お、お母さん?
ガタンゴトン揺れる電車に乗って一時間が経った。
降りる駅まだはまだかかるようなので、ここまでで私が驚いたことをいくつかまとめていこうと思う、
まず、電車の車両数がすごく少ない。例えば私の地元の電車は8両程だが、今私たちが乗っているのは3両のみだ。
次に電車に乗ってる人が少ない。これまでいくつかの駅に泊まったわけだが、あまり人が乗ってこないし、乗ってくるのもお爺さんお婆さんばかりだ。
その時たまたま近くにいたお婆さんから何故か私たちは飴をもらった。
『あらあら、これまためんこいお嬢さんばかりねぇ。よがったらこの飴け?』
『ありがとうございます!』
短いやり取りではあったが、一花と雅はお婆さんの訛りが理解できず、ポカンとしていた。
私は幸いにも、紫音が前に使っていた言葉ばかりだったのでなんとか理解することができた。
最後に景色がすごい。電車の窓から見える景色は広い田畑のみが広がり、私の実家周辺と比べると建物がかなり少なかった。
そして、そんな田畑は綺麗な銀雪の世界に変えられており、本来あるはずの田んぼや畑の境目は雪に埋もれてしまって、ただただ平らな平地へと変わっていた。
「雪、凄いね」
「本当ね。ここまで綺麗な景色は見たことないわ」
「雪って太陽の光が反射すると眩しいんだね」
私たち三人はそれぞれ目の前に広がる雪景色を見て感想を口にする。
一花だけ何故か別の感想を言っていた気もするが、それに触れるよりも景色に釘付けだった。
「そろそろ着くから準備してね」
それから30分ほどすると、紫音が私たちにそろそろ降りることを伝えてきた。
私たちは各々持ってきた荷物を手に持つと、紫音についていき電車の先頭まで向かう。
「どうして先頭まで移動したの?」
私が疑問に思ったのでそう尋ねると、紫音は振り向かずに答えてくれた。
「私たちの降りる駅は無人駅だからね。先頭で車掌さんに切符を渡さないといけないから、降りる時は先頭車両じゃないとダメなんだ」
まさかの無人駅という理由だった。無人駅という言葉自体は知っていたが、まさか自分がその無人駅を利用することになるとは思っておらず、驚きを隠せない。
その後、紫音に倣って車掌さんに切符を渡した私たちは、電車を降りて駅を見渡す。
駅自体はそれなりに綺麗だったが、どこを見渡しても確かに駅員さんらしき人は見当たらず、いるのは電車を利用する人たちばかりだった。
(というか、無人駅ってそもそも改札ないんだ)
通常であれば、切手だったりICカードを使うための改札があるはずなのだが、その改札すら見当たらず、出口にも扉があるだけだった。
ホームを出た私たちは、とりあえず駅の中にある椅子に座って紫音の指示を待つ。
「ちょっと待ってね。今お母さんに電話してみるから」
紫音はそう言うと、少し離れたところに行って電話をする。
「それにしても、凄いわね。私たちの常識が全然通じないわ」
「それな。田舎の方だとは聞いてたけど、ここまで違うとは思わなかった」
「でも、すごく落ち着いてていいところだと思う。お婆さんも優しかったし」
紫音が戻ってくるまでの間、私たち三人は各々これまでの感想を話す。
確かに雅や一花が言うように、私たちの地元と比べると人は少ないし、違うこともたくさんある。
それでも、みんな優しそうな人ばかりだし、なにより紫音が生まれ育った場所だと思うとそれだけでここが好きになれる。
それからしばらくすると、話が済んだのか紫音が私たちのところに戻ってきた。
「お待たせ。もう少しで着くって話だから、寒いと思うけど待ってて」
「わかった」
待ってる間、何を話そうか考えたとき、これから会う紫音の家族のことが気になったので、そのことを尋ねてみる。
「紫音の家族って、どんな人たち?」
「あ、それ気になる!」
「んー、どんなって言われても普通だよ?お父さんは優しいし、お母さんは料理が上手。お爺ちゃんとお婆ちゃんも優しいから、そこまで気負わなくても大丈夫だよ。
ただ、もしかしたら訛りが酷いかもだから、分からないことがあったら聞いてね」
「わかったわ」
紫音はたまにしか訛らないから忘れていたが、確かにずっとこっちに住んでいるご家族はかなり訛っているのだろう。
