第8話 vs 主 (鹿)

 森の奥へ進むとそこだけ切り抜かれたかのような開けた場所に出た。


「やはり待ち伏せといえば此処に限る。」


 ある日森を散策していたら偶然見つけた場所で、何か意味がありそうな所だったので周辺を探索したが特に何も無く肩透かしを食らい、どうせならと鹿の魔物を呼び出す時に多用した思い出深い場所だ。


「さて、やるか。」


 まず地面を殴った。ドゴンッ!!と大きな音を立て、地面に腕がめり込むほどの勢いで放ったため衝撃波により周りの木々が折れていく。確かな手応えを感じ、暫しそのままの体制で待っていると……。





 ズンッ…と地面が音を立ててひび割れていき、無数の地割れが発生した。


 急いで腕を引き抜いてその場を離れ、その光景が見える位置に移動し座って待つ。


 あの三百年で分かったことがある。どうやらあの鹿の魔物は森に何かしらの異変が起きたらどこからともなく現れ、異変の元凶を排除しては森の秩序を保っているみたいだ。さながら守護神みたいな感じだな。


 なのでこうして意図的に災害を起こしてやれば、


「来たか。」


 体長15mはありそうなその白く輝く巨体を揺らして、ソイツは現れた。


「クルルルル!!」


 ソイツが一鳴きすると地面が盛り上がり木々が生えてきて、瞬く間に俺の手によって破壊された場所が元通りになっていった。


何時いつ見てもすごいな、どうやったらあんな芸当が出来るんだ?まるで分からん。まあ、とにかく当初の目的を果たすか。」


 ひとしきり感心したあと俺は鹿の下に行くために元通りになった場所へ戻った。


「よう、三千年ぶりだな。今日こそお前を倒してやるから覚悟しとけよ、鹿野郎。」


 そして対峙し、気合いを入れるため俺は相手を挑発した。


「クルルルル……。」


 挑発されたのが分かったのか鹿の魔物は急激に戦意を膨れ上がらせる。


 お互いに緊張状態になり、その場から間を図るかのように微動だにしなくなった。


 そうして時間が過ぎ去り、焦れたのか最初に動いたのは鹿の方であった。


「クルルルルッ。」


 初手は鹿が謎の攻撃を放ち、俺は身体がちぎれ飛びそうな感覚に襲われた。


「グッ、やはり避けれんか。だが以前よりかは全然耐えられるなッ。」


 俺は踏ん張って謎の攻撃から耐えていた。前までは無様に四散しそのあまりの威力にどうすることも出来ずにいたが、今では少し力を入れて踏ん張っていれば余裕では無いが耐えれる様になっていた。


「クルルルル!!」


 自分が放った技が防がれたのを察して、鹿はようやく相手の事を敵として見始めていた。目の前の存在は森だけでなく自分にも害を及ぼしえると。


 そう感じたからか攻撃はますます激しくなり、不可視の攻撃の嵐を見舞ってきた。


「ぐっ、ぐおおおぉ!!」


 かつてないほどの攻撃の中、俺は耐えるのに必死だった。いくら【再生】で死なないといっても、一回でも発動した時点で俺は負けた事になる。【再生】がなくとも勝てるようにならなければ自分より強いやつが現れた場合、いつかの虫達のように殺され続ける羽目になってしまうからだ。それだけは何としても阻止しなければ。それにこのままではまた敗走してしまう。


 そんな事を考え俺は衝撃波の嵐を耐え続けていた。






 何時間経っただろうか、身体が悲鳴を上げ初め限界が近付いていた。


「ぐっ、うぅぅ……。」


  一向に止む気配の無い攻撃に俺の心は折れようとしていた。またダメなのかと、ここまでなのかと、そう思い始めたときふと身体が軽くなった。


「なんだ?攻撃が止んだのか?」


 ガードしつつも恐る恐る周りを見回してみたらまだ攻撃は続いており、しかし自分の身には体がちぎれ飛びそうな感覚が襲って来ない。どうした事かと思ったがふと思い出した事があった。


