第20話 久しぶりに

「うむ、やはりこのくらいのペースが丁度いいのではないか?変に悪目立ちもせず、遅々として階層が進まないなんてこともない。少し物足りないが、その分長く楽しむことも出来る。俺としては悪くないと思うんだが、お前はどう思う?」


「う~ん……まあ、いいんじゃない?確かに師匠の言う通りこのペースなら才能がある人とそんな変わらない速さだから、期待の新人的な感じがして悪くないね。今更な気もするけど。ただ私としては師匠といる時間が減るから余り推奨したくないけど。」


 変な男に絡まれてから翌日、真斗は事前に考えてた通り階層の攻略速度についてウルに相談した。するとウルから一般探索者の平均的な階層攻略速度にしてはどうかと提案され、その日はその通りにしてみたが、余りにも進まなさ過ぎて逆にストレスが溜まってしまった。


 そして次の日、今度は自身が行ってきた速度よりも少し遅めにして攻略したが、受付からは「え、速……。」とドン引かれてしまった。そこから数日掛けてどれくらいの速度ならギリギリ違和感を持たれないのかを検証し、ようやく今、ウルからのお墨付きを得られるほどの速度に抑えることが出来た。


 だが数日とはいえ、既に二百層手前まで辿り着いてしまっていたことにより、案の定組合内ではちょっとした騒ぎになっていた。そんなことはつゆ知らず、当の本人は満足いく結果が出せたことによりちょっとした達成感を迷宮内で噛みしめていたが。


 真斗は僅かな時間そうしていたが、ウルからの声掛けによって我を取り戻し、魔物との戦闘によって少し温まった体を軽くほぐしながら、戦利品を袋に仕舞い帰り支度を始めた。


 そして次の迷宮の予定を話し合いながら一旦魔法陣の所まで戻り、無事上層の組合まで辿り着いた。報告の時に受付からは怪訝な顔をされたが、特に言及されることもなくそのまま報酬を受け取り階層の更新を済ました。


「ふむ、これで目立つことはなくなったが、その分暇な時間が出来てしまったな。日が暮れるまでまだかかるしな……ウルはどうする?」


「私?私は家に帰ってゴロゴロするつもりだけど。師匠はどうするの?」


「俺か。そうだな、せっかくこうして時間が出来たわけだし……ふむ、久しぶりにやってみるか。」


「やるって、何を?」


「俺がここに来るまでにやっていた日課だ。最近は迷宮関連で時間が取れなくてやっていなかったが、これからはこうして定期的に取れるだろうしな。いい機会だし、訓練場に行ってやってみるとするか。」


「待って。それ、私もついてっちゃダメかな?師匠がどんな日課をしてたか気になるんだけど。」


「別に構わんが、特に面白くも何ともないぞ?」


「それでも構わない。大丈夫、ただ見てるだけで私は満足だから。」


 念を押して確認するが、それでもウルの意思が変わらない為、真斗はそれ以上は何も言わず呆れのため息を吐きながら一緒に組合内の訓練場へ向かった。そして数分歩いて目的地に着くと、真斗はウルを邪魔にならない様に端に寄せてから何をしようか考え出した。


 暫くそうしていたが、「うむ。」と一つ頷いてから真斗は投擲の姿勢を取り、そして何かを的に向かって投げだした。少しした後に的の方からパンッ!と小気味いい音が鳴りそれを確認した真斗は首をひねりながらもまた同じように姿勢を取って投げた。


「ねえ、師匠はさっきから何をやってるの?」


 そうすること三十分。一連の行動を見続けていたウルだったが、流石に何をしているのかが全く理解できなかったため、邪魔しちゃ悪いと少し罪悪感を感じながらも真斗に対して質問をしだした。


「む?これか?これは空気を掴んで力任せに投げつけているだけだが、それがどうかしたか?」


「は?」


 だが帰ってきた答えは更に意味の分からないものだった。当然ウルは混乱し、口をあんぐりと開けて呆然とした。暫くしてから復帰したウルは真斗の答えに納得できなかったのか再度質問した。


