かまくら

 拝啓、実家のお父さんお母さん。如何お過ごしでしょうか。


 私は今、人生初のかまくら作りをしております。

 雪というものは不思議なもので、降りたての雪はサラサラしており、雪玉が作れないほどまとまりがありません。


 また、日光を反射した雪は見ているととても目が痛くなり、思わず目を細めてしまうほどです。


 雪といえば、犬は喜び庭駆け回り、猫は炬燵で丸くなると言いますが、私の周りでは一花が犬のようにはしゃぎ周り、雅は猫のように炬燵が恋しいと震えております。


 紫音はせこせこと雪を集め、どんどんかまくらを作り進めています。

 私ですか?私は朝の雪かきで体が限界を迎え、ただただ三人を眺めております。


 気持ちは最早、休みの日に公園に連れてこられた親のような気分です。まだ高校生ですが。


 そんな訳で、今日も私は元気に過ごしております。


 お父さんとお母さんもどうかお体にはご自愛ください。橘白玖乃より。


 なんて感じで、やる事が無さすぎて意識が迷子になってしまったが、私たちは現在、外で元気に遊んでいるという訳である。





 ことの発端は、雪かきを終えて弥生さんに朝食に呼ばれ、その時に一花の発した一言だった。


「雪で遊びたい!かまくら作りたい!」


「…は?」


 私は突然のことすぎて、思わず素で聞き返してしまったが、一花は気にせず話を続ける。


「せっかくこんなに雪が積もってるんだし、かまくら作ってみたいじゃん!」


 みたいじゃんと共感を求めてくるが、私は朝の雪かきでへとへとだし、雅はあまり興味がなさそうだし、紫音は昔から遊んでいるからかどちらでも良さそうだった。


 私たちの反応が良くないからか、一花は少し頬を膨らませながら一人一人の説得を始めた。


「白玖乃。かまくら作ろう!」


「いや、でも私疲れてて」


「なら見てるだけでもいいから!お願い!」


 それは果たして私がいく必要はあるのだろうか。いるだけで良いならいなくても変わらないのでは。


 私の反応があまり良くないと思った一花は顔を寄せてくると耳元で声を絞って話しかけてくる。


「いいのか?紫音がかっこよくかまくらを作る姿を見なくて」


 かっこよくという言葉に思わず私は反応してしまい、一花はその反応を見逃さずに畳み掛けてくる。


「それに、かまくらとはいえ共同作業。新婚っぽくていいんじゃないかな?」


「行こう」


「よしっ!」


 自分で言うのもなんだが、紫音の話になると私の思考レベルは大きく低下する。

 そんな私にかっこいい、新婚なんて言葉を並べられれば、断るという選択肢にはグッバイ宣言だ。


 次に一花は雅を説得するため目を合わせると、素直に頭を下げた。


「お願いだ雅。かまくら作りに付き合ってくれ」


「いや、でも私、あまり寒いの得意じゃないのよ」


「だ、だよな。ずっと寒そうにしてたし。ごめん…雅とも一緒に遊びたかっただけなんだけど。無理言ってごめんね」


 一花はそう言うと、捨てられた子犬のようにしょんぼりとして苦笑いしている。

 彼女に耳としっぽがあれば、間違いなく垂れ下がっていることだろう。


「うっ。わ、わかったわ。少しだけよ」


「本当か!?ありがとう!」


 一花が珍しく弱気になったことが雅の放って置けないという優しさに触れたのか、雅が折れる形で参加することに同意した。


「紫音は…」


「あ、私はみんながやるならいいよ」


 紫音はあっさり参加する事が決まり、私たちはしっかりと防寒をして外に出るのであった。





 そして現在、一花が雪にはしゃいで雅が寒さに震え、紫音がスコップで雪の山を作っているのを眺めている訳だが、私はここで一つ疑問がある。


(一花。かまくら作りしてないじゃん)


