幼馴染 sideあずさ
あたしの名前は宮本あずさ。宮城県の高校に通うごく普通の高校生だ。
いや、普通じゃないことも一つあるけど、今は気にしなくても良い。
そんなあたしは中学時代からバレーボールをやっており、幸いなことに身長もセンスもあったため、高校に入学してすぐにレギュラーをもらうことができた。
うちの高校は宮城県でも強豪校のため練習はキツかったが、それでも大好きなバレーと応援してくれる人たちのためだと思うと頑張ることができた。
そんなあたしには、小さい頃からずっと一緒にいる二人の幼馴染がいる。
一人は顔が整った美人で、中学を卒業する頃に急に背が伸びて困っていた鬼灯紫音。
もう一人は小柄な身長で、少しリスっぽい可愛さがある多賀城悠里。
二人とは物心つく前からずっと一緒で、私たちの両親が同じ高校の同級生だったこともあり私たちもとても仲が良かった。
そんな私たちだったが、最初に変わったのはあたしと悠里の関係だった。
あれは中学二年生の夏休みの時、あたしがバレーの練習試合でミスをしてしまい負けてしまった日のことだ。
あの時は本当に落ち込んでしまい、家に帰って来てから一人で泣いていた。
すると部屋の扉を開けて入ってくる人影がありそちらを見てみると、走って来たのか少し息を切らして汗が首筋をつたっている悠里がいた。
「ゆー、ちゃん。…どうして」
「はぁ、はぁ。心配で…ふぅ、来ちゃった…大丈夫?」
悠里を見た瞬間、あたしは感情をさらに我慢できなくなり、情けなくも子供のように泣いてしまう。
そんなあたしを彼女は何も言わずに抱きしめると、泣き止むまで背中を撫で続けてくれた。
どれ程そうしていたのかは分からないが、落ち着いた頃には夕方だった外が暗くなっており、悠里の服はあたしの涙で濡れてしまっていた。
「ご、ごめん!ゆーちゃん!」
「ううん。大丈夫だよ。それより、あーちゃんの方こそ大丈夫?」
「う、うん。ゆーちゃんのおかげでだいぶ楽になったよ」
「ふふ。それはよかった」
そう言って笑った悠里の笑顔は、いつも以上に魅力的に見えて、心が弱っていたこともあり思わず言ってしまったのだ。
「ゆーちゃんがいてくれて本当によかった。大好きだよ、ゆーちゃん」
もちろんあたしとしては友達としてって意味だったし、これまでも何度か言ってきた言葉だったので深い意味はなかった。
ただ辛い時に寄り添ってくれたことへの感謝と、率直な気持ちを伝えたかっただけなのだ。
しかし、それが良くなかった。今この時、あたしは彼女に一番伝えてはいけない言葉を口にしてしまったのだ。
気がつくとあたしは、何故か床に押し倒され、悠里が私の上に乗って頬を上気させていた。
「ゆ、ゆーちゃん?」
「はぁ〜。ダメだよ、あーちゃん。弱ってる時にそんなこと言われたら。私、我慢できなくなっちゃうじゃん」
そう言って笑う悠里の顔は、さっき見た優しいものではなく、妖艶で蠱惑的な雰囲気があった。
「え?それって、どういう…」
未だ状況が飲み込めていないあたしは、彼女に今の状況について尋ねる。
「私、ずっとあーちゃんのこと好きだったんだ。小さい頃からずっとね。でもあーちゃんは鈍感だから、私が好きだって言っても全然意識してくれないし、好きだって言ってくれてもそこに愛情は感じなかった。
でもね?時間をかけてゆっくり私のことを好きになって、愛してもらおうって思ってたのに、今日みたいに弱った状態で好きだなんて言われたら、私…我慢できなくなっちゃうよ」
そこまで言われて、あたしはようやく全てを理解することができた。
悠里がいつもあたしに向けて言っていた好きは、友達としてではなく恋愛対象として。
そして、今回あたしが好きだと言ったことで、彼女の抑えていた感情を煽ってしまい、あたしは襲われそうになっている。
「ま、まって。ゆーちゃん。さっきは確かに好きって言ったけど、そういう意味じゃ…」
「わかってるよ?友達としてって意味でしょ?でも、もう我慢できないの。お腹の奥が疼いちゃって、早くあーちゃんを私のものにしたいって感情が止まらないの。
それに、私たちは幼馴染だし、少しエッチなことをしても問題ないよ」
いや、それは問題だと思う。少なくとも付き合っていない幼馴染がいきなりそんな事をするのはあきらかにおかしい。
でも、何故かあたしはその言葉を伝えることが出来ず、どうしたら良いのかと悠里のことを見ていることしかできない。
「ふふ。お互い初めてだし、優しくするからね。てか、あーちゃんが初めてじゃなかったら、相手を殺してあーちゃんは監禁するから」
「ひぅ?!」