「いや、私が聞きたいのはそういうことじゃなくて、何のためにそんなことをしているのかってこと。まあ、今ので何で空気を掴めるのか、何故それを投げて的に当てれるのか色々気になることは増えたけども。」


「ふむ、掴んで投げるのはただの力技だが、何故と言われれば技を作っているだけとしか言いようがないな。」


「技?空気を掴んで投げるのが?その割にはあんま威力が出てないけど…。」


「確かにこの空気弾は技と呼ぶには貧弱すぎるものだ。昔に作ったはいいがいまいち実用性に欠けてな、《どう》如何にか使い物にならんかと試作中だ。」


「相変わらず無茶苦茶だなぁ師匠は。実用性も何も、魔力を使わないで素手で投げるなんて師匠以外誰も出来ないし、そもそも思いつかないよ。」


「そうか?頑張れば誰でも出来ると思うが。」


「例え出来ても遠距離攻撃は魔法があるし、尚更実用性はないと思うよ。」


「むぅ。」


 ウルからの冷たい意見にはさしもの真斗も唸るばかり。やはり技とはいえぬただの不良品でしかないのかと、諦めにも似た感情を持ち始めていた。しかし、称号にまで記載されるほど技を作り続けた技職人の小さなプライドがそれを許さなかった。意地でも完成までこぎつけてやると、ここまで来たなら諦めてたまるものかと半ばやけになりながらも。


 そうしてウルからの指摘を受けても愚直に空気弾を投げ続けていたが、一向に使い道が見つからず刻々と時間は過ぎ去っていく。人も少なくなり閉館時間も近づいてきたので仕方なくこの日は解散した。


 翌日。迷宮もそこそこにして余った時間を技の試作に費やした。幾度も幾度も思考を重ねながら実用性がないかを探し続けて。そしてこの日も閉館時間まで模索し続けたが、結局何も思い浮かばず解散する。


 そして次の日も、そのまた次の日も真斗は試作し続けた。ある時は気分転換に違う技を使ってみたり、またある時は普通に訓練して頭を休ませたりしながら。こうして暫く技の試作に励むことになった真斗だったが、それでも使い道が思い浮かばず悶々とする日々を送る羽目になっていた。


 そんな生活を続けていた真斗であったが、ある日ウルとの何気ない会話によってその生活は終わりを告げることになる。


「むぅ…どうしたものか。」


「一つ疑問なんだけど、どうしてそこまでその技にこだわるの?前にも言った通り遠距離なら魔法があるじゃん。そっちの方が手っ取り早いと思うけど。」


「生憎俺は魔法の才能が一切ないのでな。魔法を使うことが出来ない。似たようなものなら出せなくはないが、少しコスパが悪くてな。」


「師匠に魔法の才能がないなんて初耳なんだけど。まあ、そういうことなら仕方ないね。それで、似たようなものって何?」


「しばしまて……そうだな、都市内ならこれくらいか。…むんっ!」


 人差し指を立てたかと思いきや、そこに大量の魔力が溜まっていき直径一センチ程の球状の魔力の塊を出現させた。


「は?え、なにこれ。魔力の塊?どうやって……。」


「これは魔力弾と言ってな、先ほど試作していた空気弾とはまた別のものだ。作るのに少し時間がかかるが使い勝手はかなりいいぞ。」


 そういいながら真斗は極小の魔力弾を空中で操り出した。自身の周りに旋回させたり急停止からの急発進など、まるで体の一部の様に自由自在に。そしてひとしきり動かした後は、遠くの的に向かって当てて魔力弾を霧散させた。


「こんな感じで自分の意思によってある程度は自由に動かすことが出来る。」


「うん、意味が分からない。ていうかそれ魔法じゃないの?さっき使えないって…。」


「魔法ではないぞ?ただ魔力を球状に圧縮させただけの代物だ。最も、込めた魔力量や性質によっては様々な効果を付与することも可能で、実体も持っているから当てたらひるませることも出来るという割と優れモノだ。たださっきも言った通り作るのに時間が掛かる上に消費魔力量もそこそこ高いという欠点があるから余り手軽には出来ん。」


