星空とシリウス side一花

 紫音と白玖乃が付き合った。うちとしては、ようやくかと思ったりもしたが、友達である二人が付き合えたのは本当に嬉しい限りだ。


 そして、うちは白玖乃に好きな人と付き合うのがどんな感じなのかを尋ねてみた。


「すごく幸せ。これ以上何もいらないってくらいに幸せで、それでも相手への気持ちが止めどなく溢れてくる」


 白玖乃はそう言うと、その言葉が嘘じゃないと伝わるくらい綺麗な笑顔で笑う。


(幸せ…か)


 うちは白玖乃の言葉を思い浮かべながら、自身の思い人へと視線を向けた。


(うちも、雅にそう思ってもらえたらいいな)


 まだ告白したわけでは無いけれど、雅が隣で幸せだと笑ってくれる姿は、きっとこの世の全てに勝るほど綺麗だと思う。


(んじゃ、うちも頑張りますか!!)


 雅と付き合えるかは分からないが、行動しなければ何も始まらない。

 それはうちの友人である白玖乃と紫音が教えてくれたことだ。


 だからまずは、大切な友人たちにうちの雅に対する思いを伝えることから始めなければ。


 決意をしたその日、うちは紫音と白玖乃を呼んで二人にうちの気持ちを伝えた。


 すると二人は嬉しそうに笑ってくれて、応援してくれると言ってくれた。

 白玖乃は何かあれば手伝うと言ってくれたが、最初は自分の力で頑張りたかったので、何かあれば改めてお願いすると伝えた。





 次の日から、うちは積極的に雅に話しかけるようにした。


 もともと二人で話す事は多かったけれど、これまで以上に一緒にいるように心がけ、会話の中でさり気なくアピールするようにも頑張った。


「あの映画、一花は好きかしら?」


「うん。うちは好きだよ」


 真剣な顔で雅のことを見つめながら好きだと伝える。

 あくまで映画の話だが、真剣な顔で好きだと言われれば、分かっていても少しは照れるはずだ。


「ふふ。なんだか告白されてるみたいね」


「あ、はは。映画の話だったでしょ?」


 しかし、雅は逆にうちを揶揄うように言ってくるものだから、気持ちが伝わっているのではないかと思いドキドキしてしまう。


(いや、まぁ気持ちは伝わってもいいんだけど)


 そんな感じで、小悪魔のような雅に揶揄われつつ、半月が経ったある日、うちたちはいつもの四人で冬休みの予定について話し合っていた。


 すると、紫音と白玖乃は二人で一緒に紫音の実家に帰るそうで、うちはそんな二人が少し羨ましかった。


(あれ?でも確か紫音の実家は宮城の田舎の方って言ったよね。ならもしかして…)


 一つの可能性に気づいたうちは、このチャンスを逃さないために、白玖乃にうちと雅も一緒に行ってはダメかと尋ねた。


(本当は二人の邪魔だった事はわかっているけど、それでもこの機会を逃したく無い)


