似た者同士

 しばらくの間、紫音に抱きしめてもらった私はようやく落ち着くことができた。

 すると、私は自身がわずかに震えていることに気がつく。


(そっか。私…怖かったんだ…)


 さっきは萌奈に対して気丈に振る舞えたが、どうやら初めて死を間近に感じたことで、自身が思っていたよりも恐怖を感じていたようだ。


「白玖乃、大丈夫?」


 紫音も私が震えていることに気がついたのか、心配そうな表情で尋ねてくる。

 そんな彼女の表情を見て、私は思わず感情が言葉として漏れ出てしまう。


「紫音…怖かった。私、すごく怖かったよ…」


 怖かったと口にした瞬間、私は溢れた感情を止めることができず、涙がいくつも頬を伝っていく。


「もう二度と紫音に会えなくなるのかと思うと、私…怖くて…」


「もう大丈夫だよ。頑張ったね」


 紫音はそんな私を頑張ったねと言いながら、私が落ち着くまでずっと背中を摩り続けてくれるのであった。





 しばらく紫音の腕の中でたくさん泣いた私は、彼女のおかげで落ち着くことができた。


 しかし、紫音から離れるのが嫌だった私は、いまだに彼女を精一杯抱きしめ続けている。


「そういえば、なんで紫音がここに?」


 私はここでようやく、なぜ紫音が雅の部屋にいるのかという疑問を持ち、そのことを彼女に尋ねる。


「実は、雅から白玖乃が萌奈と二人で話すって聞いてね。その話を聞いた瞬間、何だか今すぐ行かなきゃって思って。それでここまできたんだ。ほんと、間に合ってよかったよ」


 紫音はそう言うと、私を抱きしめる腕に力を込める。

 それがまるで、私の存在を確かめるようで、彼女がどれだけ心配してくれたのかがわかる。


「心配してくれてありがとう」


「ううん。私こそ不安な思いをさせてごめんね」


 本当はもっと話したいこともあるが、ここは雅の部屋だし、いつまでもこの部屋を使い続けるのも申し訳なかったため、私と紫音は一花の部屋へと向かった。


 一花の部屋に入ると、二人も心配した顔で私のもとへと駆け寄ってくる。


「白玖乃、大丈夫なの?!」


「怪我はないか!」


「大丈夫。怪我も特にないよ」


 二人に問題がないことを伝えながら、私は彼女たちにもお礼を言う。


 二人が心配して紫音に連絡してくれなければ、私は今頃死んでいたかもしれない。


「そんなこと気にしなくていいわ。それよりも白玖乃が無事で本当によかった」


 私はその後、紫音たち三人に何があったのかを説明する。

 紫音は私が萌奈に言った言葉を聞いて嬉しかったのか、私を抱きしめると離してくれなくなった。


「話はわかったわ。それで、今日はどうするの?このまま泊まっていく?」


「ううん。紫音と一緒に帰る。ありがとね、雅」


「気にしないで。また今度泊まりに来たらいいわ」


「わかった」


 雅と一花に見送られた私たちは、手を繋ぎながらアパートへの帰路へと着く。


(やっぱり紫音が隣にいるのは落ち着く)


 少しの時間しか離れていなかったのに、彼女が近くにいるだけでこんなにも安心してしまう私は、やはり紫音のことがどうしようもなく好きなようだ。


「紫音」


「なに?」


「愛してる」


 一度溢れてしまった感情は、もはや自分でも抑えることができず、言葉となり彼女へと伝わる。


「私も愛してる」


 紫音は少し驚いた顔をしていたが、すぐにニッコリと笑いながら愛を返してくれた。


 萌奈のせいでいろいろありはしたが、一つの困難を乗り越えた私たちの愛は、これまで以上に深まった。


(それに、もうこんな事がないようにしないと)