そんな話をしていると、どこかでみたことがあるような綺麗なお姉さんが駅の中に入ってきた。
「うぅ〜。今日もさみぃごだなぁ。っと、まだせだがや、紫音」
「もぉー、遅いよ」
「わりぃ、わりぃ。道路がすみててなかなか進まながったんだ。しゃーねぇべ?」
「んだかって、わーたちが来る時間さ伝えてたべ?友達もいんだから、あんままたせんのもよくねぇべや」
「んだなぁ。確かに紫音の言う通りだ」
怒涛の勢いで訛りながら話していた二人は、状況についていけてない私たちの方を見ると、先ほど現れた綺麗なお姉さんが謝ってくる。
「待たせてしまってごめんなさいね?貴女たちが紫音のお友達ね?」
先ほどまでバリバリ訛っていた人が突然丁寧な言葉で話しかけてきたので、その変わりように私たちは呆然としてしまう。
「は、はい。私は日野雅です。よろしくお願いします」
「うちは染園一花です!」
「橘白玖乃です。よろしくお願いします」
私が名乗ると、綺麗なお姉さんは私のことをじっと見つめてにっこりと笑い、突然抱きしめてきた。
「あなたが白玖乃さんね!」
「ちょ?!!?何してんの!!」
紫音が何か言っている気がするが、私は驚いて動くことができなかった。
「お、お姉さんは私のことを知ってるんですか?」
「あはは、お姉さんだって!紫音、聞いた?私まだお姉さんさみえっとよ!」
「んなわけねぇべ!!いいから白玖乃から離れてけろおっかー!!」
「おっかー??」
私が疑問に思いながらお姉さんのことを見ていると、お姉さんは私から体を離して紫音の隣に並び自己紹介を始めた。
「こほん。初めまして、私は
「……え?」
私たち三人はお姉さんこと紫音のお母さんをみて固まる。
だって仕方ないだろう。どう見ても20代前半くらいにしか見えない容姿と明るい性格。
お母さんというより、お姉さんと言われた方がしっくりきてしまうくらい似ている二人。
私たちが紫音と紫音のお母さんである弥生さんを見て言葉を失っていると、弥生さんが私たちに話しかけてきた。
「さて!こんなところで話すのもなんだし、家に行きましょうか!車は近くに止めてあるから、みんな移動するよー!」
(あ。この元気さ紫音と似てる)
紫音の場を和ませる明るい元気さは母親譲りなのだろうと思いながら、私たちは弥生さんのあとに続き車の場所まで向かった。
車で移動している間は、弥生さんのおかげですごく楽しかった。
弥生さんは人と話すのが上手いのか、それとも性格によるものなのかは分からないが、私たち一人一人と話をして、たまに冗談や紫音の昔の話を聞かせてくれた。
その際、私たちのことを気遣ってくれているのか、最初のように訛って話さずに標準語で話してくれた。
また、紫音と話していた時の訛りが何を意味するのか教えてもらったりもして、とても勉強にもなった。
そして、外の景色もやっぱり綺麗だった。電車から見た時も田畑に雪が積もっており綺麗だったが、町や家の屋根が雪で彩られているのも趣があって素敵だ。
そんな感じで車で移動すること数十分。もう少しで家に着くと紫音が教えてくれた。
私はいよいよ紫音の家にお邪魔するのだと思い、少しだけ緊張してしまう。
すると、助手席に座る紫音の方から視線を感じたので見てみると、私のことを見てにっこりと笑った。
(ありがと、大丈夫ってことだね)
紫音が私を勇気づけようとしてくれたことを理解した私は、彼女に答えるため一度頷く。
私の気持ちが伝わったのか、紫音も満足そうに頷くとまた前を見てしまった。
(頑張らないと。それに、紫音のお母さんは優しい人だったし大丈夫なはず)
紫音のおかげで落ち着くことができた私は改めて気合いを入れると、これから自分が何をすべきかを頭の中でまとめていくのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今回はお母さんの登場で訛りが多かったので、こちらで簡単に意味を記載しておきます!
さみぃごだなぁ→寒い
すみてて→凍ってて
んだがって→だからって
んだなぁ→そうだな
よければ同時連載しているこちらの作品もお願いします。
『すれ違う双子は近くて遠い』
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