 うちの真剣さが伝わったのか、白玖乃は紫音が良いならと許可をくれた。


 そして紫音にもお願いをすると、彼女も快く了承してくれて、あとはうちが雅を説得するだけとなった。


「ねぇ、雅」


「何かしら?」


「冬休みって雅は予定どうなってる?」


「そうね。とくにこれと言ってないけれど、家に帰る予定よ」


「なら、うちらも一緒に紫音の実家な行かない?」


「でも、紫音と白玖乃の邪魔じゃないかしら」


 雅は優しいやつだ。だから紫音と白玖乃の邪魔はしたく無いだろうし、彼女がそう言ってくるのは分かっていた。


 というか、うち自身そう思っているのだから、誰でもそう思う事だろう。二人には本当に申し訳ないと思っている。



「大丈夫だよ!せっかくだしみんなで遊ぼうよ!」


「うん。私も一花と雅がいてくれた方が助かる」


 しかし、ここで当人である二人から、来ても問題ないと言われたので、雅も少し考えた後、一緒に行くことに同意してくれた。


「二人がいいなら…。分かったわ。私も行かせてもらうわね」


 こうして、とりあえず雅も一緒に連れて行くという難関は突破したので、あとはタイミングを見てうちが頑張るだけとなった。





 それから数日後には冬休みに入り、あっという間に紫音の実家に向かう日が来た。


 今年のクリスマスを雅と過ごす事は出来なかったが、来年は一緒に過ごせるように頑張れば良いだけなので、うちはめげずに頑張る。


 雅と一緒に待ち合わせ場所に向かい、紫音と白玖乃と合流した後は、新幹線に乗って仙台まで向かった。


 新幹線を降りるとあまりの寒さに体の震えが止まらなかったが、襟元を閉じて自身の体を抱きしめている雅は可愛かったので良しとする。


 その後は紫音の案内で仙台駅周辺を観光して回ったが、ずんだの団子が美味しかった。

 雅も気に入ったのか、帰りにお土産で買って行こうか真剣に悩んでいた。


 時間があまり無いとのことで、仙台観光を終えたうちたちは電車に乗るため仙台駅に戻ってきた。


 うちたちはいつものようにカードで改札を通ろうとしたが、紫音が切符でしか乗らないと言うので、うちたちは驚きながらも切符を購入してホームに向かう。


 ここからは本当に驚きの連続で、電車に乗る時は押しボタン式だし、雪が積もった景色は綺麗だし、飴をくれたおばあさんは訛ってて何を言ってるのか分からなかった。


 ただ、白玖乃は紫音といつも一緒にいるせいか、訛っててもある程度は理解しているようだった。


(まぁ、前に白玖乃自身も訛ってたしね)


 電車を降りてしばらく駅で待っていると、めちゃくちゃ美人なお姉さんがうちたちのもとに近づいてきた。


 その時、紫音がそのお姉さんと訛りながら話していた時は、まるで別の世界に来たみたいで、何を言っているのかさっぱり分からなかった。


 しかもこのお姉さん、実は紫音のお母さんだと言うのだから本当に驚いた。

 あまり驚いた表情をしない雅ですら顔に出ていたので、よほど衝撃的だったのだろう。


 まぁ、驚いている雅も可愛かったが。


 紫音の家に着くと、家族の皆さんに挨拶をした。紫音の家族はみんな優しい人ばかりで、最初は少し緊張していたが、すぐに落ち着くことができた。


 白玖乃も家に着くまでは緊張が伺えたが、今はだいぶ落ち着いているように見える。


 ご飯を食べ終えて客間で休んでいたら、家の手伝いを終えた紫音が戻ってきて白玖乃をどこかへ連れて行った。


(多分、改めて家族に紹介するんだろうな)


 紫音はそこら辺は真っ直ぐなところがあるため、おそらく家族に白玖乃を彼女として紹介するつもりなのだろう。


 最初に雅がお風呂に行き、うちがその後にお風呂に入ったが、上がってきた頃には紫音たちも戻ってきていた。


 二人はさっきよりも幸せそうな顔をしていたので、上手くいったことが察せられる。


(本当に、この二人が付き合えて良かったな)


 二人の関係が家族にも受け入れてもらえたことに内心喜びつつ、その日は疲れもあって早めに眠りについた。





 翌朝。目が覚めると白銀の世界が広がっていた。昨日、来る途中も雪を見たが、積もりたての雪を見るのは初めてだったのですごくテンションが上がった。


 だからなのか、年甲斐もなく雪で遊びたいと三人を誘ってしまった。

 白玖乃は紫音の話をすればのってくれたが、雅には断られてしまった。


 確かに雅は昨日からずっと寒そうにしてたし、雪で遊ぶのも好きそうには見えない。


(雅と遊びたかったなぁ)


 うちはそう思いながら落ち込むと、何故か雅は少しだけならと言って参加してくれることになった。


(よく分からないけど、よかった!雅と雪は似合いそうだなぁ)


 紫音はもともとどちらでも良さそうだったので、あっさり参加してくれた。


 そして四人で外に出たわけだが、うちはかまくら作りよりも雪に感動してしまい、そちらで遊ぶことに集中してしまった。


 サラサラしていて歩きにくく、手で取って空に撒けばキラキラと星のように輝く。


 しばらく一人で雪を楽しんでいると、紫音がかまくらの穴を掘ると声をかけてきて、今自分たちが何をしていたのかを思い出した。


(やばい!かまくら作り!)


