第15話 迷宮組合

「ここが迷宮組合か、意外にデカイな。」


 幼女化しているウルに連れられて俺は報酬の受け取りと迷宮探索者になる為に迷宮組合に訪れていた。


「あたりまえ。ここがいちばんおおきいくみあいだから。」


 腕を組み、知らないの?とでも言いたげに首を傾げてそう言われた。


「さっきも言ったが俺は初めてこの都市に来たから何があるかなんて知らんぞ。それに一番?まるで他にも有るみたいな言い方だな。」


「ん。ここをあわせてごうけいよっつある。そしてここはさんびゃくそういじょうこうりゃくしゃせんもんのめいきゅうくみあい。わたしもここにしょぞくしてる。」


「そうか、それじゃあ早速入るか。」


 ムフー、と自慢げな顔をしてこちらを見てくる幼女を無視して俺は建物の中に入っていった。









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         深層の組合


「ふむ、随分と賑やかな場所だな。」


 中に入ると思ったよりも混んでおり、大量の人でごった返していた。受付に何事かを取り成している人、酒を飲んでいるのか大きな声で笑いながら話している人、他にも千差万別ではあるがそこらじゅうで話し声が飛び交っている光景が目に入った。


「これは一体どこに行ったらいいものか、まるで見当がつかんな。」


 周りを見渡してみても溢れんばかりの人、人、人。それを掻い潜って受付に行こうにも列が五つもあって、どの列に並べば良いかすら分からなかった。


「むぅ、これは一旦誰かに聞いた方が良さそうだな……ふむ、あいつでいいか。」


 流石に真斗はどうしようもないと考えたため、近くに居た剣の手入れをしている男に話し掛けた。


「済まない、少し良いだろうか?」


「………。」


 近づいて話し掛けたものの見事に無視された。


「無視だと?……いや、まて。これはどこかで見た光景だな。」


 間近に居るのに全く気づく様子が無い男を見て、真斗は既視感を覚えた。


「やはり少し緊張していたのか。無意識に気配を消してしまってるな。」


 ふぅ、と体の緊張を解くために息を吐いて、同時に気配を消すのを止めた。するとあれ程騒がしかった光景が嘘のように静かになり、全員が一斉に視線を向けてきて、


「誰だあいつ!?」「何者だ?」「いきなり現れたぞ……。」「迷宮から出てきた魔物か?」「あ、いた。」


 そう口々に疑問の声が上がり、中には敵意を見せる者もいた。


「!!いつの間に!」


「ふむ、何故か今度は注目を集めてしまったな。まあ、いい。ところで、少しここの事を君に聞きたいのだが……。」


 気配を出した事で逆に一気に目立ってしまったが、真斗は気にすることなく再度先程の男に質問をした。


「しっ!」


「おっと。」


 しかし、いきなり剣をこちらに向かって振りかざして来た。しかし、目で追える速度だったため慌てること無く片手で剣を掴み取った。


「なっ!?」


「確かに気配を消して近づいたのは悪かったが、何も攻撃する程でも無いだろうに……。」


「くっ!」


 不利だと考えたのか、剣から手を離してバックステップをし、今度は何事かを唱え始めた。


「中級火魔法”フレアボール”!」


 そして放たれたのは中級の火魔法だった。


「こんな建物内で火魔法を使うとは、後先考えていないのか?」


 真斗は溜息を吐きつつ掴み取った剣を適当に放りなげ、放たれた魔法を掴み取りそして握り潰した。


「は?え、握り潰し……え?」


「なあ、いい加減話を聞いてくれないか?こっちは戦闘の意思は無いんだが。」


「そっ、そんな怪しい格好をしておいて誤魔化せると思うな!皆、かかれ!敵は俺の剣が通じず、中級魔法すら効かない化け物だ!上級魔法を使って遠距離から一方的に攻めろ!」


「いきなり何言ってるんだアイツ?」「確かに怪しいけど、どうする?」「いや、どうするってお前……。」「まあ、なんか怪しいしとりあえずやっとこうぜ。」「というか握り潰すってヤバ……。」


