06 曇りのちサメ(2)

「……よし。俺がサメ達をなんとかする! アイスノン! おまえは気にせずボンベを撃ち込め!」


「マーベラス……やるしかないか。気に入らないが、おまえに背中は任せた!」


 再び戻ってマイアミ上空では、本部でのやり取りを聞いて、F-22のパイロット達も覚悟を決めていた。


「チッ…やっぱり離せねえ……まずはこいつらをどうにかしてくれ!」


「任せろ! 食いやがれこのフカ野郎!」


 追われるアイスノンの求めに、追いかけるサメのさらに背後につけたマーベラスは、カーソルを合わせてF-22の機銃を即座に放つ。


「よっしゃあっ! やったぜこんチクショウ! さあ、もう一匹だ!」


 すると、空飛ぶサメは血飛沫を上げて飛散し、マーベラスは次の獲物にも機銃を掃射してゆく。


 そうして一匹、ニ匹と始末してゆく内に、アイスノン機を追っていたサメ達もその戦法に気づき、次第にくるりと向きを変えると、今度はマーベラス機に次々と向かってゆく。


「さあ、どんどんこっちへ来い! ……て言ってもそろそろ限界だな。アイスノン、残りは自分でなんとかしてくれ!」


 もともとマーベラス機を追尾していたサメ達もおり、多数のサメに追いかけ回される形となった彼のF-22は、それらを引き連れて積乱雲より離れてゆく。


「チッ…まだ二匹いやがるが、これぐらいなら……」


 残されたアイスノン機もサメから逃げ回りつつ、スキューバタンクを撃つ機会を慎重に覗った──。





 一方、その頃、マーティー警部とDr.ペーパーの拡散により、世界各地で大勢の人々が『ジョーズ』のラストシーンを視聴することとなっていた……。


 彼らのフォロワーや趣味仲間達のPC、スマホ等の画面には、恐ろしげな歯の並ぶ口にスキューバタンクが突っ込まれ、それを銃で撃つことで巨大なホオジロザメが爆破されるシーンが映る。


「──ああ、そういやこんな終わり方だったな」


「──へえ…ジョーズのラストってこんなだったんだあ……」


 かつて視たことのあるシニア世代はそれを思い出し、有名な割に未視聴だったヤング世代はその結末に新たな発見をする……全世界で何十万回と再生されるその映像は、地球規模で世界の認識に影響を与えていった──。




「──さあ、追って来い……追って来いサメども……」


 そうして人々の認識が強化される中、マーベラス機は大量のサメ達を引き連れて、ぐんぐんとその速度を上げてゆく……サメも負けず劣らず超高速で着いて行っているが、もし追いつかれれば跡形もなく喰い荒らされることだろう。


「……よし! 今だ!」


 だが、マーベラスは好機を見計らい、機体を立てると空気抵抗を利用して急ブレーキをかける。


「これでも食らいやがれ!」


 そして、そのままの速度で行き過ぎるサメの群れの背後をとると、機銃をこれでもかと浴びせかけた。


 避ける間もなくサメの群れは、一瞬にして血肉の塊となって上空に飛び散る。


「さあ、こっちもそろそろゲームセットといこうか……極上の酸素を存分に味わいな!」


 一方、アイスノン機も二匹のサメに追いかけられながらサメ型積乱雲の正面へと回り込み、その口の形をした部分へとスキューバタンクを発射する……続けざま、そのタンクめがけて機銃を放つと、瞬間、雲の中で大爆発が巻き起こった。


「…くっ……やったか?」


 激しい爆風に背後のサメも吹き飛ばされたものの、自機も煽られて体勢を立て直すのに一苦労しつつ、アイスノンは状況を確認する。


「見ろ! 雲が霧散して消えてくぞ!」


 同じく旋回して様子を見るマーベラスの言葉通り、爆発で四散したサメ型積乱雲は、南洋の抜けるような青空の中へと溶け入るかの如く消え去ってゆく……。


「よし! 成功だ!」


 その様子をモニターで見たカリントー大佐は、思わず声を出してガッツポーズをとる。


「やったぞ! ざまあみろ!」


「うむ! わしの理論通りだ!」


 わずかな時間差でマーティー警部やDr.ペーパー他、作戦本部に詰めていた者達も歓喜の声をあげ、それまで張り詰めた空気に支配されていた作戦本部内は、一瞬にして大きな歓声に飲み込まれた。


「ご苦労だったな二人とも。作戦終了だ。すぐに帰投してくれ」


「了解。なんとか、今夜もうまいビールが飲めそうだな……」


「ああ。つまみはキャビアのカナッペだな……」


 カリントー大佐の命令に、見事、任務を成し遂げたパイロット達も冗談をお互い口にしながら、白い飛行機雲を残してマイアミ沖上空を後にしてゆく……。


 こうして、昨今のサメ映画ブームと人々の認識が創り出したサメ型積乱雲による人類の脅威は、大勢の犠牲を払いながらもなんとか無事に取り除かれた……かに思われたのだったが。


 積乱雲が発生した洋上よりもさらにさらにその上空……そこを流れるジェット気流に乗って、爆発で飛ばされた二匹のサメが、遥か彼方を目指して泳いでいた──。


(JAWS SQUALL/晴れ時々サメ 了)

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JAWS SQUALL/晴れ時々サメ 平中なごん @HiranakaNagon

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