 急いでスコップを持って紫音のももとへむかうと、ほぼ完成しているかまくらが目の前にあり、うちは急いで穴掘りを手伝った。


「かまくらって思ったよりも暖かくないのね」


 作ったかまくらの中に四人で入っていると、雅がそんな感想を言った。

 確かにもっと温かいのを想像していたが、特にそんな事はなかった。


 それから少しすると、紫音が午後に幼馴染が来ることを思い出したので、うちたちは急いで家に戻った。


 すると、ちょうど見たことのある女の子ともう一人、知らない女の子が家の前にいて、多賀城さんが紫音に気づいて話しかけた。


 その後、うちたちはお互いに自己紹介をし、紫音のもう一人の幼馴染、あーちゃんこと宮本あずささんと知り合うとこができた。


 しかもこの二人、なんと恋人なのだそうだ。


 この時ばかりはうちも雅も驚いてしまった。意外と同性カップルは多いのだろうか。


 それからしばらくの間は六人で話をしていたが、うちは疲れてしまい気付けば眠ってしまった。


 次に目を覚ますと、うちの目の前に雅の顔があって思わず心臓がドキッとした。

 だって好きな子の顔が寝て起きたら近くにあったのだから、当然の事だろう。


 少しすると雅も目を覚ましたのか、体を起こして時間を確認する。

 すでに夕方になっており、多賀城さんと宮本さんはそろそろ帰ると言っていた。


 寝てしまったためあまり話す事はできなかったが、また別の日に遊ぶ約束をして二人は家へと帰って行った。


 それからは出かけていた紫音の両親も帰ってきて、また昨日のようにみんなでご飯を食べる。


 ご飯を食べ終えると、白玖乃はお風呂へと行き、雅が席を外したタイミングで紫音に話しかけた。


「紫音」


「なに?」


「聞きたいことがあってね?ここら辺で一番…」


 紫音から話を聞けたうちは、雅が客間に戻ってくると、二人で少し外に行かないかと誘った。


 雅は寒いのが苦手なので断られるかもと思ったが、「わかったわ」と言って了承してくれた。


 二人で外に出たうちたちは、暗い道を転ばないように気をつけながら歩き、着いた場所は少し小高い丘で、周りには何もない開けた場所だった。


「雅、見て。星が綺麗だよ」


「わぁ。…本当ね」


 うちが紫音に教えてもらったのは、ここら辺で星が一番綺麗に見える場所だった。


 うちも空を見上げてみると、キラキラと輝く星たちが視界いっぱいに広がっていた。


 夏よりも近く感じる星は本当に綺麗で、誘ったうちも感動してしまった。


「雅、星が好きって言ってたでしょ?だから紫音に星がよく見えるところを教えてもらったんだけど」


「覚えててくれたのね。ありがとう」


 雅は星空を見上げながら、嬉しそうに感謝の言葉を伝えてくれた。


「星のこと、うちにも教えてよ」


 うちがお願いすると、雅は子供のようにはしゃぎながら星のことを教えてくれる。

 その姿がうちにはどんな星よりも輝いて見えて、彼女から視線を外すことができない。


「それでね、あの一番輝いている星がシリウスよ。シリウスは星の中で一番明るくて、光り輝くもの、焼き焦がすものって意味があるの。それから…」


「雅」


 うちは溢れる感情を我慢することができず、それを伝えるため彼女の名前を呼びながら手を握る。


「何かしら?」


 雅は少し不思議そうにしながらも、うちが真剣な話をしようとしていることに気づいたのか、私の次の言葉を待っていてくれた。


「雅。うち、雅のことが好きだ。付き合ってほしい」


 なんの捻りもない告白だが、雅は何も言わずじっとうちのことを見ている。

 だから、溢れる感情にまかせ、うちはさらに思いを彼女へと伝える。


「好きだ、大好きだ雅。最初はただ友達だと思っていたけど、紫音と白玖乃のために一緒に行動して、二人のために頑張る雅が好きになった。誰かのために頑張る雅はすごく魅力的で、うちはそんな雅から目が離せなくなった。


 星の話をしてる時、普段大人っぽい雅が子供のようにはしゃぐのを見て、その姿をもっと近くで見たいと思った。


 雅はうちにとってのシリウスだ。誰よりも強く光輝き、うちの心を焼き焦がす。


 突然こんなことを言われても困るだけかもしれないけど、それでもうちは雅が好きなんだ。だからどうか、うちと付き合ってほしい」


 溢れる感情のままに、うちは雅に想いをぶつける。若干恥ずかしいセリフも言った気がするが、嘘は言っていないので気にしない。


 雅は「ふぅ」と息を吐くと、うちのことを見ながら話し始める。


「ありがとう。何となくそんな気がしてたわ」


「…え?」


 気づかれていた?その事に驚いてしまい、思わず雅の顔を凝視してしまう。


「ふふ。何でって顔してるわね。あれだけ積極的に話しかけられて、たまに真剣な顔をして好きだ、なんて言われていれば、さすがに気づくわよ」


 雅は楽しそうに笑いながらそう言うと、彼女も真剣な顔になって話を続けた。


「私もね?一花のことは良い友達だと思っていたわ。紫音と白玖乃のために頑張るあなたを見ていると、私も頑張ろうって気になった。


 子供のように純粋で、何事も楽しそうに笑いながらやっている一花を見ていると、すごく元気付けられて、気付けば私もあなたが気になるようになっていた。


 終いには、こうして私の好きなものを覚えていくれて、私のために行動してくれた。


 こんなの、好きになっちゃうじゃない」


「え」


「私も好きよ、一花。私でよければ、あなたの恋人にしてちょうだい」


 その言葉を聞いた瞬間、私は雅のことを思い切り抱きしめた。


「絶対に幸せにする!うちがずっと雅を笑顔にさせ続けるから!」


「ふふ。ありがとう。でも私、一方的に何かをされるの好きじゃないの。だから、二人で幸せになりましょうね」


 うちたちはお互いに少し笑った後、輝く満天の星空のもと、一際輝くシリウスに見守られながら、うちたちはそっとキスをするのであった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければ同時連載しているこちらの作品もお願いします。



『すれ違う双子は近くて遠い』


https://kakuyomu.jp/works/16817330651439349994

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