な、なんか急に恐ろしい言葉が聞こえてきた気がしたが、幸いにもあたしにはそういった経験がないし、誰も不幸にならなくてすみそうだ。
(てか、あたし受け入れる気でいる…)
ここに来て、ようやく自分も悠里に友達以上の感情を抱いている事に気がつき、それ以上は考えることをやめて悠里に身を任せるのであった。
結果だけをお伝えするなら、あたしは足腰に力が入らず、ベットの上から動くことができなくなっていた。
普段の部活のおかげで体力には自信があったのに、何故か悠里の前では一切役に立たず、あえなく悠里のテクに敗北した。
「てか、ゆーちゃん上手すぎない?本当に初めてなの?」
「何?私を疑うわけ?私はあーちゃん以外の人とやりたいなんて思わないし、あーちゃん以外に欲情しないから」
「そ、そうですか」
ここまでハッキリと否定されると、あたしとしても何も言えなくなる。
「てか、あーちゃん」
「なに?」
「やってる最中、何度も私のこと好きだって言ってくれたよね?」
「う、うん」
「それて、そういう意味でいいんだよね」
恥ずかしくて言葉にできなかったあたしは、なんとか頷いて返事をする。
「ふふ。よかった。じゃあ、今日から私たちは恋人ね?…ってことで、恋人になった記念にもう一回しよ♡」
「え?」
「ふふふふふ」
「ま、まっ!!」
結局その日は朝まで寝かせてもらえず、体の怠さと足腰の疲労感により次の日は動くことができないのであった。
さらにその翌日。あたしと悠里は紫音を家に呼び、あたしたちが付き合ったことを伝えた。
「おめでとう!やっと二人が付き合ってくれてすごく嬉しいよ!!」
あたしたちの話を聞いた紫音は、まるで自分のことのように喜び、あたしと悠里を抱きしめてくる。
「ありがとう、しーちゃん」
その後、どうして付き合うことになったのかなどを紫音に説明すると、ふと気になったことがあったので紫音に尋ねてみる。
「しーちゃん、さっきやっとって言ってたけど、ゆーちゃんがあたしのこと好きなの知ってたの?」
「知ってたと言うか、割と有名な話だよ?」
「…え?」
「だって、学校のみんなはゆーちゃんがあーちゃんのこと好きなの知ってたし」
「ど、どういうこと」
詳しく話を聞くと、悠里はいつもあたしのことばかり話しており、あたしが部活の試合がある日は必ず見にくるし、たまに告白された時はあたしを理由に断っていたらしい。
「試合以外、全然知らなかったんだけど…」
「そりゃあ、ゆーちゃんがあーちゃんに話がいかないように情報操作してたからね」
「ちなみに、私たちの両親への根回しは済んでるよ」
「わぁー」
どうやらあたしの彼女は、結構やばい女の子なのかもしれないと、この時初めて思うのであった。
次に変化があったのは紫音だった。あたしたちが付き合ったと報告をしたその日、紫音からも話があると言われた。
「二人が無事に付き合ったことだし、私からも話があるの。私ね…神奈川の高校に行くことにしたよ」
「え」
「といっても、合格したらだけどね」
そう言って苦笑する紫音だが、その顔には嘘を言っている感じはなく、また既に覚悟も決めたという意思が感じられた。
「ど、どうして?」
この話は悠里も初めて聞いたのか、戸惑いながら紫音に尋ねる。
「んー、とくに深い理由は無いんだけどね。私も二人みたいに、熱くなれる何かを見つけたかったからかな」
紫音は軽い感じでそう言うが、幼い頃からずっと一緒のあたしたち二人には分かる。
彼女が本気で神奈川の高校を目指していることを。
「そっか。しーちゃんがそう決めたなら、私は応援するよ!」
「うん。あたしも応援する。でも、合格してもちゃんと休みの日には帰ってきてね」
「もちろん!」
あたしたちは幼馴染だが、必ずずっと一緒にいられるわけでは無い。
考え方も違えば目標も違う。なら、どこかで道が別れることはきっとあるだろう。
それでも、どんなに遠く離れていても、あたしたちが幼馴染であることには変わらないし、これまで育んできた絆もある。
だからあたしたちにできることは、自分の目標に向かって頑張るお互いを支えて応援することだけだ。
まぁその後、受験に行ったはずの紫音が初恋をして帰って来たり、その初恋相手と同じアパートの部屋で、しかも数ヶ月後には付き合ったと聞かされたりと、驚きの連続ではあったが。
本当、人生はどこで運命の出会いをするのか分からないものである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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