「この感じ……まさか、無効か?ッ《ステータス》!」


 急いで自身のステータスを確認し、何が無効になったのかを調べた。すると衝撃耐性が衝撃無効になっていた。


「衝撃……無効……。」


 前から衝撃耐性のスキルを獲得していたが、今になってそれが無効になったのだ。他の無効系のスキルと比べ、そこまで有用性が無くなぜ獲得したのかも心当たりが無かったため、今まで放置していたが、


「まさか衝撃そのものを飛ばして来る攻撃だとは思わなかったな。なるほど、通りで避けれないわけだ、いくら何でも初見殺し過ぎる。俺みたいな【再生】もちじゃなきゃ誰も分かる訳もないな。」


 耐え難い感覚が無くなった今、俺はゆっくりと鹿の方に向いた。


「ふむ、行けそうだな。」


  試しに普通に歩いてみたが何の異常も無かった。


「クル!?」


 自分の攻撃がまるで効いてないかの様子に、流石の鹿も驚き攻撃を止めてしまった。


「オラッ!!」


「!?」


 その隙を縫って真斗は鹿に接近し、ズガンッ!!と音が鳴る程の勢いで殴ったが、


「!」


「クルル……。」


 鹿は何も起こってないかのように全く微動だにしなかった。


「クルル!!」


「くっ。」


 一瞬無防備になった俺を見逃さず、鹿はすかさず吹き飛ばした。


「ふう、また距離が離れてしまったか。あの時もそうだったが、何故効かないんだ……。何かしらのカラクリはある筈なんだが。」


「クルルルル!!」


「ぬっ!?」


 攻撃の予兆を感じすぐさまガードの体制に入ったが、


「下か!?」


 地面が盛り上がり俺の足元が爆ぜて、俺はまた吹き飛ばされた。


「おっと、不味いな。」


 余程威力が高かったのか、どんどんと鹿から離れて行って今では鹿は豆粒みたいになっていた。


「よっ、ほっ、はっ。」


 このまま吹き飛ばされ続けるのは敵わんと、俺はスキルの空歩を使い元の場所に戻った。


「おう、よくも吹き飛ばしてくれたな。て、うん?なんだお前、人のことを変な目で見やがって。」


 鹿は先程爆ぜさせた地面と吹き飛ばされた俺を交互に見ながら、どこか引いた様な目をしていた。


「まあいい、続けるぞ。」


 どこか弛緩した空気になりながらも俺は地面を蹴った。


「ックルル!!」


 やつも俺が迫ってくるのを見たからか、少し動揺しながらも攻撃を繰り出して来た。


「甘い!」


 俺はそれを避けながら少しづつ近付いていく。


「クルル!!」


 鹿も負けじと攻撃を仕掛け続ける。


 そうしてお互い攻防を繰り返しながらも攻撃を当てたのはまたしても真斗だった。


「今度こそっ!」


 俺はさっきよりも強く、そして連続で殴った。


「クッ、クルル!!」


「くっ!?やはりダメか!」


 しかし、また吹き飛ばされて地面に着地する。


「クルル……。」


「ん?」


 何か方法は無いかと考えてたら一瞬だが大きくやつの体がよろけたのを見た。


「なんだ…?」


「……クルル!!」


「! またか!?」


 やつが鳴いたのを引き金にまたしても俺の足元が爆ぜた。


「ぐっ、さっきよりも強い!」


 今度は天高く飛ばされた。どうやらこのまま宇宙まで飛ばして帰れなくさせるつもりのようだ。


「まあ、空歩で相殺する事で上に落ちる事はないんだがな。しかし、アイツなんかダメージ食らってなかったか?ふらついてたし。もしそうなら何故食らった?ふーむ……。」



 俺は宙を蹴って成層圏に留まりながらやつに何故攻撃が効いたのかを考え始めた。


「最初は一撃で決めようとして殴ったけど無傷だったから、威力が足りないと思って連続で殴った。そしたらダメージを受けたかのようにふらついてその後反撃なのか足元の地面が爆ぜ、今に至ると。一回ではダメで連続だったらいい?許容量の問題か?」


