いざ、紫音の実家へ

 イルミネーションを楽しんだ私たちは、お洒落なレストランで夕食を食べる事にした。


 本当はプレゼントを渡す予定だったのだが、私たちはお互いバイトをしていないし、誕生日プレゼントを渡し合ったばかりなので、二人でお金を出し合って少し良いところでご飯を食べようということになった。


 レストランに入って席についた私たちは、食べたい物をお互いに選んで注文をする。


 注文を終えると、紫音は珍しく少し緊張した面持ちで話しかけてきた。


「すごく、綺麗なところだね」


「そうだね。こうゆうところで食べるの初めてかも」


「私もだよ。すごく緊張する」


「ふふ。大丈夫だよ。私たちは食事をしにきただけだし、緊張してたら味がわからなくなるよ?」


「確かにそうだね」


 私がそう言うと、紫音は落ち着くためか一度深呼吸をし、私の方を見てニッコリと微笑む。


 笑うことでいつもの自分に戻ろうとしたのだろうが、正面から紫音の満面の笑みを見せられた私は、思わず胸を押さえそうになる。


(そ、その笑顔はずるい)


 何とか気持ちを抑えるため、無意識に唇を噛んでいたのか、紫音は少し立ち上がって私の唇に触れる。


「そんなに強く噛んだら血が出るよ。何かあった?」


「な、なんでもない。気にしないで」


「そう?何かあったら言ってね」


 紫音は少し心配そうにしていたが、私が何もないと言うと椅子に腰を下ろした。


 それからしばらくして、ウエイターさんが料理を運んできてテーブルの上に並べていく。


 私たちは二人ともステーキを注文したが、目の前に置かれたお肉はとても美味しそうで、良い匂いが漂ってくる。


 フォークとナイフを手に持つと、フォークでお肉を押さえてナイフで切り分ける。

 あまりの柔らかさに驚きながら、食べやすい大きさに分けたお肉を口に運ぶ。


 口に入れた瞬間、美味しすぎて私は目を見開いた。


(や、柔らかい。それにソースも美味しいし食べやすい)


