第9話 意味
(ここだ。)
メイベルに案内されて階段を降りて行くこと数分。そこには所々と小さくはあるが青白く光る苔に囲まれ、透き通るかのように美しく輝く大きな泉を一面に照らし合わしまるで森の神秘を
「何だこの場所は?」
(ここは主を倒したものだけに案内するエリクサーの泉だ。)
そう言い先程の大きな泉を鼻の先で指し示す。
「エリクサー……。」
(そうだ。お前はこのために私を倒したのだろう?人間は欲深いからな、この森に来るものの大半は噂を聞きつけて万能薬とされるエリクサー、その泉を奪いに来る。最も、主である私を倒さなければならない上に凶悪な魔物が跳梁跋扈しているこの魔境をまず突破しないとならないから実質不可能ではあるがな。何故かお前は突破したが。……改めて聞くが本当にお前は人間か?実は別の生き物じゃないか?)
「失敬な、どこからどう見ても人間だろう?それにエリクサーがなんなのか知らんし、目的は別でもう既に達成済みだ。まあ、あながち別の生き物というのは間違いでは無いが……。」
(エリクサーを知らない?それに目的が別で既に終わった後だと?色々気になるな、詳しく聞かせろ。)
そう顔を近付けて聞いてくる。
「まあ、こんな素晴らしい光景を見せてくれた礼だ。何でも質問するがいい。それと近い。」
(やたらと上から目線だが……まあいい。それなら遠慮せず聞こうではないか。まず初めにお前の名は?)
頭を引っ込めてそう初めの質問をしてきた。
「そういや言ってなかったな。俺は道影 真斗と言う、宜しく。俺からも聞くが、お前の名は?」
(私はエイベルだ。ふむ、道影 真斗と言うのか。今更ではあるが宜しく頼む。それにしても聞き慣れない名だな、貴族か?)
「エイベルか、分かった。そしてそれは違うな。何故なら俺は極々普通の一般市民……今は森の住民でずっとここで暮らしてきたからだ。」
(貴族ではなくその名か……つくづく不思議な奴だ。)
「まあ、この世界の人間じゃないからな。そう思うのも仕方ないか。」
(む?この世界の人間では無い?どういう事だ?)
更に顔を近付けて聞いてくるエイベル。何処と無く鼻息が荒くなっている様子だ。
「だから近いって、離れろ。」
(おっとすまん。……して、どういう事か説明して貰おうか。)
エイベルは再度離れ、改めて聞いてくる。
「たくっ……。まあ、そのままの意味だ。俺は神によってここに連れてこられ、こことは別の世界で生きていた人間だ。」
(神によって……。)
俺は詳しく説明した。
「そうだ。なんか娯楽に飢えてるらしくてな。俺以外にもあと九十九人程それぞれの種族に別れ、固有スキルを持って送り込まれているはずだ。まあ時が経ち過ぎてるからもっと数は少ないとは思うが。」
(成程。些か信じ難いがお前が持つその固有スキルも神から貰ったものとすれば納得出来る。それにしてもお前みたいなやつがまだいるかと考えると頭が痛くなるな……。)
エイベルは頭を項垂れさせ遠い目でそう呟いた。
「いや、俺の固有スキルは特殊だから気にしないでいいと思うがな。」
(特殊?9枠のものでは無いのか?)
「9枠ではあるが3枠のが三つ合わさって昇華したものらしいからな。」
(三つ?一人一つでは無いのか?それに昇華とは?)
「神様が奮発してくれたんだよ、この世界で生きれるようにとな。昇華については知らん。詳しく聞く前に話が進んでしまったからな。」
(確かに他所の世界から連れてこられたらこの世界の常識も何も知らんからな。必然的に死ぬ確率も高くなるというもの、そう考えれば多く与えられる理由に説明がつくな。)
一人(?)ふんふんと納得しながら頷くエイベル。
(昇華については、まあ置いておこう。それで今の話を整理すると別の世界から連れてこられたからエリクサーのことも知らず常識外れと。大体分かった。)
「何処か語弊があるが、まあいいか。他には聞きたいことは無いか?」
(おっと、忘れてた。さっき別の目的があったと言っていたが、それは何だ?)
「ああ、その事か。それはお前を倒す事だ。」
(ん?私を?倒した後のやつではなく?)
