回が初めてじゃないんだ」


...なんとなく予想はできた。

健全な男子高校生におあずけは辛すぎることも。


「でね?高校生になる前くらいかな?

大我にね、高校からは学校では関係を隠そうって言われたんだ。あは、色々それらしい理由をつけてたけど、スムーズに浮気するためだよね」


「それは...なんていうか...」


「最低だよね。でも大丈夫だよ。で、そんな風に悶々とした日々を過ごしてる時に、君と出会いました」


「...」



俺は美優さんとの出会いを思い出す。

あの日は確か──



「それでね、君とどんどん仲良くなっていくうちに、いけないことだって分かってるんだけど...でも君を好きになっちゃったんだ」


「...俺が言うのもですけど、美優さんは、別れようとは思わなかったんですか?」


「何度も思ったよ。でも両親同士が仲良いし、なんだかんだもう10年以上の仲で情もあるから、踏ん切りがつかなくて。あ、でも優貴が彼女にしてくれるなら別れられるかな?どうかな?」


「その...」


「ふふっ、大丈夫だよ。優貴は彼女さんが大好きなんだもんね」


「はい...すいません...。あ、てか、あの、美優さんは結構最初からぐいぐいきてた印象があるんですが...」


「あはは...。君が好きだって思った時にね、もう失敗したくないなって思ったんだ。

だから使えるものは全部使ってみました」


か、軽いなおい...。



「ね、だから優貴は何も気にしなくていいんだよ?優貴は私にも罪悪感を抱いてると思うんだけど、そんなもの必要ないよ?だって優貴に彼女がいるって知ってて、私が誘ったんだもんね?優貴も最初は断ったもんね?えらいよね?だから私がイケナイ子だったんだ。罰として優貴の好きなようにちゅーしたり、ぎゅーしたり、えっちしたりしていいんだよ?」


「いや、でも、そんな...。

こんな関係って歪すぎるんじゃ...

それに今更ですけど、美優さんにも彼氏にも申し訳が...」


「ね、優貴の彼女さんは私の彼氏と浮気してる。

私達も浮気してる。ねぇ優貴?優貴だけが罪悪感を持つ必要なんかないよね?」


「たし...かに...?」


「それに先に浮気したのは向こうだよ?私達は傷の舐め合いをしているだけ。どう考えても悪いのは優貴じゃないよね?」


「俺は悪くない...」


美優さんの言葉がスーッと俺の中に溶け込んでいく。


「優貴は被害者だよ。それに私も優貴とシたい。

優貴が私とえっちするのは当然の権利だよ?」


「当...然」


「ね、優貴、シよ?」


美優さんのベッドで、美優さんと抱き合いながらそんな甘い言葉を投げかけられ続けた俺はもう何が何だか分からなくなってしまっていて、気付いた時にはもう美優さんにドロッドロに溶かされていた。



──そうか、俺は悪くないのか...。



事後、俺は美優さんの温もりに包まれながらここ最近で一番心地良く深い眠りについた。



「まだ彼女には勝てないかぁ。でももう少しだよね。焦らないようにしなきゃ」



そんな美優さんの呟きは既に俺の耳には届かない。



そして──



「2人して異性を家に連れ込んでおいて、両親公認って言っちゃったのは失言だったなぁ。 ツッこまれなくてよかったぁ」



俺は美優さんの語った言葉がどれだけ欺瞞に満ちていたのかを、全く気付くことができなかった。

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