今度は私が守る
雅に連れられて寮にある彼女の部屋へとやって来た私は、部屋の真ん中にあるテーブルを挟んでクッションに座らせられていた。
「飲み物は何か飲む?と言っても、ココアくらいしかないのだけれど」
「ありがとう。ココアを貰うよ」
「わかったわ」
雅はペットボトルの水を電気ポットに入れると、お湯を沸かしている間にコップなどを準備していく。
少ししてお湯が沸くと、コップにココアの粉とお湯を入れて私の前に持って来てくれた。
「ありがとう」
「いいのよ」
私は雅にお礼を言うと、出されたココアを冷ましながら一口飲む。
「あったかい」
どうやらずっと屋上の踊り場にいたせいか体が冷え切っていたようで、温かいココアが体へと染み渡る。
しばらく沈黙が続いたが、私は何故あの場所に雅が来たのか気になっていたので、その事について尋ねることにした。
「あの、雅」
「何かしら?」
「どうして私がいる場所に来てくれたの」
「あぁ、そのことね」
雅は自身が持っていたコップをテーブルに置くと、「ふぅ」と一息吐いたから私の方を見て来た。
「紫音が教えてくれたのよ。白玖乃があそこにいるからって」
「紫音が?」
「えぇ。白玖乃が私たちから離れて学校に戻って行った後、私たちは校門の前でしばらくあなたのことを待っていたのよ。
そしたら、今にも泣き出しそうな顔をした紫音が一人で戻って来てね。その時に私たちが彼女に声をかけたの。
それで、中で何があったのか説明してくれた後、白玖乃の事をお願いって言われたのよ。今は自分が近くにいるとダメだろうからって」
「そっか…」
紫音は私が話を聞かずに酷いことを言っても、最後まで私のことを考えてくれていた。
そして、自分がダメならばと雅に頼んでまで私のことを気遣ってくれた。
なら、紫音は今どうなんだろうか。
雅は紫音が学校から出て来た時に泣きそうな顔をしていたと言っていた。
それに、彼女は去り際にご飯を作って待っているとも言ってくれた。
もしかしたら今頃、紫音は一人で私の分のご飯を用意して待っているのかもしれない。
そう考えるとすごく心が痛んで会いたくなるが、しかし萌奈とキスをしていた時の光景が頭をよぎって動くことができない。
「ふぅ。白玖乃は紫音に会いたいの?」
「…え?」
「会いたいって顔に書いてあるわ。けど、萌奈のことがあるから怖いのね?」
「…うん」
「そう。とにかく、今は急ぐ必要ないわ。今日は私の部屋に泊まるように話したし、ゆっくりしていきなさい。
紫音なら大丈夫よ。さすがに泊まりはできないけど、一花がアパートまで送って行ったから」
どうやら私の方に雅がついてくれたように、紫音の方には一花がついてくれたようだ。
本当に、二人には感謝してもしきれないくらい支えられている。
「ありがとう」
「気にしないで。それよりお腹空かない?この時間なら寮生じゃなくてもご飯を食べれるのよ。部活終わりの子とかよく食べに来るの」
「いく」
そうして、雅に励まされた私は彼女に連れられて食堂へと向かうのであった。
雅と二人で食事を終えた私たちは、また彼女の部屋へと戻ってきて休んでいた。
「食堂のご飯はどうだった?」
「美味しかった。とくに生姜焼きが最高だった」
「ふふ。よかったわ」
今日の夕食は豚の生姜焼きで、生姜の風味が効いた豚肉とご飯がすごくマッチしていて美味しかった。
デザートにはフルーツポンチも出てきて、サッパリとした果物が最高だった。
その後もしばらく二人で話をしていると、ノックも無しに扉を開けて一花が入ってくる。
「ただいまー」
「あら、おかえり。意外と遅かったわね」
「おかえり」
「あぁ。紫音がせっかくだしご飯を食べてけっていうからご馳走になってきた」
「そうだったのね」
一花は自然な流れで雅の隣に座ると、彼女に肩を寄せて体を預ける。
しかし、雅が一花の頭を軽く押して離すと、一花を嗜めるように声をかけた。
「お疲れ様。でも今は白玖乃もいるし我慢してくれない?」
「んー。わかった」