 ブツブツとああでも無いこうでもないと、該当しそうなものを出して解答を絞り込んだ。


「よし、まずは許容量からいくか。」


 そう決めた俺はやつが居なくならないうちに急いで戻る事にした。






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          sideヌシ視点


「クルル……。」


 流石にあの高さまで飛ばせばもう帰ってくる事もないだろう。それにしてもなんだあの怪物は?前に会った時も思ったことだが、殺しても死なないやつなんてこの世に存在するのか?いや、実際に爆散する所をこの目で見たことはあったが……。


 おっと、自己紹介を忘れてたな。私の名前はエイベル。既に気付いてる者も居ると思うが、この森の主を務めている神獣である。そして今はあの怪物を吹き飛ばした直後だ。


 それにしてもあの怪物は一体どこから紛れ込んだんだ?さっきも言ったことだが以前会った時はあそこまでおかしい存在じゃなかった。いや、やっぱ少しおかしかったか。それでも私の固有スキルである【衝撃操作】の前には何度も爆散されていたんだが……。




 いや、何度も爆散されるってなんだ。普通は一回でも体が爆散したら死ぬだろう。えっ、爆散させたよね?もしかして私の見間違い?いやいや、そんなハズは……。でも死んでなかったし、さっきはなんか克服した感じしてたし……。あっ。




 ごほん。すまない、話が逸れたようだ。そうそう、最初はこの森を荒らしている者を感知したから軽い気持ちで森の主として片付けようと思って、見に行ったら人間が居てな。何故こんな場所に人間が?と考えたがその時は気にせず初っ端から【衝撃操作】を使い体内に衝撃を加えて体を爆散させて、よし終わったと思ったんだ。。けれどそいつはちぎれ飛んだ体がみるみるうちに治っていって次の瞬間には攻撃してきたんだよ。驚いたが、【衝撃操作】で攻撃を受け流して再度爆散させた。そしたらまた治っていくもんだからもう怖くて怖くて。


 それからあの怪物を何度も爆散?させ続けてたらその怪物は対抗しようが無かったのか、その時は結局逃げたんだ。正直こっちも決め手が無かったから逃げてくれて助かったが、そこからだった、地獄を見たのは。


 あの後何日かしたら何やら騒音があってな。こういうときはだいたい何かしらの災害があるから、森の主として収めにいったんだ。そしたら、


『あ?』


 や つ が い た 。


 もうね、心底驚いたよ。二度と再開したくなかった相手とまた会うなんて。そこからその怪物は、


『お前か。丁度いい、前回のリベンジとさせてもらうぜ。』


 そう言って殴りかかってきたんだよ。すぐさま私は爆散させ続けその時は退散させたんだけど、森を荒らすと私が出てくるのが分かったのかそれからあの怪物は森を荒らし続けて私を出待ちしだしたんだよ。


 何度も繰り返していくうちに私はもう嫌になってある日アイツが森を荒らしてても無視したんだけど、その結果がも〜う酷かった。だってアイツ私が出てこないと分かると躍起になって、出るまでやるの精神で森を破壊し続けて、気付いたら森の六割近くが破壊されてたんだよ。


 流石にこれ以上は森が無くなると思って渋々出ていってまた爆散し続けて退散させた。


 そのあとなんとか大変な思いをして森を再生させたんだけど、あの時の悪夢の様な記憶が未だに蘇る。


 それからちょっとでも異変があったら直ぐに駆けつけるようにしましたよ、はい。


 そんな呼ばれては爆散させ続け退散させ、呼ばれては爆散させ続け退散させ、なんてのを幾度も幾度も繰り返す地獄の日々が続いてたんだけど、突然何の予兆も無くパッタリと止んだのだ。


