閑話 一方その頃。

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          無の間


『成程、【龍化】の少年は思ったよりも順調に成長してってるね。天性の固有スキルだったかな?それに他にも色々粒揃いな人も居るなぁ。』


 人々をアレナに送り込み少し余裕がもてた神は、送り込んだものがどんな人生を送るのかを食べ物を片手に目の前に表示されているモニターで観戦していた。


『あぁ、彼はもうダメかな?送られた場所が五大魔境とされる大森林だなんて、全くついてないね。基本的には本人が望んだ場所に転生する様システムを設定してあるはずなんだけど……。確かに何処よりも綺麗な場所はあるけど、見ることは叶わないんじゃないかなぁ。』


 ふと目に止まった一人の男の映像。それは転生する前から一際目立つ行動を取っていた印象に残る男だった。


『そら、言わんこっちゃない。虫に食われ始めてるじゃないか。流石にあれは死ぬだろうね。個人的に少し気になってたんだけどなぁ。まあ、しょうがないか。ん〜コレは消して、と。それじゃあ次はこの人を…。』


 虫に食われ始めこれから死ぬと分かったからか興味を失い、男が映っているモニターを消し、次の人生を観る為にまた別のモニターを見始めた。


『おい。』


『ん〜まだまだ面白くなるのは先かなぁ?時間を加速させるか?』


『おい。』


『いや、それだと面白い場面を見逃す事になるし。』


『おい!』


『でもでも、今すぐ見たいしなぁ。ん〜迷うなぁ。』


『フンッ!』


『もっと別の方法を……うぎゃっ!?』


 突然その場が白くひかり、アレナの神は押し潰されたかのような声を出した。


『うぅ……。いきなり酷いじゃないか、地球の神さまぁ。』


『何度も呼んでいるのに貴様が無視するからだ。』


 そう言って現れたのは黒髪ロングで日本人形みたいな何処か希薄さを感じつつも、気品を伴わせ厳かな存在感を放つ少女だった。


『え、そうだっけ?にしたってコレは酷いよぉ。』


『フンッ。少しは反省せい。それに貴様であればそんなもの何ともない筈だ。』


『まあ、確かにそうなんだけど。それでもいきなりはビックリするよ。』


 よいしょと軽く声を出し、何事も無かったかのように平然と立ち上がる。


『全く、相変わらずの力の強さだな。アレを食らって平然としているとは。』


『まあ、これでも一応は「名前」をもつ星の神だからね、これくらいはどうって事ないよ。流石に地球の神には敵わないけれど。』


『フンッ。流石にそこは弁えているか。当然と言えば当然だが、貴様に関しては理解しているか怪しかったからな。』


『え〜流石に酷くない?いくら僕でもそこまで馬鹿じゃないよ。』


『ぬかせ。大体貴様は何時もフラフラとしておるでは無いか。そんな事だからいつまで経ってもほかの神に舐められる。それにこの前だって……。』


『分かった、分かったから。取り敢えず説教は後にして、何か用があって僕を呼んだんじゃないの?』


『む、そうであった。危うく忘れる所であったな。貴様から要請を受けた残りの四陣よんじんの転生候補者が整ったからそれを伝えておこうとな。』


『もうか、早いな〜。もう少し遅くてもいいんだよ?丁度今送ったもの達の人生を観戦して楽しんでいる所だったのに。』


『貴様の楽しみなど知らん。いいからなるべく早く受け取れ。』


『はいはい。分かりましたよ。じゃあ順番に第二陣の方から宜しく〜。』


『全く……。』


 それから第二陣、第三陣、第四陣、第五陣と、第一陣の時と同じく順番にアレナに送り込んだ。


『ふう、やっと終わった。ようやく続きが観れる。まだ始まってないといいんだけど……。あ、そうそう今回はありがとねって、あれ?いつの間にか消えてたか……。まあ、いいか。』


 協力者に感謝しようとしたら既にこの場から去っていたようで、それならば次に会った時にすればいいと思い直し、全員を送り込んだアレナの神はいそいそと再度観戦するための準備を始めた。


『飲み物良し。モニター良し。食べ物も良し。寝転がるベッドも良し。あと必要なものは……。』


 準備が粗方完了し、忘れ物が無いかチェックしていた時、ピコンッ!と音が鳴り観戦用モニターとは別のモニターが現れた。


『なんだい、これからって時に。全くもう。え〜と、どれどれ……。え?』


 そこに表示されていたのは《大森林の主が討伐されました》という文字。


『え?何で?あの世界で討伐出来る者なんて居たっけ?いや、居ないはずだ。だとしたら僕が送り込んだ転生者たちか?けど、いくら位階が上がる世界とは言え討伐出来る程の力を与えたつもりはないし。可能性で言えば9枠の固有スキル持ちだけれど、流石に主相手では文字通り次元が違う。一体誰が……。』


