第10話 出発

「フッ!」


 ズガンッ!


「グア……。」


 今日も今日とて日課に考え付いた技を魔物相手に試してはそれが有用かどうかを見極め、必殺になるように昇華させて極めていく。


「ふむ、魔力を込めるとここまで威力が変わるか。」


 前に試した技を今度は身体強化をして行った結果、魔物は体に風穴を開けて絶命した。


「前回は威力不足だったのに、今度は威力調整が必要な程とは、やはり教えて貰った甲斐があったと言うものだ。」


 一人うなづいて技の出来の良さを賞賛する。


「それにしても……《ステータス》。」


  ブォン。と目の前にモニターが現れた。


《名前:道影 真斗 6000歳 性別:男


 種族:人間[破壊と再生の権化]


 固有スキル

 ・【再生】


 スキル

 ・貫通 ・酸無効 ・精神障害無効 ・状態異常無効・痛覚無効 ・溺死無効 ・即死無効 ・斬撃無効

 ・圧耐性 ・魔法耐性 ・刺突無効 ・衝撃無効

 ・魔力操作 ・空歩 ・道影流 ・身体強化

 ・気配感知 ・震脚


 称号

 ・転生者 ・森の天敵 ・鏖殺者 ・一騎当千

 ・狂人 ・破壊と再生の権化 ・無謀者 ・理越者

 ・不死身 ・化け物 ・技職人 ・初代道影流

 ・主を打倒せし者 ・大森林の主 (真)

 ・理不尽の塊 ・脳筋 ・魔を扱いし者》


「やはり位階が上がった気がせんな。スキルやら称号は増えているんだが……。」


 ステータスを確認していると、背後から何者かの気配を感じた。


(真斗の技は相変わらずえげつないな…。)


「む、エイベルか。お前に教えて貰った身体強化を使って技を試していたところだが、何か用か?」


  風穴を開けて地面に横たわり絶命している魔物を横目に、エイベルは恐ろしげな目を向けながら話し出した。


(いや、なに。いつお前は大森林から出ていくのかと思ってな。)


「何を言っている?出ていくも何も出られないからこうしてまだ大森林で暮らしているのではないか。」


 呆れた目をしながらエイベルに対しそういう真斗。しかし、エイベルも真斗に向けて呆れた目を向ける。


(真斗の方こそ何を言っている。お前は大森林の主(真)という称号を持っているではないか。)


「持っているが、それが何だ?」


(お前は大森林から出られるようになったという訳だ。)


「どういう事だ?」


(気づいてないのか?)


「何が?」


(はぁ……。)


 呆れ果てたのか、ため息を吐きながら首を左右に振るエイベル。


(まず、何故お前がここから出られなかったか分かるか?)


「分からんが、幻覚の類ではと当たりを付けている。しかし、耐性や無効がつかないからあっているかどうかは知らんがな。」


(それであっている。だが魔境なだけあって少し特殊な幻覚でな。大森林の主という称号を持って無ければ永遠に森を彷徨い続けるものだ。浅層では気を付けていればどうってこと無いが、深層に行けば行くほど効果が強まっていく。そしてそれは森の中では解けることは無い。)


「そんな幻覚があったのか、道理で出れない訳だ。あの時川に流されたせいで深層に行ってしまった事が分岐点だったとは、世の中何が起こるか分からないものだ。」


 長年分からなかった謎が解けて満足そうにうなづいた。


「という事は俺はもう迷わずにここから出れる訳だな?」


(そうだ。というか気付くのが遅くないか?称号を獲得した段階で普通はわかるものだろう?)


「確かにあの称号を持ってからいつもより早く目的地に着くことが出来ていたな。てっきり位階が上がって肉体が強化されたからだと思っていた。」


(真斗の身体能力の高さを考えると気が付かないのも無理は無いのか……?いや、それでも二百年近く気が付かないはずはないだろう。)


 そう、あれからエイベルに身体強化を教えて貰ってからもう二百年程経っていた。


「まあ、細かいことは気にするな。そうか、とうとうここから出れるのか。そう思うと感慨深いな。」


(大袈裟な、と言いたい所だがお前は彷徨っていた時間が時間だからな。それで、何処か行く宛てはあるのか?)


「ふむ……。」


 真斗は少し考えて何処に行こうか悩んだ。


「一つ聞きたいんだが。」


(ん?何だ?)


「お前に案内して貰ったあの幻想的な泉はあの場所だけか?」


(そうだな。私の知る限りはあそこだけだな。)


「ふむ、なら他の魔境にも似たような場所はあるか?」


(あると思うぞ。それぞれの魔境に私みたいな主がいるのだから。あの泉みたいな特殊な場所もそれぞれの主を倒したら出てくるのではないか?)


「そうか……。」


(それがどうしたんだ?)


「いや、前にどこに転生したいかを話しただろ?あんな感じで各地にある大森林の泉の様な光景を見てみたいと思ってな。どうせ死ぬ事が出来ない人生だ。強くなる事以外にも目的を持って旅をするのもいいだろう。」


(成程、いいのでは無いか?だが主を倒したらまた称号が着くぞ?)


「そしたらまた潰せばいいだけだ。コツは掴んだからな、いつでもやれる。それに強くなれるかもしれんしな。」


(お前と言う奴は……。それで、最初はどこに行くか決めたのか?)


「うむ。最初は迷宮に行こうかと思っている。転生前にそういう小説を読んでいたからな、今でも憧れがある。一体どんな感じなのだろうか、子供みたいに少しワクワクしてきたな。」


(そうか。それならこの先を真っ直ぐ行ったところに迷宮はあったはずだ。行くんなら精々気を付けて……いや、お前に限っては心配するだけ無駄だな。)


「まあそうだが、何だか釈然とせんな……。兎に角、真っ直ぐに行けばいいのか。ふむ、善は急げと言うしな、早速行くとするか。」


(もう行くのか?)


「ああ、走ればすぐだろうが旅の意味も兼ねて歩いていくとする。短い間世話になったな。」


(二百年は人間感覚だと短くない筈だが……。それと真斗よ、全身の身体強化を使うなよ。お前が使うとその場に災害が齎されるからな。それだけは覚えておけ。)


「むぅ、仕方あるまい。精々部分強化だけにするか。それでは、行ってくる。達者でな。」


(うむ、私の方こそな。)


お互いに別れの言葉を送り、俺は迷宮に行くために森を歩き始めた。






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          side エイベル

「クルル……。」


(行ったか……。)


真斗の背中が見えなくなる頃、私は一人そう内心呟いた。


(……。)


思えばあやつと出会ってからもう三千年以上経つ。そのうち二百年は身体強化の修行だったが、まさか本当に使っていなかったとはな。全く底がしれん者よ。


(転生者、か。)


真斗が語った転生者なる謎多き者たち。既に六千年経っているとはいえ、種族すら変えられることから真斗の様な特殊な奴は除き長寿の者は生きている可能性が考えられる。しかも強力な固有スキルを保持して。


(神は何を考えておられるのか……。)


戯れに転生させたそうだが、真斗の様な存在がまだ居るかもしれ無いことを考慮するとこの世界に混沌が巻き起こる可能性がある。そうなれば一体どれ程の被害が齎されるのか。


(何も起きない事を切に願うばかりだ。)


心の中を様々な不安がよぎるが頭を振ってそれを追い出し、そうして踵を返してエイベルは今日も森を森を守るためにその場を去っていった。

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