 最初のうちはたまたま来なかっただけだと思ってたけど、次第にそれも無くなり遂には歓喜し始めた。


 もうあんな目に合わなくて済むと、やっと解放されたと、そう思ってたのに久しぶりに異変が起きてウキウキ気分で見に行ったら、見覚えのある光景が広がっていて嫌な予感がした。しかし時すでに遅し、何の冗談かまたやつは現れたのだ。しかも私よりも強くなって。


 もう最初から手加減無しで初っ端から【衝撃操作】を使って爆散させ続けようとしたら、なんとアイツは耐えたのだ。それでも流石にいつまでも耐えられる訳ないと攻撃を続けていたら次第に苦しそうな顔をし始め、このまま押し通せる!と思ったんだが、


『ふむ、行けそうだな。』


 なんか普通に歩き始めた。


 は?意味わかんないんだが?何で効いてないの?何で歩けてるの?え?どゆこと?


 有り得ないことが起きたせいで私の頭の中はパニックになった。そのせいで攻撃を食らうものの【衝撃操作】のオート防御のお陰で間一髪助かった。そしていったん距離をとるためにやつを蹴って離れさせた。


 焦った私はもうヤケになって今の衝撃をそっくりそのままやつの足元に返した。森が多少破壊されても後で戻せばいいと。


 結果、とんでもない爆発を起こして吹っ飛んで行ったもののすぐに戻って来た。ただ森に多大な被害を齎しただけでやつは傷一つ付いてないという。もうヤダ。


 そこから何度かの攻防の後、私はダメージを受けた。


 生まれて初めてだった。固有スキルによって物理攻撃は効かず、神獣という事もあって非常に高い魔法耐性もあり生半可な攻撃じゃ傷一つ付かない身体を持っているのに。少なくともこの森の魔物では誰も私にダメージを与えられなかった。


 なのにやつは効かない筈の物理攻撃によって私にダメージを与えたのだ。確かにやつの殴打は見えなかったが、それでも固有スキルは反応し防いでいた。


 何故ダメージを食らったかは分からないが、もうやつは私の固有スキルによって自身の殴打の威力を返され、さっきよりも強く打った身体を天高くまで飛ばされ今では姿形も見えなくなった


 今度こそもう二度とやつの姿を見ることはなくなるだろう。そう思うと気分が晴れやかになって行くのを感じる。


 長くなったが纏めると因縁の相手の顔を長年掛けてようやく見なくて済むことになったという訳だ。


 さて、並行して森を再生させてたからもう周りもすっかり元通りだ。これであと片付けは終わった。


 やつのせいで悪夢を見続けてよく寝れない日々だったからな。帰ったら久しぶりに枕を高くしてよく眠れる筈だ。


 それから踵を返してその場を去ろうとすると、目の前に空から何かが降ってきた。


 私は嫌な予感がした、それはもう猛烈に。早くこの場から去らねばと思い急いで移動しようとするも、身体が動かない。焦れば焦る程思う通りに身体が動かせず、そうしているうちに落ちてきた衝撃によって地面に空いた穴から何かが這い出てくる。


 そして、


「待たせたな。さて、第三ラウンドといこうか。」


 や つ が 来 た 。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「待たせたな。さて、第三ラウンドといこうか。」