「そう、お前だ。前に敗走した時からずっと心の中でしこりが残っていてな。このままでは前に進めないと。」
(成程。私としてはもう来ないで欲しかったがな。まあ倒された今ならもうその心配も無いか。しかし何故そこまで拘る?前に進めないと言ったが無視して何処か遠い所に行けば良かったでは無いか。)
不思議そうにエイベルは言ってくる。
「それは俺がここに降り立ってからの話に遡るな。」
(聞こう。)
「そうか、では話すとするか。あれは今から5000年以上も前のことだ。」
(やっぱり人間じゃないだろお前。)
「話の腰を折るな。それで、続けるぞ。」
そうして俺はあの日の出来事を話し始めた。何故そこに降り立ち、そしてどんな経緯を経て今の強さを手に入れたのかを。覚えてる限りの事を詳細にエイベルに話した。
「……それで今の状況に至る訳だ。」
(成程、神も酷な事をする……。転生したばかりでこの大森林に放り込まれるとは、あの妙な固有スキルが無ければ既に死んでいた訳か、いや、あるせいで逆に死ぬ事が出来なかったのか。)
「まあ、今はもう諦めて唯ひたすらに強くなり続けているがな。それに神がここに転生させた意味もこの光景をみて納得した。」
(まあ幻想的ではあるが、そこに辿り着くまでに色々体験しすぎじゃないか?悲惨を通り越して最早なんと言ったらいいか……。)
真斗の過去を聞いて今に至るまでの内容にエイベルは顔を俯かせた。
「自らが望んでいた転生場所では無かったが、結果的にはこうして見れていることから当たらずとも遠からずだった訳だから気にしない事にしようと思う。それはそれとして次に神にあったら一発ぶん殴るがな。」
(文字通り神をも恐れぬ所業だがこればかりは擁護出来んからな。五大魔境の一つである大森林に落としたのだから。)
やれやれと言いたげにエイベルは首を左右に振る。しかしエイベルの何気無く呟かれたある言葉が真斗は気になった。
「ん?五大魔境とは何だ?その内の一つがココだと?」
(そうか、お前も転生者だから知らないのか。ふむ、では説明しよう。五大魔境とは文字通り五つの魔境の事で、大森林、迷宮、古代遺跡、禁域、奈落、といったこれらの場所の事を指し示している。そして先程も言ったように私たちがいるこの森が魔境の一つである大森林という訳だ。)
「何故魔境と呼ばれているんだ?いや、何となく想像は着くが……。」
(概ね真斗が想像するとおりで合っていると思うぞ。魔境と呼ばれる所以は凶悪な魔物がそこら中に跳梁跋扈しており、人が踏み入る事が出来ない場所とされているからだな。例外としてこの大森林の浅層や迷宮などは一部の強者は行き来出来るがな。)
「よりにもよってそんな場所に転生させられるとは、どうやら一発では済まなくなりそうだな……。」
(まあ、こうして生きている?から無事かどうかは知らんが真斗は大森林に適応した唯一の人間?という事になる。)
「色々と物申したいことはあるが、取り敢えず話を戻そう。それで、俺はコレをどうしたらいいんだ?」
(どうとでもするが良い、真斗は主の私に勝ったのだからな。好きに使え。)
「そう言われてもな、今のところ俺には使い道が無い。病気にもならんし傷も勝手に癒えるし、寿命や持ち運ぶ物も無いからどうすることも出来ん。そんなことよりもより強くなりたいんだがな。」
(これ以上強くなってどうする……。ただでさえ不死身の固有スキルを持っているのに、魔法を使えないとは言えそれを補って余りある身体能力の高さに加え、各種耐性や無効を持っているんだぞ?しかも神獣である私と力が拮抗する程の。いくら身体強化を使っていようが、まさか素で力負けするとは思わなかったぞ。)
呆れと恐れの混じった目でそうエイベルは呟く。
「ん?身体強化?なんだそれは、そんなものを使った覚えは無いぞ。」
(何?そんなはずは無い。でなければあれ程の力を持つ事は不可能なはずだ。最も、真斗の素の身体能力が高いからこそあれ程の強化率になったと思うがな。)
「いや、本当にそんなものを使ってないんだが。強化率と聞くに、それも魔法の一種では無いか?俺は魔法の才能が無いから無理な筈だぞ。」
(確かに魔法と言えば魔法だが、そうでないと言えばそうでない。才能が無くとも誰でも使えるものだ。しかし、本当に使用していない?だとしたらあの威力は……。)
「どちらにしろ俺はその技術を知らんし、使ったことも無い。良ければ教えてくれないか?」
(ふむ、そうだな……。本当に使用してるかどうか確かめれるし、良い暇つぶしにもなるからな。では教えよう。しかしここでは狭過ぎるな、場所を変えるぞ。着いてこい。)
「分かった。」
そうして俺はエイベルの後について行った。
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