 ステーキの美味しさに感動して紫音の方を見てみると、彼女もあまりの美味しさに驚いたのか動きが止まっていた。


 そんな反応をする紫音を見るのは初めてだったので、少しだけ面白かった。


 その後も二人で料理を味わった後、支払いを済ませてレストランを出た。


「すごく美味しかったね!白玖乃!」


「うん。柔らかくて美味しかった。でも…」


 私はそこで言葉を一度区切ると、紫音の方を見て目を合わせる。

 彼女は少し不思議そうに首を傾げながらも、私から目を離すことはない。


「でも、紫音のご飯も美味しい。毎日食べるなら紫音のご飯がいいかな」


「は、白玖乃」


 紫音は少し驚いた顔をすると、綺麗な白い頬を薄らと赤く染める。

 どうしたのかと少し疑問に思うが、とくに心当たりが無かったので気にしないことにする。


「この後はどうする?」


「そ、そうだなぁ。少し散歩してから帰ろうか」


「わかった」


 紫音はまだ少し落ち着きが無かったが、私たちはいつものように腕を組んで夜の街を歩く。


 今日はクリスマスイブということもあり、カップルらしき人たちも多く、中には私たちのように女の子同士で腕を組んだり手を繋いだりしている人たちもいた。


「紫音」


「なに?」


「大好きだよ」


「ありがとう。私も大好きだよ」


 周りの空気に当てられて、紫音に気持ちを伝えたくなった私は彼女に愛を伝える。

 すると紫音も嬉しそうに笑いながら、私に真っ直ぐな気持ちを伝えてくれた。


 その後、私たちは今日のデートで楽しかったことや思い出に残ったことの話をしながらアパートへと戻った。





 クリスマスイブのデートから二日が経ち、紫音の実家に行く日になった。

 私は忘れ物がないかの最終チェックと、紫音のご家族に渡す手土産を持っているかの確認をする。


「白玖乃、そろそろ行くよ?」


「わかった」


 一花と雅の二人とは、新幹線に乗る駅で待ち合わせをしているため、そこまでは紫音と二人で行く。


「あ、今日も付けてくれたんだ」


「うん!白玖乃がくれたマフラー、すごくあったかくて最高だよ!」


 紫音は私があげたマフラーを大切に使ってくれていて、どうやら今回の帰省でも使ってくれるようだ。


 かくいう私も、紫音に貰ったブレスレットは毎日必ず付けている。


 アパートの一階まで下りた私たちは、受付で茜さんに鍵を渡しながら、今年一年お世話になったこのへのお礼を伝えた。


「茜さん!今年はお世話になりました!」


「あら、二人とも。今日帰っちゃうのね」


「はい」


「こちらこそ、二人がいてくれて楽しかったわ。来年もよろしくね」


 茜さんにお世話になったお礼を伝えたあと、私たちはアパートを出て待ち合わせ場所まで向かった。





 待ち合わせ場所に着いた私と紫音は、一花と雅のことを探す。

 だが、二人はまだ来ていないようだったので、私は二人が来るまで紫音の地元の話を聞くことにした。


「ねぇ、紫音」


「なぁに?」


「紫音の地元ってどんなところ?」


「うーん、何もないところかな。あとこの時期は雪が降ってるかもね」


「雪…」


 私は生まれも育ちも神奈川なので、雪をあまり見たことがない。だから雪がみれると聞いて、少しだけ楽しみになった。


「でも、それなら寒いよね」


「どうだろ?確かに寒いかもだけど、そこまででもないよ」


「え?でも、雪が降るくらいなら寒いんじゃ」


「雪が降るとね、意外とそこまで寒くないんだよ。むしろ風が強い方が寒く感じるかも」


 紫音の言葉を聞いて私は少し驚いた。てっきり雪が降るくらいだからすごく寒いのかと思っていたが、どうやら雪よりも風の方が辛いらしい。


「お待たせー」


「あら、私たちの方が遅かったのね」


私が紫音の話に驚いていると、一花と雅が正面からやって来た。


「ううん。そんなに待ったないから大丈夫だよ!それじゃ、みんな揃ったし行こうか!」


 紫音の言葉を合図に、私たちは新幹線に乗って紫音の実家がある宮城へと出発した。


 私はこれまであまり遠出することが無かったのですごく楽しみだが、それと同時に紫音の家族に会うのだと思うと少し緊張してくる。


(頑張れ私。第一印象は大事だから、しっかりと挨拶をしないと)


 そんな緊張が紫音にも伝わったのかは分からないが、新幹線に乗っている間、彼女は私の手をずっと握っていてくれた。





 新幹線に乗ってから一時間半ほど経つと、ようやく宮城の中心地、仙台に着いた。

 新幹線を降りると、車内と外の寒暖差が激しくてすごく寒く感じる。


「さっむ!」


「た、確かに、寒いわね」


 一花と雅も寒かったのか、来ていた上着の襟元をしっかりと閉め、風が入ってこないようにしている。


「そんなにかな?っと、そんなことよりこの後どうする?この辺を見てから家に行くか、すぐに行くか」


「そうね。せっかくだし少し見ていきましょうか」


「賛成!」


「私も見ていきたい」


「分かった!」


 その後、私たちは紫音に案内されながら駅周辺を見て回る。

 特に凄かったのが、ゲームセンターやカラオケ、いろんな飲食店がずっと並んだ一本の長い商店街には驚いた。


 あとは食べ物でずんだのお団子が美味しかった。枝豆のつぶつぶした食感と甘みが口いっぱいに広がり、とても食べやすくて気に入った。


「みんなごめんね。もっと案内してあげたいんだけど、そろそろ行かないと」


「あら、そうなの?」


「うん。私の家ここから電車でさらに一時間半くらいかかるんだ」


「そうだったんだ。ならそろそろ移動しようか」


「ありがと」


 観光をそこそこに切り上げ仙台駅に戻って来た私たちは、いつものようにICカードで改札を通ろうとするが、そこで紫音からまったがかけられた。


「ごめん。私の説明不足だった。私の家の近くの駅、ICカード使えないから切符を買うんだ」


 私たち三人は紫音の言葉を聞いて驚いてしまった。何せ私たちはずっとICカードで電車を利用して来たので、まさか使えないとは思わなかったのだ。


 紫音に案内されるまま切符を買った私たちは、改めて改札を通る。


 電車の時刻が表示された電子版を見ると、意外にも電車の数は多く感じた。


「意外と電車多いんだね」


「あぁ、いろんなところに行くやつが多いから本数が多く見えるだけだよ。

 私のとこのような田舎だと、一時間に一本くらいしか出ないよ」


「ふぇ?」


 一時間に一本と聞いて、私は思わず変な声が出た。だってそうだろう。私の実家近くの駅は、10分から15分ほどに一本出る。


 それがこっちでは一時間に一本だけ。そりゃ驚いても仕方のないことだと思う。

 現に一花と雅も言葉を失って何も喋らない。


「あはは、驚いたよね。私も初めて向こうに行った時は驚いたもん」


 紫音は楽しそうに笑いながらそう言うと、駅のホームまで降りていく。

 私たち三人もそれに続き電車の前まで行くと、何故か扉が閉まっていた。


「紫音、電車の扉閉まってるんだけど」


「ふふ、そうだね。白玖乃、そこのボタン押してみて」


 私は言われるがまま扉の横についた「開く」と書かれたボタンを押した。

 すると、さっきまで閉まっていた扉が開いて中に入れるようになる。


「こっちの電車はね、扉の開け閉めは手動なんだ。向こうみたいに開けっぱなしだと、冬とか寒くて仕方がないからね」


 紫音は説明しながら電車の中に入っていき、近くの席に座った。

 私たちも彼女の近くに座ると、驚き疲れて「ふぅ」と息を吐く。


 そんな私たちを見て、紫音は少しだけ楽しそうに笑っていた。

 多分、自分が向こうに行った時と逆の反応が見れて楽しいのだろう。


 自分の生まれ育った都会とは違うこの場所で、数日間どんな経験が出来るのか楽しみだった私は、窓の外に見える広い田畑の景色を眺めながら自然と微笑んだ。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければ同時連載しているこちらの作品もお願いします。



『すれ違う双子は近くて遠い』


https://kakuyomu.jp/works/16817330651439349994

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