 考え事をしていたらすっかり遅くなって今にもアイツは帰ってしまいそうだったので、間に合って良かった。


「フッ!」


 なのですぐ仕掛けに行く。さっきは二発だったので今度は五発連続で殴った。


「クッ、クルッ、ル、クルル……!!」


「!!」


 通った。最初と最後は防がれたけど間の三発は当たった。


「これはもしかして……。」


「クルルルル!!」


「ん?また来たか。よっ。!?ぬん!」


 さっきの吹き飛ばし攻撃が来たので俺は避けたが二発目が来たので足を踏み鳴らして相殺した。


「……。」


「ふむ……今度は二発か。打てるならもっと打っても良いはずなのに中途半端だな。」


 なんかやつが唖然としたような表情をしているが構わず考察した。


「何故二発?回数制限があるのか?それとももっと別の理由か?ふむ、二発。二発か……。そうか。」


 俺は閃いた。何故二発しか打たなかったのかを。


「違う、打たないんじゃなくて打てないのか。そういや毎回殴ったあとに発動してきてるし、そう考えると俺が殴った回数に合わせて、もっと言うと防ぎきれた回数しか打てないのか。そこにアイツの衝撃を飛ばす攻撃方法を組み合わせると俺の打った打撃の衝撃をどうやってか知らんが跳ね返してるのか。辻褄は合うし多分これがカラクリの正体か。」


 やっと解けたと声を上げながら喜んでいるとようやく復帰したのか、鹿が衝撃を飛ばす攻撃をして来た。


「今更そんな攻撃効かんって、お?」


 衝撃を飛ばす攻撃は目眩しだったのか、多彩な魔法を飛ばしてきた。


「そんなもの!フンッフンッフンッフンッフンッ。」


 勢い良く飛んで来たので全て拳で打ち返した。


「クル!?」


 まさか打ち返されるとは思っていなかったかのか、慌てて回避行動を取ったものの全ては交わしきれずに何発か被弾し、周りが煙に包まれる。


「よし、何弾か着弾したぞ。流石にこれで倒れるとは思って居ないが、と...そう来たか。」


「クルルーーーー!!」


 噴煙をつき抜けて鳴きながらこちらに突進してくる鹿。着弾した箇所は所々に傷が付いていたがあまりダメージをおってないように見える。


「ぬっ!何のこれしき!」


 その大きく所々鋭く尖った角で突き殺さんと迫ってくるのを真っ向から立ち向かう真斗。


 お互いに激突し合い、拮抗し始めた。


「クルル!!」


「くっ、この程度の突き、あい、にく無効済みっ、なんでね!オラァ!」


「クル!?」


 その均衡を破ったのは真斗による連続殴打だった。


「ク、クルル……。」


「やっぱり初撃は防がれるがあとの二発は当たったなっ!貴様の底は見えた、このまま畳み掛ける!」


 そこから真斗は連打した。鹿の自動防御の感知速度を超えて。ただひたすらに連打し続けた。


「オラッ!」


「クルッ!」


「オラッオラッ!」


「クルルッ!」


「オラオラオラオラ!」


「クッ、クル。」


「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」


「ク。」


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」


 連打、連打、連打、連打、連打。


 目にも止まらない拳の嵐に、流石の神獣も為すすべもなく殴られ続ける。そして遂に――――




「クルゥ……。」


 ドシンと、大きな音を立てて鹿は倒れて行った。


「ハア、ハア、ハア。」


 鹿はぴくりとも動かなかった。


「ハア、ハア。……ふぅ、やっと倒したか。全くタフな鹿だ。一体何発打ち込んだのか……。て、ん?」


 その時体の中心が熱くなったのを感じた。


「これは、また上がったのか。今日で二回も上がったな。」


 体がまだ熱い。


「……。」


 熱が無くならない。


「長いな……。」


 それから数分経ってやっと収まった。


「今までの上がり方と違うな。毒かなんか食らったか?しかし俺は状態異常無効のスキル持ってるしな……。」


 今までと違う感じの上がり方に疑問を持ったのか、真斗は自身のステータスを確認しだした。


「《ステータス》。」


《名前:道影 真斗 5791歳 性別:男


種族:人間[破壊と再生の権化]