 そう。私たちを誘った一花は、ここまで積もっている雪を初めて見たからか、テンション高めに雪で遊んでいるのだ。


 雪玉を作ったり、手で掬って上に雪を撒いたりと、それはもう楽しそうに遊んでいる。


「まるで犬ね」


「ほんとにね」


 横で震えている雅の一言に、私も深く同意である。


「白玖乃〜!そろそろ穴掘るよー!」


 紫音は紫音でマイペースなのか、一人でかまくら作りを進めていき、あとは穴を掘るだけの段階まで行ったようだ。


 そこでようやくかまくら作りをしていることを思い出したのか、一花はスコップを持って紫音のもとへと向かい、二人で穴を掘り進めていく。


「私たちも行きましょうか」


「そうだね」


 私と雅も小さいスコップを手に持つと、二人が作っているかまくらへと向かっていくのであった。





 かまくらが完成した私たちは、中に入って四人で車座になって座っていた。

 ただ、やはり直接触るとお尻が冷たくなってしまうため、紫音が家から持ってきたレジャーシートとクッションを敷いて座っている。


「かまくらって思ったよりも暖かくないのね」


「だね。もっと暖かいんだと思ってた」


「まぁ、今は外も日が出ててあったかいからね。そんなに変わらないと思う」


「でも、紫音が持ってきてくれたクッションのおかげでお尻は冷たくない」


 各々かまくらの感想を言っていくが、高校生四人がかまくらに入って座っているだけの絵面は何ともシュールで、周りに人がいれば間違いなく近寄ってくる人はいないだろう。


「あ、そう言えば」


「どうかしたの?」


「午後からあーちゃんとゆーちゃん来るんだった。急いで戻らないと」


 どうやら午後からは宮本さんと多賀城さんがくる予定になってるらしく、私たちは腰を低くしてかまくらから外へと出た。


 かまくら、天井低いんですよ。


 私たちが家へと戻ってくると、ちょうど宮本さんと多賀城さんも紫音の家にやって来たところのようで、家に入ろうとしていた所で出会した。


「あ、しーちゃん!」


「しーちゃん、おかえり!」


「ゆーちゃん!あーちゃん!」


 しばらくの間、三人だけで話をすると、紫音が私たちのことを二人に紹介してくれた。


「ゆーちゃんはもう会ったことあるよね?私の友達の一花と雅、あと恋人の白玖乃だよ!」


「はじめまして。日野雅よ。よろしくね」


「染園一花!よろしく!」


「橘白玖乃です。よろしく」


 私たち三人が自己紹介をすると、今度は宮本さんが挨拶をしてくれた。


「あたしは宮本あずさ。しーちゃんとゆーちゃんの幼馴染だよ。よろしく」


「あーちゃん。一つ説明たんねぇべ」


「あ、あぁ、ごめん。隣にいるゆーちゃんの彼女です」


 宮本さんの一言に、多賀城さんは満足そうに頷き、一花と雅は少し驚いた表情をしていた。


 私は前に多賀城さんから聞いていたので、特に驚いたりはしなかったが、多賀城さんは私の方を見てニマニマしていた。


「とりあえず中に入ろうか!外で立ち話も何だし!」


 紫音の言葉に従い、私たち六人は家の中へと入るのであった。





 茶の間に来た私たちは、それぞれ炬燵に入ってまったりしている。

 今の時間は、紫音の両親は買い物に出掛けており、お爺さんとお婆さんは別の部屋で休んでいるそうだ。


「夏休みぶりだね、しーちゃん」


「んだね。あーちゃんは元気にしてた?」


「もちろん!部活が忙しくて大変だけどすごく楽しいよ!」


 宮本さんはどうやらバレー部に所属しているらしく、宮城県でも強豪校で一年生ながらにレギュラーとして頑張っているそうだ。


 多賀城さんも同じ高校に通っているそうだが、多賀城さんはとくに部活には所属しておらず、帰宅部らしい。


 それでも時間が合う時は一緒に帰っているらしいし、休日はよく二人で遊んでいるらしい。なんとも仲良しなカップルである。


 その後も、宮本さんと多賀城さんの話を聞いたり私たちの話をしたり、紫音と二人の幼い頃の話を聞いて楽しい時間を過ごしていくのであった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければ同時連載しているこちらの作品もお願いします。



『すれ違う双子は近くて遠い』


https://kakuyomu.jp/works/16817330651439349994

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