 急いで事の詳細を確認すると、そこには足元まで伸びた白髪と鍛え抜かれた体という違いはあるが、見覚えのある人物が表示された。


『もしかして、あの時の彼?え、でも虫に食われて死んだはずじゃ……。ちょっと過去を観てみるか……。』


 かの者が何故生きているのか分からなかったアレナの神は、過去を観ることでその原因を探し出そうとした。


『え〜と、お。ここら辺かな?……うん、やっぱり食われてるよね。じゃあなんで………ん?』


 やはり前に観た時同様に虫に食われてるが、何故か一向に死ぬ気配が無い。


『何でその状態で死なないの?というか、なんか治っていってる……?え、そんな摩訶不思議な固有スキルなんて入れてないし、渡してもいないよね?』


 死なないどころか、なんとかの者は食われるスピードに拮抗するかのように体を復元させているではないか。


『でもこれじゃあ永遠に食われ続けるだけ、一体どうやってここから出れたんだ?……あれ?何か溶けなくなってる……。ああ、成程。確かにそうなるけど、普通はそんな何度も食らったら死ぬと思うんだけどなぁ……。』


 しばらく観ているうちに虫の消化液で溶けなくなっている体を観て、かの者が無効系のスキルを獲得したのが分かった。


『おお!倒した!けど、この数は流石に……え?何言ってんのこの人。あ、飛び掛った。』


 体に群がっている一匹の虫目掛けて貫手を放ち、絶命させた後かの者は何事かを呟いて数えるのも恐ろしい程の虫の群れに、一人無謀にも突っ込んで行った。


『凄い……あの数相手にただの人間が善戦、いや、少しづつだけど押していってる……!』


 気付けばアレナの神はこの戦いに魅了されていた。


 その持ち前の謎の力を駆使しつつ、一匹ずつではあるが確実に虫を屠っていくかの者の姿に。


『あ、両腕が拘束された。ここからどうする?体当たりか?蹴るのか?それとも……は?』


 両腕を拘束され絶体絶命かと思いきや、かの者はいきなり虫に向かって頭突きをした。そしてその強い衝撃に耐えられなかったのか、頭部が破裂して動かなくなってしまった。


『いや、頭突きは良いんだけど頭が破裂する程の勢いでやっちゃダメでしょ。せっかく盛り上がって来たのに、ここで終わっちゃうのかぁ。あ〜……あ!?え!?それも治っちゃうの!?いやいや、えぇ……この人、本当に人間?』


 驚くべき事に破裂した頭部も治りピクリと動いたかと思うと再度虫に飛び掛り頭突きをし、そしてまた破裂し治りを繰り返して一匹一匹頭突きをかまし始めた。


『うわぁ……これは酷い。頭おかしいんじゃないのこの人。心做しか感情が無いはずの虫たちに恐怖が見られるんだけど。神である僕ですら引くレベルだから気持ちは何となく分かるけど。ていうか頭破裂して死なないとかどうなってんの。しかもいくら治るとはいえ痛くないのかね?』


 余りにも異常な光景に普通に引く神。やがて虫の数は数える程にまで減らされ、本能故か虫たちは逃げ出した。


『まあ、そりゃあ逃げ出したくなるよね。あんな殺され方をされてる味方を見ちゃったら。僕ですら逃げたくなるよ。けど、開始前に言った言葉通りだと……。』


 しかし、虫たちは回り込まれて頭突きをされ、その数を更に減らし続け、遂には全滅した。


『本当に殺しつくしちゃったよ。でもこれくらいなら主には勝てない筈。どうやって倒したのか……。しかし本当に恐ろしい光景を見たよ、うん。』


 そう言いつつアレナの神は主と戦う所まで先に進めた。


『と、ここか。主と戦うところ。え、てかなんで生きてんの?軽く三千年以上経ってるんだけど、寿命無いの?あ、始まった。』


 先に進めたら人間じゃとても生きれない時間が経ってる事に驚きつつ、主との戦いを観戦し始めた。


『何とか耐えれてるけど流石にいつまでも耐えれそうにないね……。ていうか主の攻撃に耐えれること自体おかしいけどね。そろそろ感覚が麻痺してきたよ。』


 序盤から決めに来た主は自身の固有スキルを使ったが、かの者はそれに耐え、それに驚いた主はなりふり構わず固有スキルを連打し始めた。それから何時間も耐えていたが流石に限界だったのか、苦しそうな顔をしだした。


『流石の彼もこれは無理だろうね。でも結果は倒してるしな……。ここからどうするんだろ。……ん?あれ?この感じさっきの……。』


 苦しそうな顔を変え、ふと守るのを辞めたと思ったら主の方向に向き、何事もないかのようにそのまま彼は歩き出した。


『あ、無効化したなこの人。いや、主の攻撃を無効化するって何さ。多分獲得したのは衝撃無効だと思うけど、普通はというか基本的に無理な筈だけどなぁ。方法はなくもないけどその前に死んじゃうもん。主も困惑してるし。』