固有スキル

・【再生】


スキル

・貫通 ・酸無効 ・精神障害無効 ・状態異常無効・痛覚無効 ・溺死無効 ・即死無効 ・斬撃無効

・圧耐性 ・魔法耐性 ・刺突無効 ・衝撃無効

・魔力操作 ・空歩 ・道影流


称号

・転生者 ・森の天敵 ・鏖殺者 ・一騎当千

・狂人 ・破壊と再生の権化 ・無謀者 ・理越者

・不死身 ・化け物 ・技職人 ・初代道影流

・主を打倒せし者 ・大森林の主 ・理不尽の塊》


「特に異常は無いけどやたらと称号が増えたな。まあ、相変わらず詳細は見れないからどんな効果を持ってるか確認出来ないんだけどな。ていうかこの森、大森林っていうのか。長年生きて来て初めて知ったぞ。」


 そんな感じで暫く感慨に耽っていたら後ろから声が聞こえた。


(おい。そろそろもう良いか?)


「ん?何だ?」


(気づいてたなら無視をするな!)


 否、正確には直接脳内に語りかけられていた。


「いや、コッチは倒したばっかで疲れてたし。もし攻撃されたとしても効かないし。話しかけていいかどうか、というか言葉が通じるかどうか知らんし。まあどうやら話せた?みたいだがな。そしてそんなことよりも普通に自分の《ステータス》が気になったし。て、あ。表示しないで、消して消して。」


 トリガーワードを言ってしまったために半場表示されかけたステータスを消してこれ面倒臭いからどうにかなんないかなと愚痴を零しつつ、話しかけて来た存在に体を向ける。


「で?何故生きているのだお前は。」


 その正体は先ほど倒したはずの鹿であった。


(それは私が神獣だからな…と、言いたい所だが正確にはお前に倒された後生き返っただけだ。何度やられようが私は死なんようになっている、神によってな。)


「それが事実ならばチートだなチート。殺しても死なないなんて本当に生き物か?お前。」


(お前にだけは言われたくないわ!というかそれはこっちのセリフだ!何だ、体が爆散して死なないって。それに私の固有スキルも何故か効かなくなってるし!)


「あー、それは俺の固有スキルのせいだ。」


(お前の固有スキル?)


「そうだ。俺の固有スキルは【再生】で、説明によるとこのスキルの効果は肉体を再生・更新し続けるものみたいで、いくら致命傷を負おうが既に死んでるだろって状態だったとしても問答無用で復活する。ついでに寿命も多分なくなってる。」


(なんだ、その固有スキルは?聞いたことがないぞ。死んでも死なないし寿命でも死なんとは、実質不死身ではないか。)


「確かにそうなんだが、言い換えればそれだけの能力でしかない。」


 はは、と少し苦笑しながら俺は言った。


(それだけとは?)


「文字通り再生し続ける不死身なだけの能力ってことだ。別に強くなるわけでもなし、凄い技が放てるわけでもなし。死なないだけでそれ以外は一般人と何ら変わりはない。」


(しかし、だったらあの強さは一体…。)


「そこは寿命がない分色々と努力しただけだ。それで、そろそろ話しかけた理由を教えて貰ってもいいか?いい加減、気になってきてな。」


 焦れてきた俺は、適当に返事をして早く話を進めろと急かす。


(おお、すっかり忘れていた。何分お前がおかしなことを言うもんだからついそっちに話が流れてしまってな。いや、おかしいのは存在そのものだったか。)


「人のせいにするな。というか存在がおかしいとか…。」


(おっと、すまんすまん。つい口が滑ったな。まあ、それはそうとお前に話しかけた理由だが…。)


「いや、そもそも口で話してないだろ…。」


(細かいことは気にするな。それでお前に話しかけた理由は私を倒したことにより大森林の主がお前になり、そのことについて色々と話しておこうと思ってな。)