「魔法が使えないから魔力で代用するとかいう発想自体が既に意味分からないのに、本来魔力は実体を持たず視認することは不可能のはずなのに可視化し実態を持たしたり、更にそれの齎す効果を変え自在に動かすとか、突っ込みどころが多すぎてそろそろ頭がパンクしそうなんだけど……。」


 魔法を使えない師匠がどのようにして遠距離の相手と戦うのか、怖さ半分、好奇心半分で聞いてみたが、見せられた技が余りにもウルの理解を超えた代物だった為、最早その技自体が一種の魔法ではないかとさえ疑ってしまう始末。


 有り得ないことが同時に起き過ぎたからか、ウルは最早何が常識で何が非常識なのか分からなくなってきていた。目を回し、頭からはショートしたかのように煙が出そうになるほどの知恵熱が出てきたが、次第にウルは考えるのを止めた。何故なら「師匠だから」と、その一言で理解できなくても理解できる境地に至ったからである。


 そうして考えることを放棄したウルは一切の疑問を捨て、一つ息を吐いた後若干強引ではあるが話を進めた。


「うん、よくわからないけどとりあえず分かった。だからそろそ帰っていい?これ以上は頭がおかしくなりそう。」


「見たいといったから見せたのに、全く失礼な奴だ。兎も角、代用としてこれを使っているが、如何せん改良の余地が思い浮かばんのだ。こう、もっと手軽に、尚且つ便利に出来んものかと…。ウルからは何かないか?」


「そんな意味不明なことが出来るならもう魔力を使ってどうにかしたらいいんじゃない?」


 何かいい案はないかと、そう尋ねられたウルだが、考えるのも馬鹿らしいと思い適当な答えを言い放った。願わくばもうあんな意味不明な技を生み出さないでくれと、心の中で呟きながら。しかし残念なことに、そのウルの言葉によって真斗は閃きを得てしまった。


「魔力、魔力か………。ふむ、そうか。そういうことだったのか!感謝する、ウルよ!確かにその手があったな!」


「あぇ?」


 突然ブツブツと何かを呟きながら掌にある空気を微弱な魔力で覆い始め、それを更に握りしめて中にある空気を圧縮させた。


「ふむ、これなら…。」


 そういって近くにある的に向かってそれを力一杯投げ飛ばした。するとバキュンッ‼と耳をつんざくような音を立ててそこに設置されてあった的は粉々に吹き飛んだ。


「…。」


「ふむ、これなら魔力消費が少なく、かつ手軽に扱うことが出来るな。そうだな、逆に層を厚くしてみたらどうなる?」


 そして今度は先ほどよりも多く魔力を振り分け、空気を包んである層を厚くして再度別の的に向かって投げ飛ばした。ゴガンッ‼と音がしたと思ったら、投げられた箇所のみがきれいさっぱり丸くえぐり取られる結果となった。


「…。」


「成程、厚くすると破裂せずにただの硬いボールになるのか。これはこれで悪くないな。しかも魔力弾と比べてみてもさほど魔力を消費せんし、これなら実践でも何ら支障はないだろう。」


 うんうんと、一人納得するかのように頷きながら満面な笑みを浮かべる。満足いく出来になり、やっと成果が実ったのだと。その反面、ウルは口を開けっぱにしながら心ここにあらず、といった風に只々呆けているばかりであったが。


「さて、ようやく完成したが、既に時間も遅い。名残惜しいが今日は終わりにするとしよう。明日、またいつもの場所に集合でいいんだよな?」


「え?あ、うん。」


「それじゃ、今日は解散だ。また明日、会おう。ではな。」


 そういって手を振り、「明日、楽しむとするか……。」なんて物騒な言葉を呟きながら出口へと去っていく。その背中が見えなくなるまでボーっとしていたウルだが、その後ろ姿を見てふと思った。







「私、弟子になる人、間違えたかも………。」————と。






————————————————————

後書き。。。


やはり素人が書くと話の構成に時間が掛かって中々投稿頻度が上がりませんね…。なるべく十日に一度のペースで投稿できるように頑張りたいと思っていますので、どうぞ気長に待ってていただけると幸いです。今後ともよろしくお願いします。

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