一花は雅に言われた通り姿勢を起こすと、私の方を見てくる。
「紫音のことは気にしなくて大丈夫だからな。うちが帰ってから頃にはだいぶマシになってたよ」
「一花もありがとう」
「いいよ」
二人が揃ったことで私は気持ちを改めると、紫音と萌奈に何があったのかを二人から聞くことに決めた。
「二人とも。紫音と萌奈に何があったのか教えて欲しい」
「大丈夫?無理しなくてもいいのよ?」
「大丈夫。二人のおかげで私もだいぶ落ち着いたから。二人から紫音に聞いた話を教えてもらいたい」
「わかったわ」
本当は当事者である紫音から話を聞くべきなのだろうが、今は彼女に会うことが怖くてできないし、もしかしたらまた酷いことを言ってしまうかもしれないため、まずは二人から話を聞くことにした。
「まず、結論から言えば紫音は白玖乃のことを裏切っていないわ。今もあなたのことが大好きよ」
雅が話してくれた紫音の気持ちを聞けて、私は少しだけ安心した。
「なら、どうして萌奈とキスを?」
「それは萌奈が無理やりしたそうだわ。逃げようとしたけれど、体を密着されて逃げることができず、結果的にキスをされてしまったらしいわ」
「そうなんだ」
「それと、萌奈が白玖乃を呼んだのは、キスをしているところを見せつけて、二人が別れるようにするつもりだったみたい」
「どういうこと?」
「萌奈はどうやら文化祭で私たちの出し物を見に来ていたらしくて、その時に紫音に惚れたらしいわ。
それで、紫音と付き合うために転校して来たらしいのだけど、すでに白玖乃と付き合っていたから、キスしているところを見せて仲を悪くさせ、別れて貰おうとしたみたい」
雅からの説明を聞いて、私は唖然としてしまった。
(文化祭で紫音のことを好きになって、それで転校して来たの?それに、わざとキスしてるところを見せつけるなんて)
そこまでの話を聞いただけで、私は萌奈が紫音に抱いている異常なまでの愛に言葉が出てこない。
「でも、最後は紫音が我慢できなくなって二度と近づかないように言ったらしいわ。
ただ私としては、恋愛感情だけで転校してくるような子が、これだけで諦める気がしないのよね」
雅の言う通り、萌奈が紫音に抱いている感情は異常だ。
一度の拒絶だけで彼女が諦めるとは思えない。
「…私、萌奈に会うよ」
「え?」
私がそう言うと、雅と今まで聞き役に徹していた一花が驚いた表情をしていた。
しかし、私は二人から話を聞き、紫音が最後まで私のことを思っていてくれたこと、そして私のことを選んでくれたことを知って決心する。
「萌奈に会って、二度と紫音に近づかないように言う。あと、私が別れる気がないことも。紫音は私の彼女だから絶対に渡さない」
そうだ。紫音の彼女は私だ。これまでも何度か紫音は私のだと、彼女を失うのはありえないと思って来た。
なら、その感情を表に出し、今度は私が彼女のために動くべきだ。
「わかったわ。場所は私の部屋を使っていいから、ここで萌奈と話しなさい。私たちは一花の部屋にいるけど、何かあればすぐに呼ぶのよ」
「あぁ。部屋は隣だから、すぐに駆けつけるよ」
「ありがとう、二人とも」
二人にお礼を言った私は、さっそく萌奈に話をするためスマホを取り出すと、メッセージで雅の部屋に来るように伝えた。
萌奈はすぐに既読をつけると、『わかった』とだけ返信が送られてくる。
そのことを雅たちに伝えると、二人は頑張るように言って部屋を出ていく。
「大丈夫。いつも私のことを守ってくれたのは紫音だった。なら、今度は私が守らないと」
私がナンパされた時や困っていた時、いつも私を助けてくれたのは紫音だった。
なら今度は、私が紫音を守るために、そして彼女としての意地を見せるためにも、萌奈には私からしっかりと伝えなければならない。
「紫音。愛してる」
最後に愛しい彼女に愛を囁いた後、私は覚悟を決めて萌奈がくるのを待つのであった。
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