 困惑している主の隙をつき、攻撃を当てることに成功したが、主の固有スキルによって彼は大きく吹き飛ばされてしまった。


『あ、吹き飛ばされた。ていうか地面の爆発強すぎない?どこにそんな力があるのさ、彼。まあ自分の殴打のあの威力を返されたからか結構遠くまで行くねぇ。主も帰ろうとしてるし、空を飛べでもしなきゃ直ぐには帰ってこれな……。』


 彼は空中を蹴り出して元の場所に戻って来ると、そのまま困惑している主に向けて殴り掛かった。


『違う、そうじゃない。確かに空を飛べでもと言ったけど、本当に飛ぶんじゃない。え、彼、人間だよね?実は違う生き物だったりしない?もう怖くなってきたんだけど。』


 そのまま戦いは続き、またしても彼は攻撃を当て、初めて主にダメージを与えさせてみせた。


『主に攻撃が通った?固有スキルによって物理系は無効化されているのに……。あ、また吹き飛ばされた。』


 またしても彼は吹き飛ばされ、今度は遥か上空に向かって飛んでいってしまった。


『宇宙まで飛ばすつもりかな?でもさっき帰って来たからなぁ。また帰ってくるんじゃない?あ、ほら。成層圏に留まって……いや、何で留まれんの?普通は人間だったら死ぬよね?後、当たり前のように宙に留まるの辞めてくんない?やっぱり彼、人間じゃないよね?』


 しばらく宙を蹴ってその場に留まっていると、急に逆さに蹴って降下し始めた。そしてそのまま先程の場所へ地面に穴を開け、そこから這い上がりながらも彼は帰ってきた。


『やっぱり帰って来たよ。なんで帰ってくるんだよ。どうして帰って来れるんだよ。もう意味分かんない。』


 そこからは一方的だった。彼が目にも止まらぬ速さで主を殴り続け、その勢いは留まることを知らず、遂には主を倒してしまった。


『あー、倒されちゃったよ。確かにこれは無理だわ、倒されるのも仕方ないほどだよ。……ん?まだ少し続きがあるな。どうせなら最後まで見るか。』


 主を倒した彼は生き返った主とこれからの事について話し合っていた。


『そういや、主を討伐したらあの称号が貰えるんだっけ。じゃあこれから彼は主になるのか。て、ん?何してるんだ?』


 彼は虚空を見つめ始めたと思ったら、いきなり虚空を殴り始めた。


『え!?いや、え!?本当に何してんの!?まさか自身のステータスを殴ってる!?何で殴ってんの!?』


 どうやら話を聞く限り主になって大森林を治めるのが嫌なようだ。


『そんなに嫌か、自身のステータスを殴るほど!?けどそれは破壊不可なんだよね!いくら殴ろうとも絶対壊せやしないよ!』


 殴っても壊せないと分かったからか、今度は掴み取って握り潰そうとしだした。


『確かにステータスは触れるけど、触れるだけで特にどうすることも出来ないし、意味は無いよ。え?スキル?そんなの使っても何も起こ……った!?』


 そのままではダメだと思ったのか、彼はスキルを使った。するとズブズブとその手がステータスに入り込み、そしてその称号を握り潰した。


『え、握り潰せるもんなの、それ!?いや、そもそも干渉出来たの!?何で干渉出来てんの!?おかしい、おかしいって!!っうわ!?』


 すると突然けたたましい音が鳴り、彼の目の前にエラーの文字が書かれたモニターが表示された。どうやら称号が破壊されるという前代未聞な出来事が起こったせいでバグってしまったらしい。そして破壊された称号を復元しようとしている。


『何かと思ったら、そりゃそうなるよ。こんな事初めてなんだから。何はともあれ、ちゃちゃっと復元してくれよ〜。』


 しかし、復元は失敗し代わりに似た様な称号を新たに二つ作り出した。


『は?何で二つになってるの?復元出来なかったからって、それは……。はぁ、もういいや。彼の事で頭を使うのは辞めよう。うん、それがいい。どうにでもなれ。』


 意味が分からない出来事が立て続けに起こったせいで、アハハハと笑いながらどうやら現実逃避し始めた。


『ハハハ。……そう言えば彼の名前を知らなかったな、知っておかないと後々厄介になるぞ、これは。どれどれ……。道影 真斗、か。これから要チェックしとかないと。それにどうやら次は迷宮に行くようだし、それまでは他の人のやつを見て気分をリフレッシュさせとこう……。』


 余りの出来事に目眩を覚えながらも監視の意味を込めて真斗が表示されているモニターを消さずに、見易い所に配置した。


『あー、彼の力のこととか確認するの忘れてたな……。うん、いいや。ちょっと今は別の事を考えたい。彼のことはもうお腹いっぱいだよ、はぁ……。』


 何故こんなことにと悲哀を滲ませながら他の人が映されているモニターを観るのだった。

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