 一連の流れを見て、一部の呆れているのを除き、周囲の人達は真斗の格好を見てなんか怪しかったのか、敵認定し一斉に様々な魔法を放ち始めた。


「ふむ、このままでは建物に被害が出るな。どれ……。」


 建物に被害が出ないように気をつけながら、真斗は放たれた魔法を一つ残らず握り潰していった。


「うむ、こんなものか。」


 建物に被害を出さずに消した事を満足そうに頷きながら呟いた。


「うわっ、まじか……。」「嘘だろ……。」「あれ、これ詰んだ……?」「おいおい、死んだわ俺たち。」


 反対に魔法を放ったものたちは今の出来事を見て、真斗に対して恐れ慄いていた。


「くっ!かくなる上は……!」


「いい加減にしろ。」


「っ!?はやっ……。」


「せい。」


「がっ!」


 皆を焚き付けた奴がまだ何かをしようとしてたので、バチンと額にデコピンをしたら向こう側まで飛んでいって壁にめり込んでしまった。


「あ、やば。」


「ソーマがやられたぞ!」「くそっ、初めからソーマの言う通り上級魔法を使ってれば……!」「よくもソーマを!」「覚悟しろ、この化け物め!」


 力加減を誤って吹き飛ばしてしまったことにより仲間が殺されたと思ったのか、先程までの様子とは一変して一斉に激昂し始めていた。


「ま、まて!殺してない!少し力加減を間違えたがまだ生きているはずだ!」


「お、俺は、まだ、生きて……。」


「ほら!あっちで何かブツブツ呟いてる!生きているぞ!」


「かかれ!なんとしてもあの化け物を討つのだ!」「そんな見え透いた嘘に引っかかるか!」「迷宮に還してやる!」


 指を指して必死に相手が生きていることを訴えてはいるものの、激昂して怒り狂っているからか一切聞く耳を持ってくれなかった。


「くそ、面倒くさくなったな……。」


 仕方なく真斗も臨戦態勢をとり、あわや激突寸前となったところで、


「みんな、だまって。」


 静かに、されど体に透き通るかのような一つの声が響いた。


「うっ。」「か、体が震え……。」「っ……!」


 その一声に先程まで闘志を燃やしていたもの達の火が一斉に消えた。


「ウルか、助かったぞ。」


「ん。やっとたどりついた。まったく、なにしてるのししょう?」


 その声の主はウルと呼ばれた幼女だった。


「いや、少し手違いがあってな……。」


「う、ウルさん?」「え、どうして幼女に?」「というか、師匠?」「なんでやつを庇って……。」


 事の経緯を説明しようとしたが周りから聞こえてくる声に真斗の声は掻き消された。


「しずかに。いまわたしたちがはなしてる。」


 しかし、またもやウルの一声で一斉に静かななった。


「よし、しずかになった。それで、ししょうはなにしてたの?」


「いや、何事も無かったかのように話を進めるのか……?」


「きにしない。」


「……まあ、いいか。兎に角、さっきの経緯についてだが……。」


 真斗は軽く事のあらすじを話して、なんでこんな事になってるのかを説明した。


「という訳だな。」


「なるほど、りかいした。」


「というかお前、もう敬語は止めたのか?」


「めんどう。」


「そうか……。」


「あ、あの〜。」


 一通り話が済んだのを確認してか、一人の男がウルに話し掛けてきた。


「なに?」


「ひっ。い、いや、その、ウルさんと話しているそちらの方は一体何者なのかな〜と、ですね……。」


 ウルに睨まれながらもその男は一つ質問しだした。


「ん、わたしのししょう。」


「は?ウルさんの師匠?」


「まて、師匠になったつもりは無いぞ。ウルが勝手にそう言ってるだけだ。」


「え?師匠じゃない?」


「うん、ししょう。」


「え?」


「だから違う。」


「え?え?」


 男はどちらが本当の事を言ってるのか訳が分からなくなって頭がどうにかなりそうだった。そんな問答を繰り返していると上から誰かが駆け足で降りてくる音が聞こえてきた。


「一体何事だ!」


 そう怒鳴り声を上げて降りてきたのは筋骨隆々とした体を持つ強面の男だった。


「誰だッ、騒ぎを起こしているやつは!っ、またお前かウル!?」


 辺りを一瞥して先程ソーマと呼ばれた奴が壁にめり込んでいるのを確認して、その場にいた幼女化しているウル・アシュレットに向けてそう問い質した。


「ちがう。ししょうがやった。」


「は?師匠?」


「ん。そう。」


「何処にお前の師匠なんて……ん?」


 隣を見てみると、そこにはボロボロの服を着た見慣れない白髪の青年がいた。


「……アンタ、もしかして領主様が言ってたヘルベアー単独討伐者か?」


「領主から何を聞いて居るのかは知らないが、確かに単独で討伐したのは俺だ。」


「そうか、アンタか!確かに、怪しい見た目をしている白い髪の青年だな。領主様が言ってた特徴と一致している。」


「そんなに怪しく見えるのか、というか領主は俺のことをそんな風に説明したのか。もっといい説明の仕方があっただろうに……。」


「まあ、細かいことは気にするな!それより、丁度良かった。ついさっきヘルベアーの解体が終わった報告が届いて、アンタの報酬が渡せる様になった所だったからよ。」


「大体5000万レナーくらいだと聞いている。」


「お、知ってんのか。なら話が早い。今から渡すからちょっと俺に着いてきてくれ。ついでにウルも来い。」


「ふむ……。」


 男はそう話を巻くし立たせて、先程降りてきたばかりなのにまた上へと階段を登って行ってしまった。


「……なんか、嵐みたいな人だったな。」


「きにしない。はやくうえいこ。」


「そうだな。さっさと受け取るとするか。」


 そうして俺たちは階段を登って行った。






「え、この状況はどうすんの?」


 そうウルに質問をしていた男は、その場に居たもの達の心の声を代弁するかのように一人呟いたのだった。

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