「ふむ、確かに称号の方に何か書いてあったな。で、それがなんだ?」


(そう急かすな、物事には順序というものがある。急いだところで結果は変わらん。だがまあ、余り焦れさせる気はないからな、早速説明するとしよう。それで大森林の主についてだったな、お前が持っているその称号は先ほども言った通り文字通り大森林の主になったことを証明するものだ。)


「ふむふむ。」


(そしてその称号を持ったものはこの大森林を治めていかねばならない。)


「ん?」


(この森に何か異変が起きた場合それを解決する義務が発生する。そして解決するためには時に力がいる。その為大地から力を得、その身を大幅に強化する。更に大地が破壊された場合はそれを再生させる能力もありついでに寿命はなくなる。)


「え。」


(あとはもし倒された場合、倒した相手にその称号は移籍されその役目を担うことになる。と、こんな感じか。それでは次にこの森を治めていく方法だが…。)


「少し、待って欲しい。思ってたよりも情報量が多くて頭がパンクしそうだから整理させてくれ。」


(ん?そうか、少し量を詰め過ぎたか。いいぞ。)


「助かる。」


 そうして真斗は順を追って話しかけた。


「まず、俺が持ってるこの大森林の主という称号は大森林の主のお前を倒したからだな?」


(そうだな。まあ、”元”大森林の主だがな。)


「そしてこの称号は大地から力を得、自身の肉体を大幅に強化する。ついでに大地が破壊されたら再生させる事が可能で寿命も無くなり、もし負けてしまったら勝った相手にこの称号は移籍されると。」


(確かに大幅に強化されるがそれはここを治める為で、私に勝ったお前はその称号は移籍されたな。しかし寿命に関しては既に無いから意味が無いと思うがな。)


「まあ寿命はな……。で、その称号を持ったものはこの広大な森を治めなくてはならないと。」


(そうだ。義務として治めねばならん。)


「断る。」


(は?)


「前者の二つは良いとして、最後のやつは面倒臭いから断ると言ったんだ。」


(いや、義務だから。断るとか無いから。)


「だとしても断る。」


(だから無理って言ってんじゃん!)


「だったら俺を倒せ。そうすれば晴れてお前は大森林の主に戻れる。」


(物理的に不可能だろ。)


「ならば他の方法があるのか?」


(無いから無理と言ってるんだろうが!)


「むぅ……。」


 どうしても治めるのが嫌な真斗はステータスと呟いてその称号を眺めながらなにか無いかと考えた。


「なあ、称号というものは消せないのか?」


(行動次第では消える物もあれば変容する物もある。しかしお前が見てるものに関しては倒されない限り消えることは無い。)


「ぬぅ……。」


 唸り声を上げ、考える事数分。真斗はある事をひらめいた。


「……そういやコレ、確か触る事が出来たな。」


 そういうや否や、真斗はステータス画面にある大森林の主という称号に向かい殴り始めた。


 ズガンッ!と重く大きな音が周りを轟かせた。


(な、何をしているっ!?突然自身のステータス画面を殴って!?)


「いやなに、こうすれば称号が砕けるかなと思ってな。」


(砕ける訳がないだろう!?)


「何事もやって見なければ分からんぞ。」


(やってみなくても分かるわ!普通に!)


 凄まじい衝撃によって舞った土煙が晴れ、現れたのは何事もない真斗のステータス画面だった。


「ふむ、威力が足りなかったか。そしたら次は連続でやるとしよう。」


(いや、威力が足りないとかじゃないから!)


「オラオラオラオラオラ!」


 更にステータス画面に拳を打ち込み、スドドドドッと大きな音に砂煙が巻き起こる。


「これならどうだ?」


(どうにもならんだろ!)


 暫くして現れたステータス画面は相変わらず無傷だった。


「むぅ、これでもダメか。」


(当たり前だろう。ステータス画面が壊れるなんて話は聞いた事が無いし、そもそも破壊しようと思うなんて頭おかしいのかお前は?)


「ならば掴んで握り潰すのはどうだ?」


(話を聞け!)