 雅が言ってくれたように、今後も萌奈のように紫音に惹かれる人たちは出てくるだろう。


 でも、そんな人たちが入る隙間もないくらいに私は紫音を独占すると決めた。


 奪われるのが嫌なら、奪われないように独占すればいい。

 離れたくないなら、離れられないように私に縛りつけよう。


 ずっと紫音に私だけを見てもらえるように、私は自分自身をもっと磨いていこうと決めるのであった。





 萌奈との件があってから数日が経った。あの日以来、萌奈が私たちに話しかけてくることはなく、他の人たちと一緒にいるようになった。


 さすがにあれだけのことをしたので、彼女も私たちには近づきにくいようだ。


 一つ変わった事があるとすれば、それは紫音が前以上に私にべったりになった。


 それこそ、私が自分を磨いて紫音を私だけのものにしようと思っていたのに、それが全て無駄になるレベルで。


 休み時間になれば、私は紫音の膝の上に座らせられて抱きしめられるし、移動教室の時は必ず手を繋いで移動する。


 あと、紫音からのお願いでお揃いの下着を買ったりもした。


(なんかもう、紫音からの愛がすごい)


 見えるところでも見えないところでも彼女に染められていく私は、紫音の重い愛情に困惑してしまう。


「ちょっと先生に呼ばれてるから行ってくるね!」


 いつもの四人で話をしていた私たちだったが、紫音はそう言って教室を出ていく。

 私は彼女を見送った後、思わずため息と感情が漏れ出てしまった。


「はぁ。困ったなぁ」


「大丈夫?」


「確かに最近の紫音はすごいもんな」


 私の漏れ出た言葉を聞いた一花と雅は、うんうんと頷きながら最近の紫音について話す。


「うん。本当にすごい。私、愛されすぎて幸せで困っちゃうよ…」


「え?」


「は?」


「ん?」


 私が幸せだと言った瞬間、雅と一花はどういうことと言いたげな表情で私を見てきた。


「ごめん、白玖乃。あなたは紫音の愛がすごくて困ってるのよね?」


「そうだよ。紫音から向けられる愛が嬉しくて、幸せすぎて困ってる」


「迷惑とか重くてとかじゃなくてか?」


「ん?迷惑なわけない。あんなに愛してくれるんだから、幸せ以外にありえないよね?」


 二人は私の言葉を聞くと、理解できないといった顔をした後、どこか諦めたようにため息をついた。


「もうこの二人は手遅れね」


「類友ってやつか。いや、この場合は類彼か?」


「どちらでもいいわ。ようは似た者同士って事だし…」


 一花と雅が何を諦めたのかは分からないが、それよりも私と紫音が似ていると言われた事が嬉しくて、思わず上機嫌になってしまう。


「白玖乃。嬉しそうだね?何かあった?」


 すると、用事を終えた紫音が私を後ろから抱きしめながら尋ねてきた。


「おかえり。あのね、一花と雅が私たちが似てるって褒めてくれたの」


「それは嬉しいね。私も白玖乃に似てるって言われると幸せな気持ちになるよ。」


「私も」


「もうダメね、この二人」


「ただのバカップルだ」


 お互い愛を込めて見つめ合う私たちを見て、二人は最近よく飲むようになったコーヒーを飲むのであった。





 学校を終えてアパートへと帰ってきた私は、紫音に抱きしめられながらまったりしていた。


「紫音、キス」


「ん。いいよ」


 私がキスを強請ると、紫音は私に優しくキスをしてくれる。


 最初はたまたま高校受験の日に出会い、そこから運命のように同じ部屋になった私たち。


そしてお互いに一目惚れをし、少し勘違いもあったけれど思いが通じ合った私たち。


 不安になって喧嘩もしたけど、お互いの愛情やどれだけ大切な存在かを改めて知る事ができた私たち。


 これまでいろんな事があったが、その度に紫音が私を助け、たくさんの愛を注いでくれた。それは本当に幸せで、絶対にこれからも変わることのない未来だ。


(紫音がいてくれるなら、私は何だってできる気がする)


 これからも紫音と二人での生活は続いていく。高校を卒業しても、社会人になっても、きっとずっと私たちは一緒だ。


 そんな幸せな未来を想像しながら、私は大好きな紫音ともう一度キスをするのであった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

これにて本作は完結となります。


最後まで読んでくださりありがとうございました!


近況ノートにお礼などを書きますので、よければそちらも読んでいただけると嬉しいです。


また、今は異世界ファンタジーも投稿しておりますので、よければそちらもよろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

距離感がバグってる同居人はときどき訛る。 琥珀のアリス @kei8alice

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