 真斗はステータス画面に手を伸ばし、大森林の主の称号を掴もうとした。


「くっ、掴めん……!」


(もうアホなことは辞めて諦めてその称号を受け入れろ。)


「それは断るっ!まだだ、まだ諦めんよっ!」


(はぁー……。もう好きなだけやれば良い、どうせ無理なのだから。)


 ぐぎぎぎぎと必死に掴もうとするがやはりステータス画面はビクともしない。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……仕方ない。」


(お?諦めたか?)


「かくなる上はスキルを使う。」


(もう諦めろよ……。)


 そうして真斗はスキルの貫通を使った。するとあれ程うんともすんとも言わなかったステータス画面はすんなりと真斗の手を中に入れた。


「よし、掴んだぞ。」


(は?)


「せいっ。」


 ぐしゃ!と音を立ててその称号は潰れた。


「一件落着だな。」


(いやいやいやいや、ちょ、え?何?何が起こったの?)


「何って、称号を握りつぶしただけだが?」


(いや、何で潰せるの!?というか潰せるもんなのそれ!?)


「潰せたんだから潰せるもんなんだろ。」


(もう意味わかんない!!)


 喚き散らしている”元”大森林の主を尻目に、これで一安心だなと真斗は思っていた。


 しかし突然聞こえてきた声に二人は驚いた。


『エラー発生、原因を検索します……。該当、道影 真斗の一部の称号に異常を確認。直ちに修復します……修復不可能。変更して新たな称号を制作します……制作成功。称号、大森林の主が大森林の主(真)になりました。続けて大森林の主(仮)を制作しました。原因排除完了、これにて終了します。』


 シーン、と静まり返る二人。そして互いに困惑した。


「一体何だったんだ、さっきの声は?称号について何やらしていた様だが……。」


(私にも分からん。だがこれだけは分かる。お前が原因で何かしらが起きたのだと。)


「ふむ……。」


  真斗は称号を確認するべくステータスを開いた。


《名前:道影 真斗 5791歳 男


種族:人間[破壊と再生の権化]


固有スキル

・【再生】


スキル

・貫通 ・酸無効 ・精神障害無効 ・状態異常無効・痛覚無効 ・溺死無効 ・即死無効 ・斬撃無効

・圧耐性 ・魔法耐性 ・刺突無効 ・衝撃無効

・魔力操作 ・空歩 ・道影流


称号

・転生者 ・森の天敵 ・鏖殺者 ・一騎当千

・狂人 ・破壊と再生の権化 ・無謀者 ・理越者

・不死身 ・化け物 ・技職人 ・初代道影流

・主を打倒せし者 ・大森林の主 (真)

・理不尽の塊 ・脳筋》


「称号が変わったな。だが仮が無いぞ?」


(……私の方にあった。しかし効果はお前のと比べれば一つだけ違う様だ。)


「そっちにあったか。まあ何となく分かってたが、効果も分かるもんなのか?」


(私はこれでも神獣だぞ、元々所有してたのも有るがそれ位は見通せる。)


「ほぅ、それは凄いな。で、違う点は何だったんだ?」


(どうやらお前のと違って森を治める義務がある様だ。つまり私は名前が変わっただけで元々所有していた物となんら遜色は無い。)


「その言い方だと俺の方には義務が発生しないわけか。よし、ちょっとトラブルはあったが治める必要が無くなったから目論見通りだな。」


(何が良しなのものか……まあ、もう今更どう言おうが起きてしまったものは仕方ないがな。取り敢えず、話の続きとするか。)


「なんだ、まだ続きがあったのか。」


(本来はお前が主になった後で話をする予定だったが、その必要も無くなったのでな。此処じゃアレだから着いてこい。)


 そういうや否やクルルと鳴いて近辺を戻したあと地面から階段が出てきて、先に行ってしまった。


「……着いてくか。」


 俺はそう独りごちながら階段を降りていった。

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